男児給食詰まらせ死亡 広がる影響 注意点は?専門家に聞く

福岡県みやま市の小学校で1年生の男子児童が給食をのどに詰まらせて死亡した事故を受けて、各地で影響が広がっています。

給食の食べ方の注意を呼びかけた学校や、市の教育委員会が緊急の通知を出して児童の観察や指導を徹底したところも。

専門家は「うずらの卵などは半分に切って出すなど周りで対策が必要」と指摘しています。
(※記事の後半に各地の自治体の対応をまとめています)

福岡市教委は緊急の通知

26日、みやま市の小学校で1年生の男子児童が給食をのどに詰まらせ亡くなりました。

市の教育委員会によりますと「みそおでん」に入っていたうずらの卵による窒息とみられるということです。

事故を受けて、福岡市は市立のすべての小中学校、それに特別支援学校に対し、窒息事故を防ぐために児童の観察や指導を徹底するよう緊急の通知を出しました。

通知では、
▽食べ物は食べやすい大きさにしてよくかんで食べることや
▽早食いの危険性の指導のほか、
▽学級担任などが児童生徒の様子を注意深く観察するよう求めています。

このほか、窒息事故が起きた場合はすぐに別の教職員に知らせて119番通報を依頼し、救急隊が到着するまでの間に背中をたたくなどの方法で、除去を試みるようあらためて注意喚起しています。

このほか福岡県教育委員会や北九州市も27日、同様の通知を出すことにしています。

“慌てずゆっくりよくかんで”

福岡市中央区の福岡市立草ヶ江小学校では、27日、うずらの卵を使った八宝菜が提供されました。

給食の前には、校内放送で全校児童に対し、慌てずゆっくりよくかんで食べるよう呼びかけられました。

また教室では担任の教諭が「水分をとりながら、口いっぱいにほおばらないよう注意して食べてください」と呼びかけていました。

4年生の女子児童は「悲しい事故が起こらないように自分も気をつけたいし、みんなにも気をつけてほしい。しっかりかんで食べて、すぐに飲み込まないように気をつけました」と話していました。

草ヶ江小学校 池田昌弘校長
「学校は安心安全が1番なので、今後も生徒指導の担当者を中心に具体的な内容を考えながら指導していきたい。保護者の方にも協力をしてもらい家庭教育の中でも指導するのが大事なことだと思う」

のどに詰まらせた場合の対応は

子どもが食べ物をのどに詰まらせて窒息した場合、どう対応すればいいのか。

日本赤十字社で指導員を務める河野真司さんに話を聞きました。

日本赤十字社 河野真司さん

河野さんによりますと、窒息した人は首に手をあてるしぐさをしたりチアノーゼという皮膚や粘膜が青紫色になる症状が出たりするということで、こうした場面ではまず救急車とAEDを手配するよう呼びかけています。

その上で、一方の手を相手の胸にあてて前かがみにさせ、肩甲骨の間をもう一方の手のひらの根元で繰り返し強く叩く「背部こう打法」を行います。

「背部こう打法」

背部こう打法で異物が出てこない場合は「腹部突き上げ法」をとります。

相手を立たせたうえで背中側から抱きかかえて握りこぶしを作りへその上に親指の面をあて、もう片方の手で握りこぶしをつかんで斜め上にぐっと突き上げる動作を繰り返します。

「腹部突き上げ法」

ただし1歳未満の乳児の場合はこの方法は適さず、代わりに胸を圧迫する方法が適切だということです。

また、窒息した人が意識をなくした場合、AEDの使用心臓マッサージを行います。

心臓マッサージにも異物を取り除く作用があるということです。

河野真司さん
「実際に窒息の場面に遭遇したら頭がパニック状態になって対応が難しい場合もあると思うが、命を助けるため勇気を持って対応してほしい」

「丸くてつるつる」した物詰まらせ 過去7人死亡

日本スポーツ振興センターは幼稚園、保育園、小中学校や高校などの管理下で起きた死亡事故のうち、2005年度から2022年度までに給付金が支払われたケースについて、学年や発生場所、事故の種類や状況などのデータをホームページ上で公表しています。

このデータをNHKが分析したところ、うずらの卵やミニトマト、それに白玉だんごなど「丸くてつるつる」した物を食べた際にのどに詰まらせた事故で7人が死亡していたことがわかりました。

事故の状況を詳しくみると、次のように記載されています。

「教室での給食中、献立『鶏肉と野菜のうま煮』の中に入っていたうずらの卵を食べ、咀嚼なしに飲み込んだためのどに詰まらせた」

「午後のおやつの時間に白玉入りフルーツポンチを食べ始めたところ、少しして咳き込み苦しそうな様子で牛乳を吐き出した。容器を見ると白玉団子がなく、のどに詰まらせていることが予想できた」

こうした記載から、同じような事故が繰り返し起きていることがうかがえます。

「半分に切って出す」など対策も

小児科医で子どもの事故に詳しいNPO法人「Safe Kids Japan」の山中龍宏理事長に、事故について聞きました。

NPO法人「Safe Kids Japan」山中龍宏理事長
「小学1年生というのは、ちょうど乳歯から大人の歯に生え替わる時期なんです。前の歯はかみ切るための歯ですが、1年生ぐらいだと前の歯が4本くらいない時期があって、かみ切ることができなくなり、食べものを吸ってしまうわけです。強い力で吸いますと、食べものがそのままの形でのどの奥の食道と気道の入り口の空間にすっぽりはまり込んでしまうことがあり、いったんはまり込んでしまうと、なかなか取り出すことができません」

一方、具体的な対策については。

「小学1、2年生ぐらいの低学年だと窒息の危険性を理解するのも難しい。うずらの卵やミニトマトなどはそのまま出さない、あるいは半分に切って出すなど周りで対策が必要だと思います」

その上で、次のように警鐘を鳴らしています。

「給食に出たうずらの卵で小学1年生が窒息し、死亡した事故は2015年にも起きている。対策をとらなければまた同じことを繰り返すおそれがある」

うずらの卵 提供見送る自治体も

各地の自治体で、事故を受けた対応が出ています。

徳島
徳島市では、市立のすべての小学校で27日、うずらの卵を使った八宝菜が給食で提供される予定でしたが、市の教育委員会が急きょ、うずらの卵をメニューから外すことを決めました。

市立の小学校はそれぞれの調理場で給食を調理していますが、27日午前、教育委員会が各小学校に指示を行い、うずらの卵を外して八宝菜を調理し、児童に提供したということです。

大分
大分県内では27日午前10時半時点で、佐伯市が学校給食でうずらの卵の提供を当面、見送ることを決めたほか、由布市でも提供をやめる方向で検討していることがわかりました。

日田市、竹田市、国東市、津久見市では、うずらの卵の提供は続けるものの給食の時間に児童たちに「ゆっくり、よくかんで食べること」などを呼びかけるよう各学校に通知するとしています。

滋賀
大津市の教育委員会は27日、市内の小中学校に給食での窒息事故防止を呼びかける緊急の通知を出しました。

大津市内の小中学校では、以前から給食で、うずらの卵や白玉だんごなど窒息事故の危険性がある食品の使用を禁止しているということですが、通知では改めて「歯やそしゃくの発達段階、個人の食べ方によってはどの食品でものどを詰まらせる原因になる可能性がある」としています。

札幌
札幌市教育委員会も市内の小・中学校や特別支援学校、あわせて298校に注意を呼びかけました。

札幌市では2013年に当時小学2年の男子児童が給食で出された果物のプラムの種をのどに詰まらせて死亡する事故があり、再発防止策としてまとめた指導マニュアルを改めて徹底するよう求めたということです。

愛媛
愛媛県内では、これまでに9つの自治体が具体的な対応を決めました。

松前町と内子町は、学校給食でのうずらの卵の提供を一時的に見合わせることにしていて、松前町では学校給食センターの今週の献立を急きょ変更しました。

一方、松山市や今治市など7つの自治体は、学校などに事故の防止対策の徹底を呼びかけていて、このうち西条市は27日朝、市内すべての小学校に文書を送りました。

鳥取
鳥取県内では27日の時点で、江府町が今後、学校給食でうずらの卵の提供を取りやめることを決めました。

また、智頭町は今回の事故を受けてメニューを検証した結果、年に3、4回提供する「白玉」について、のどに詰まらせるおそれがあるとして小学校低学年への提供を当面、見合わせる方向で検討しているということです。

このほか、日吉津村は27日、小学校の給食の時間に児童に対し、よくかんで食べることなどを指導したほか、教員に対しては児童が食べ物をのどに詰まらせたときは、各階にある緊急用のインターフォンですぐに通報することなどを改めて確認したということです。

りんご詰まらせる事故 父親「本当に残念」

学校や保育などの現場で幼い子どもが食べ物をのどに詰まらせる事故は後を絶ちません。

去年5月、愛媛県新居浜市の保育園では生後8か月の男の子が給食として出された小さくカットしたりんごをのどに詰まらせる事故がありました。

男の子は現在も意識不明の状態です。

りんごを離乳食として与える場合、国は、加熱するよう求めていますが、この園では加熱しないで提供していて、市の検証委員会が再発防止策などの検討を進めています。

男の子の父親は、26日、福岡県で起きた事故について、「保育園や学校現場での事故が相次ぐのは、本当に残念なことです。子どもに関わる大人たちは、あらためて注意を徹底して、子どもの命を守る取り組みを進めてほしい」と話していました。

文部科学省も緊急の通知

文部科学省は27日、全国の教育委員会などに、給食の時間に安全に配慮した食事指導を徹底することや、窒息の対処法を確認するよう緊急の通知を出しました。

通知では、
▽思いがけず飲み込んでしまう可能性がある丸い形状の食べ物や、
▽水分が少ない食べ物はのどに詰まらせる危険性が高く十分注意が必要だとした上で、
▽食べやすい大きさにしてよくかんで食べるよう指導し、
▽給食の時間には担任などが児童や生徒の様子を注意深く観察することなど、対応の徹底を求めています。

また、窒息事故が起きた際はすぐにほかの教職員を呼んで119番通報を頼み、救急隊が到着するまでは背中を叩いたり、お腹を突き上げるように押して詰まったものの除去を試みるよう求めています。

文部科学省によりますと、過去には2021年に新潟県佐渡市で小学5年生の男子児童が給食のパンをのどに詰まらせて亡くなったほか、2015年には大阪市で小学1年生の女子児童が給食のうずらの卵をのどに詰まらせて亡くなったとみられる事故が起きているということです。

官房長官「窒息事故防止について指導の徹底を」

また、林官房長官は午後の記者会見で「文部科学省では従前より、学校給食時における安全に配慮した食事の指導のあり方や窒息への対処方法などを周知している。今回の事案を受けて、窒息事故の防止について改めて各都道府県教育委員会などに対し指導の徹底を求め、再発防止に努めていくと聞いている」と述べました。