EV減速?ハイブリッド車復権?自動車大国アメリカの実態

EV減速?ハイブリッド車復権?自動車大国アメリカの実態
気候変動対策の有力な手段として急速に進んできたEV=電気自動車へのシフト。しかし、需要が踊り場を迎えたと指摘され、アメリカの自動車メーカーからは先行きに慎重な声が相次いでいます。

一方、販売を急速に伸ばすのが、エンジンとモーターを使って走るハイブリッド車です。自動車大国アメリカで起きている変化を追いました。
(ワシントン支局・小田島拓也記者)

EV戦略 相次ぐ見直し

「EVは人気ないんだよね」

私の同僚がアメリカのレンタカー会社で“車種お任せ”で車を借りようとした際、提示されたのがEVでした。

売れているはずのEVが残っているのは「なぜ?」と思い、スタッフに尋ねると、このように実は不人気だという答えが返ってきたといいます。
個別の事例にとどまりません。1月、レンタカー大手「ハーツ」は保有する約2万台のEVを売却し、ガソリン車に再投資すると発表しました。

理由はEVの需要低迷で、よりニーズの高いガソリン車のラインナップを増やし、収益の改善を見込むとしています。

さらに、EV専業のテスラは1月、2023年12月までの3か月間の決算で、営業利益が前年同時期より50%近く減少したことを明らかにしました。

需要の伸びが鈍化する中で他メーカーとの競争は激化し、値下げを迫られたことなどが要因です。

テスラ以外の自動車メーカーも、EVへの投資の縮小などを打ち出しています。
▽ゼネラル・モーターズ デトロイト郊外の工場でEV生産開始1年延期
▽フォード       総額120億ドル分のEV投資見直し

伝統のモーターショー ハイブリッド車に脚光

EVシフトの変調を肌で感じる機会がありました。

1月に首都ワシントンで開かれた恒例のオートーショー。100年以上前に始まった伝統あるこの催しでは、ここ数年、EVが注目されてきましたが、ことしは来場者の間で特にハイブリッド車への関心が高まっていました。
日本メーカーのハイブリッド車の購入を検討しているという女性は「環境に優しい技術も、ガソリン代を節約できることも気に入っている。年に3、4回はアトランタやニューハンプシャーまで10時間くらいかけて旅行するので、充電に時間がかかるEVは選択肢にならない」と話します。

また、別の日本のハイブリッド車を入念にチェックしていた男性は「EVは充電施設に不安があるし、まだまだ高すぎる」と苦笑していました。
実際、ハイブリッド車の需要は急増しています。

2023年のアメリカ国内の販売台数は124万台余り。前年に比べて65%増えて、2年ぶりの増加となりました。

これに対し、EVの2023年の販売台数は107万台余りで、前年に比べて51%の増加です。

販売台数も増加率も、ハイブリッド車がEVを上回ったのです。
この要因についてオートショー主催団体のジョー・コークさんは、「新しい技術や商品をいち早く購入する“アーリー・アダプター”によるEV購入が一段落した」と話し、需要が一巡したと指摘します。

また「多くの消費者はEVは価格や充電の問題を抱えていると感じ、ガソリン車に比べて燃費がよく、環境面のメリットの大きいハイブリッド車が選ばれる傾向が強まっている」と分析しています。

“ハイブリッド・ルネッサンス”?

ハイブリッド車は、エンジンと電気で動くモーターの2つの動力を併せ持つ車です。今から27年前の1997年、トヨタ自動車が世界で初めて量産・発売を開始しました。

“環境に優しい”というイメージが広がって、アカデミー賞の授賞式に出席する俳優たちが乗りつけるなど、ハリウッドのスターがこぞって愛車にしたことも話題となり、急速に普及しました。

潮目が変わったのは、皮肉にも気候変動対策でした。

アメリカの環境政策をけん引する西部カリフォルニア州は、走行時に二酸化炭素を排出しないEVを重視。

2022年には、ガソリン車とともにハイブリッド車の新車販売も2035年以降は全面的に禁止する規制を決定し、ハイブリッド車に強い逆風が吹き荒れる形になりました。
こうした中で“復権”するハイブリッド車について、アメリカの有力紙も特集を組んでいます。

ニューヨーク・タイムズは「EV販売の減速 ハイブリッド・ルネサンス」と題した記事の中で、「ハイブリッドの技術で環境保護の寵児だったトヨタは、EVへの取り組みの遅さから、広く批判される存在に変わった。しかし、EVの販売減速とハイブリッド車の販売の好調さは、新たな現実を浮き彫りにしている」と、潮目が変わりつつあると指摘しています。

そして、「結局のところ業界を動かしているのは、メーカーではなく消費者だ」という北米トヨタの幹部のことばを引用しています。

今後の焦点は?

今後の焦点の1つは、バイデン政権のEV普及政策です。

アメリカ政府は、まだ価格が高いEVの普及を後押しするため、購入者に対し最大7500ドル、日本円で約110万円の税制優遇を提供する制度を設けています。

1月からは、税額優遇が購入時に受けられるようになりました。購入者は翌年の確定申告を待つ必要がなくなり、割り引いた価格で購入できるようになりましたが、対象となる条件が厳格化され、税制優遇を受けられる車が絞られる形になりました。

安全保障上の懸念から、中国やロシアなどの資本が25%以上を占める企業やグループが生産した蓄電池が使われている場合は対象外としたことなどが要因です。
さらに、状況を左右するのが11月の大統領選挙です。

EVに懐疑的なトランプ氏が政権を奪い返せば、バイデン政権の普及推進策から舵を切り、EVシフトが逆回転する可能性もあります。そうなれば、EVのメ-カーにも影響を及ぼすことは必至です。

EVの先行きを見通す戦略が重要に

普及に向けた壁に直面するEV。しかし、いまも販売台数が増加しているのは間違いのない事実です。再生可能エネルギーによる発電が進めば、気候変動対策の要であることも変わりありません。

ハイブリッド車“復権”の恩恵を大きく受ける日本の自動車メーカーも、アメリカでEV関連のばく大な投資を行っています。

足元の減速を踏まえながら、どの程度のスピードで、どのくらいの規模が普及するのか、将来の需要を確実に取り込む戦略が求められる展開になっています。

(2月19日「BS国際報道」で放送)
ワシントン支局記者
小田島拓也
2003年入局
甲府局、経済部、富山局などを経て現所属