韓国の出生率 去年0.72 過去最低を更新 8年連続で前年下回る

韓国では去年1人の女性が産む子どもの数の指標となる出生率が0.72と過去最低を更新し、少子化に歯止めがかからない状況が続いています。

韓国統計庁は、28日の会見で、1人の女性が産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」が、去年、0.72だったと発表しました。

おととしの0.78から0.06ポイント下がって過去最低を更新し、8年連続で前の年を下回りました。

また、去年1年間に生まれた子どもの数も、およそ23万人で過去最低となり、10年前と比べると半分近くまで減少しています。

韓国統計庁は、結婚しても子どもを産まない人が増加傾向にあることなどが、出生率低下の要因だと指摘していて、ことしの出生率はさらに下がり、0.7を割り込む可能性もあると推計していると説明しました。

韓国の出生率はOECD=経済協力開発機構の加盟国中、最も低い水準となっていて、少子化に歯止めがかからない状況が続いています。

今後も少子高齢化が加速していくとみられる中、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は、「これまでとは違う次元で原因と対策を講じなければならない」と危機感をあらわにしています。

また、与野党はことし4月の総選挙に向け、いずれも少子化対策を公約の柱の1つとしてアピールしていて、実効性のある対策を国を挙げて進められるかが課題となっています。

50年後の推計人口は“4割以上減少”も

韓国統計庁はおよそ50年後の2072年までの推計人口を試算した結果を、2023年12月に発表しました。

韓国の人口は2022年の夏の時点で5167万人ですが、試算によりますと「合計特殊出生率」が0.6から0.8程度で推移した場合、2072年には人口が3017万人となり、4割以上減少するとしています。

また、2036年に出生率が1を回復するとするシナリオの試算でも、2072年には3622万人と、およそ3割減るとしています。

一方、平均寿命は今後も伸びて高齢化率も増加していくとみられ、0.6から0.8程度の出生率が続いた場合、65歳以上の高齢者の割合は2072年に51.2%となり、国民の半数以上が高齢者になると試算しています。

出生率低下要因 結婚しない人の増加や晩婚化進む

韓国で出生率が低下している要因の1つとして、結婚をしない人の増加や晩婚化が進んでいることが指摘されています。

韓国では、結婚に伴って住宅の購入が必要という考え方が根強くありますが、この数年で不動産価格が大きく上昇し、購入は容易ではありません。

また、賃貸住宅も、日本円にして数百万円から数千万円をまとめて支払う韓国特有の保証金の制度があり、結婚を考える若い世代には大きな負担です。

さらに若者の厳しい就職事情もあります。

韓国では大企業と中小企業の賃金格差が大きく、待遇のよい企業を目指す若者は厳しい競争にさらされます。

大学卒業後も希望の職に就けないまま、就職活動に何年も費やし、経済的に不安定な状況が続く人は珍しくありません。

このほか、学歴重視の傾向が強い韓国では子どもの塾通いなどが過熱し、教育費が家計の収入を上回るエデュプア=教育貧困ということばまで登場していて、過度な教育費も少子化の一因と指摘されています。

30代の未婚率は2020年に男性で初めて5割を超えて50.8%となりました。

また、女性は33.6%で、およそ30年前の8倍以上に上っています。

少子化対策 日本円で30兆円余投入も

韓国では、2005年に少子化対策の法律が制定され、韓国政府は2006年からこれまでに280兆ウォン、日本円で30兆円余りを対策に投じてきました。

このうち、子育て世帯の負担軽減策として2013年から0歳児から5歳児までの子どもを対象に、所得制限のない無償保育が実施されました。

2018年には6歳未満の児童に対し、毎月10万ウォン、日本円にして1万円余りを支給する児童手当の制度を始め、その後、所得制限は撤廃されて、対象も8歳未満の児童に拡大されました。

また、育休に伴う給付金として両親が3か月ずつそれぞれ育休を取得した場合、月に最大で300万ウォン、日本円で30万円余りを支給する制度がおととし始まり、ことしになって給付期間は半年ずつに延長されました。

このほかにも公立保育園の拡充や時短勤務の両親に対する給付金、それに新婚夫婦を対象にした住宅提供などの支援策が実施されていますが、出生率の低下に歯止めがかかっていません。

ユン・ソンニョル大統領は去年3月の少子化対策会議で「科学的根拠に基づいて少子化対策を冷静に見直し、失敗した原因を把握しなければならない」と述べていました。

少子化めぐり 女性にも兵役課す選挙公約も

韓国では、ことし4月の総選挙に向けて、与野党が少子化対策を公約として、それぞれ前面に押し出しています。

与党「国民の力」は、出産に伴って父親に1か月の有給休暇を義務づけることや育休中の給付金拡大などを掲げています。

また、最大野党「共に民主党」は、新婚夫婦への新たな融資制度を創設し、出産した子どもの数に応じて利子や元金の返済を免除するとしています。

少子化をめぐっては、兵力の減少に伴う安全保障への影響も懸念されていて、韓国で現在、徴兵制の対象になっている男性だけではなく、女性にも兵役を課す公約も登場しました。

この公約は、選挙を前に結成された新党の代表が発表し、警察や消防などの採用試験を目指す女性を対象に、軍の服務を義務づけるとしています。

韓国国防省の報道官は、先月30日の定例会見で公約について見解を問われると「女性の徴兵制を検討したことはない。社会的な合意が必要であり、慎重な検討や決定がなされなければならない」と述べました。

女性の徴兵制をめぐっては3年前、大統領府のウェブサイトに女性も徴兵の対象にするように求める請願が書き込まれると、サイト上で30万人近くが賛同を示し、話題を呼びました。

韓国の公共放送KBSは今月公表した世論調査で女性の徴兵制について尋ね、▽賛成が54%、▽反対が34%でした。

また、回答者のうち女性では▽賛成が43%、▽反対が40%でした。

ソウルの若者からは経済面での不安を訴える声

韓国の出生率が過去最低を更新したことについて、ソウルで若者に聞いたところ、住宅価格や子どもを育てる費用など、経済面での不安を訴える声が多く聞かれました。

このうち、30代の女性は「子どもを産んだらお金がかかりすぎるので、結婚や出産をみんな諦めているようだ。出生率はもっと下がるのではないか」と話していました。

18歳の男子高校生は「高齢化が深刻になる中で、出生率の数値は衝撃的だ。住宅価格が高かったり、子どもを育てるのにお金がかかったりするので、結婚や出産が難しいのではないか」と話していました。

25歳の就職活動中の男性は「国が発展するためには青年層が多くいなければならないのに、出生率が下がれば減るので非常に残念だ。物価が高いし、ソウルに住宅が集中して住宅価格も高騰しているので、結婚も出産も難しい」と話していました。

37歳の男性は「私の周りで適齢期なのに結婚していない人が多く、私も同様だ。仕事などが優先されて結婚や出産をしようと思えないのではないか。外国の事例も参考にしながら、効果のある政策実行を通じて子どもを産める環境を作っていくべきだ」と話していました。

一方、21歳の女子大学生は「少子化についてふだん考えたことがなくあまり関心がない」とことば少なに話していました。

専門家 “社会全体で意識を変えていく必要”

韓国の少子化対策に詳しいニッセイ基礎研究所のキム・ミョンジュン(金明中)上席研究員は「韓国は、昔のように頑張れば成功できる社会ではない。ビッグデータの分析によれば、韓国の若者は結婚や出産よりは1人で暮らすことを楽しんでいるほか、結婚しても子どもを産まない人が増えている」と指摘します。

そのうえで、「財政支出だけで出生率が改善されないことは、韓国も日本も今までの政策から分かってきたはずだ。なぜ若者の意識が変化しているのか徹底的に分析をしてから対策を取る必要がある」との見方を示しました。

また、「日本と韓国は、特にほかの国と比べ育児と家事を担当する時間が男性に比べて女性のほうが多いのが事実だ。平等に育児と家事をする社会に変える必要がある」と述べました。

さらに、「現在では、結婚をして子どもを育てるだけでなく、結婚をせずに子育てをしたいなど、家族のあり方が多様化している。すべての子育てをする世帯が同じ制度を利用できるようにする政策が必要だ」として、社会全体で意識を変えていくことが必要だと指摘しました。