「病気はあるけどハートは同じ」 希少難病を知ってほしい

「2型コラーゲン異常症」という病気、知らないという人も多いと思います。

治療法が確立しておらず、特に患者の数が少ない「希少難病」で、小学4年生のらんさんは、その病気を患っています。

病気のことを知ってもらおうと、らんさんのお母さんが考えたのは、娘をモデルにした絵本でした。

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1歳の時に診断

千葉県松戸市の大塚まどかさんは、小学4年生の長女、らんさん(10)が「2型コラーゲン異常症」という希少難病です。

遺伝子の変異が原因で発育に障害がでる病気で専門機関で検査をして1歳のときに診断を受けました。

身長は1メートル6センチと同級生と比べて小柄で、視力や聴力にも障害があります。

この病気の患者数は国内でおよそ1500人と推定されますが、根本的な治療法がなく対症療法が中心で現在も4か月に一度、通院しています。

「周囲の理解・受け入れ難しい」

大塚さんは、これまで病気について周囲に理解してもらうことが難しいと感じてきました。

例えば保育園や幼稚園を探していた時も「受け入れが難しい」とあわせて20か所以上から断られ、受け入れ先が見つかるまで3年以上かかりました。

小学校でも同級生などから身長が低いことを指摘されたりからかわれたりして、らんさんが帰宅後に泣いていることもたびたびあったといいます。

大塚さん
「小さい児童は思ったことを悪気なく言ってしまうところがあるので娘が言葉による攻撃にあわないかとすごく心配でした」

そこで大塚さんは2年前、この病気を少しでも多くの人に知ってもらおうと、みずから絵本を作ることにしました。

絵本の主人公、にこちゃんのモデルはらんさんです。

にこちゃんは校庭で遊ぶのが大好きな小学2年生。

病気によって同級生よりちょっと身長が低く耳が聞こえにくかったりするため高いところに手が届かないことや体育のマット運動ができないことなどを、学校生活の中で自然な形で伝えています。

それでも、にこちゃんは自分でなんでもやってみたい女の子で、すべて助けて欲しいわけではなく「手伝ってもらえる?」と声をかけたときに手伝ってくれるとうれしいと話します。

そして、病気はあるけどハートは同じ、「チビ」とか言われるとすごく心が傷つくという素直な気持ちを伝えています。

大塚さんはみずからストーリーを考えてイラストを描き、製本して絵本に仕上げました。

絵本を示しながら呼びかけ

現在はらんさんが通う小学校に絵本を置いてもらい、同級生や新しく入学する子どもたちに絵本を読み聞かせています。

今月は新入生の保護者の説明会で、大塚さんは絵本を示しながらこう呼びかけました。

「ぜひ家庭で『今度入学する学校には背が伸びにくい病気のお姉さんがいるんだって』と話してもらえると嬉しいです。『もしあなたが見た目のことをからかわれるのをお父さんお母さんが聞いたらすごい悲しいんだよ』と自分のことと置き換えて話していただけると幸いです」

こうした取り組みもあって、らんさんは今は仲の良い友達もでき、周りの子どもたちも病気を受け止めながら自然とサポートしてくれるようになったといいます。

同じクラスの女の子
「らんさんはキャラクターが大好きなとても優しい子で一緒に遊んでます。手が届かないところがあったら『私がやるよ』と声をかけています」

大塚さんは今後、この絵本を数百冊作り全国の小学校や図書館に贈る準備を進めています。

こうした活動で希少難病の認知度があがり理解が進むことが、患者本人はもちろん周囲にいる多くの人の生きやすさにもつながるのではないかと考えています。

大塚さん
「知ってもらうことによって『そんなに怖いものじゃないんだ』とか『特別扱いしなきゃいけない訳じゃないんだ』ということが伝わってほしいと思います。そのためにも周りとつながりながらどんどん発信していこうと思います」

希少難病の患者・家族 大きな負担

希少難病は難病の中でも特に患者の数が少ない病気で、確認されている患者が国内で数人しかいない病気もあります。

厚労省によりますと指定難病の患者はおよそ100万人いるとされていますが、いまのところ希少難病にどのくらいの種類があるかや全体の患者の数なども把握できていません。

このため患者や家族はさまざまな側面で大きな負担を抱えることが指摘されています。

以下、具体的にまとめました。

【情報が少なく、診断に時間】

まずは情報が少なく、確定診断まで時間がかかるという問題です。

希少難病は一般的な病気に比べて診断が難しく、患者の中にはかかりつけ医や地域の病院を受診しても何年も確定的な診断がつかななかったという声が聞かれます。

製薬会社で作る団体が希少難病の患者を対象におととし行ったアンケート調査では体調の異変を感じてから確定診断までにかかった期間は平均で2年で、長くて十数年かかっているケースもあったということです。

同じ調査で困りごとを尋ねると、「何の病気か分からず不安だった」が67%、「情報が少なく必要な情報の取得に苦労した」が58%にのぼっています。

【治療薬や治療法が少ない】

治療薬や治療法の研究が進まないことも課題です。

患者の数が少ないことや病気のメカニズムが複雑なことなどが理由です。

製薬会社で作る団体が行った調査では、「治療薬が海外にも日本にもなくて困った」や「治療の選択肢が限られている」、「海外でも治療薬がなく研究段階だった」などの声が聞かれたということです。

【差別や偏見も】

病気に対する周囲の理解が少なく、患者や家族は差別や偏見に直面することも指摘されています。

製薬会社で作る団体が行った調査では、「一般の人の希少疾患に対する理解・関心度が低い」と回答したのは79%、「学校や職場に周囲の理解を得ることができない」が51%、「社会生活を送るうえで差別や偏見などの不利益を被ることがある」が42%にのぼっています。

【重い経済的負担】

患者や家族への経済的な負担も課題です。

医療費は子どもの場合、大部分が公費で賄われますが、研究者や医師などでつくる「健やか親子支援協会」が3年前に患者家族に行った調査では、医療費以外でも専門医がいる病院に通うための交通費やたんぱく質を抑えたりして病気に対応した食事などで、必要な費用は子ども1人あたり平均で年37万円を超えたということです。

さらに成人した場合、指定難病に認定されていない病気では治療費も加わり、大きな負担になります。

【支援活動】

こうした状況を受け、支援の動きも広がり始めています。

「健やか親子支援協会」は、診断までに時間がかかるとの声を受けて、専門医や検査機関などを紹介するサイトを開設しています。

地域のかかりつけ医に希少難病に詳しい専門医を素早く見つけてもらい早期の診断や治療につなげる狙いで、およそ200の病気を紹介し難病に特化した治験情報も提供できるように準備を進めています。

また、患者会の設立や運営の費用を年間10万円を上限に補助したり、難病の子がいる家族を支援する基金を設立し世帯に10万円を支給したりする給付事業も行っています。

「希少難病」について理解を深めてもらおうということしは全国70か所以上で病気を説明する展示やシンポジウムなどのイベントが開かれました。

理解深めてもらいたい イベント開催

2月29日の「世界希少・難治性疾患の日」にあわせて、「希少難病」について理解を深めてもらおうというイベントが開かれました。

「世界希少・難治性疾患の日」は2008年にヨーロッパで始まり国内ではことし、70か所以上でイベントが開催されています。

このうち東京・中央区の会場では、41の団体がブースを構え、病気のことや活動内容などを紹介する展示を行いました。

染色体の異常で肝臓や心臓に障害がでる「アラジール症候群」の患者会のブースでは、10万人に1人と言われる病気について知ってもらおうと患者などが作ったクッキーや病名のロゴが入ったバッグが並べられています。

患者と家族を支援する「RDD JAPAN」の西村由希子 事務局長は次のように話していました。

「ひとつひとつの病気の患者は少ないですが、あわせると大人数になります。ある日突然、自分が病気になるかもしれず遠い話ではありません。病気のことを知ってもらえば治療薬や治療法の確立につながるなどみんなが生きやすい社会になると思います」