1月の消費者物価指数 前年同月比で2.0%上昇 5か月連続の2%台

家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる1月の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、去年の同じ月より2.0%上昇しました。上昇率を詳しくみると、賃上げの動きなどを背景に「サービス」が食料などを含む「財」を2年10か月ぶりに上回りました。

総務省によりますと、1月の消費者物価指数は生鮮食品を除いた指数が2020年の平均を100として去年1月の104.3から106.4に上昇し、上昇率は2.0%でした。

前の月から0.3ポイント下がり、5か月連続で2%台となりました。

具体的にみると
▽「宿泊料」は26.9%、
▽外食の「フライドチキン」は19.2%、
▽「鶏卵」は18.3%、
▽「調理カレー」は15.7%、
▽「アイスクリーム」は12.1%上昇しています。

また、上昇率を食料やエネルギーなどを含む「財」と外食や運輸・通信などを含む「サービス」で比較すると、「サービス」は2.2%の上昇となり、「生鮮食品を除く財」の1.9%を上回りました。

「サービス」が「財」を上回ったのは2021年3月以来、2年10か月ぶりです。

「サービス」は人件費の増加が反映されやすいとされ、総務省によりますと賃上げの動きが相次いでいることなどを背景に上昇傾向になっているということです。

総務省は「食料の値上がりは落ち着いてきているが、サービスでは宿泊料や家事関連のほか、輸送力不足が懸念される『物流の2024年問題』の影響を受ける運送料などで、人件費を価格転嫁する動きが広がってきている」としています。

値上げ後もサービス拡充 業績伸ばす学習塾

賃上げを進める企業がサービス価格を引き上げる動きが広がっていますが、値上げの後もサービスの拡充で業績を伸ばすケースもあります。

愛知県岡崎市にある小学生から高校生まで150人余りが通う学習塾では、去年3月に毎月の受講料を10人までの少人数の講座は平均で5%程度、個別授業の講座は平均で23%程度、値上げしました。

値上げをした背景には、子どもたちを指導する講師を確保するための賃上げがあります。

この学習塾では講師は10人余りが働いていて、アルバイトの大学生が多いということです。ほかの業界でもアルバイトの時給が上がり人材の奪い合いが起きていると感じ、このままでは採用が難しくなると考えました。

このためアルバイトを募集する際の時給をそれまでの1300円から、現在は最高で1800円まで引き上げました。

一方で、学習塾では受講料の値上げを受け入れてもらおうと、値上げで確保できた資金の一部を原資にして子どもや保護者の希望などを踏まえてサービスを拡充しました。

具体的には、パソコンなどを新たに購入し、プログラミングのコースを新たに設置したほか、毎回の授業で行う小テストの答案の画像を保護者に通信アプリの「LINE」で送信するサービスも始めました。このほか、自習室を利用しやすくしたほか、3月からは画像を活用して子どもたちによりわかりやすい授業にしようと電子黒板を導入します。

こうしたサービスの拡充で、この学習塾では値上げの後も全体の生徒数を伸ばしているということです。

小学生の子どもを塾に通わせている保護者の1人は「子どもの特徴をとらえたとてもきめこまやかなサービスが受けられ、貴重な機会なので値上げもいたしかたないと考えています」と話しています。

「学習塾カレッジ」の西川賢塾長は「提供するサービスが何も変わらず値上げするのは、納得してもらえないのではないかという不安があった。保護者への情報提供や生徒へのこまやかな対応を今後もより充実させていきたい」と話しています。

引っ越しシーズン「賃上げ必要」と値上げ相次ぐ

これから春の引っ越しシーズンを迎えますが、人材を確保するための賃上げが必要だとして料金を値上げする会社が相次いでいます。

東京 中央区に本社を置く従業員およそ250人の運送会社では、企業や個人から年間およそ6万件の引っ越しの依頼を受けています。

この会社では去年11月に引っ越しの料金をおよそ10%値上げしました。さらに、この春から引っ越し先までの距離がおよそ200キロ以上の場合について、およそ10%の値上げを行う方針です。

値上げの背景には、人材を確保するための賃上げや、ことし4月からトラックドライバーの時間外労働の規制強化で人手不足の深刻化が懸念される「2024年問題」があると言います。

この会社では、首都圏の1都3県で働く正社員の現場スタッフの月給を2月から5.5%引き上げたほか、ことし8月からは全国で働く正社員の現場スタッフの月給も2%から3%引き上げる方針です。

会社では人手が足りずに引っ越しの依頼を断らざるを得ないケースがあり、待遇をよくすることで人材の確保につなげたいとしています。

また、「2024年問題」への対応が課題となる中、ドライバーの確保が難しくなっていて、賃上げを行うための料金の値上げが必要だと判断しました。

「アップル引越センター」の文字放想 社長は「引っ越しの業界でも今までは仕事をどう取るのかに比重が置かれていたが、これからはスタッフを確保できないから売り上げが上がらないという状況が顕著になってくると思う。スタッフの給料を上げて待遇をよくすることとお客向けの単価を上げる、そういう流れがしばらく続くと感じている」と話しています。

専門家「収入より支出の物価が低い状況 実現する必要」

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「サービス価格は賃金に連動するという形で少しずつ上がってきている。サービス価格が上がるかどうかは経営者の賃上げのムードがどれくらい強まっているのかを見るうえでも重要だ」と指摘します。

また、サービス価格の動向が日銀の政策判断の大きなポイントになるとみられることについて「賃上げの動きがさらに進んでサービス価格の上昇というのがこれからどれぐらい勢いづくかを見ながら、冷静に判断していくと思う。好循環ということが非常に重要なポイントになっていて、収入よりも支出の物価が低い状況を実現する必要があり、そのためにはやはり賃上げの動きがどれくらい加速するのか、これによって日銀の金融政策の強さも変わってくると考えている」と話しています。

好循環つくるにはサービス価格の上昇が重要

「サービス」の上昇率はおととし7月まではマイナスでしたが、その後、プラスに転じて去年11月には2.3%まで上がり、消費税率引き上げの影響を除くと、およそ30年ぶりの高い水準となりました。

そして先月1月は2.2%の上昇となり「生鮮食品を除く財」の1.9%を上回りました。

「サービス」はこれまでは価格の変動が小さい品目が多いとされ、このことが賃金が上がりにくい要因の1つだと指摘されてきました。

食料などの「財」と比べると、人件費の増加が反映されやすいことや「財」よりも遅れて上昇することが特徴とされています。

今後は、ことしの春闘での賃上げを受けた価格転嫁や、この春の水道などの公共料金の値上げがサービスの価格にどこまで反映されるのかが注目されます。

日銀は2%の物価安定目標の達成に向け賃金と物価がともに上昇する好循環を重視していて、この好循環をつくるためにはサービス価格の上昇が重要だとされています。

そしてサービス価格の動向はマイナス金利政策を転換するかどうかを判断する大きなポイントになるとみられます。

植田総裁は去年12月のNHKのインタビューの中で、2%の物価安定目標の達成に向け賃金と物価の好循環ができているかを見極める上でのポイントについて「春の賃金改定、それからここまでの賃金の動きがサービス価格にどう反映されていくか、この2点になる」と述べ、春闘での賃上げの動向に加えて、これまで上昇した賃金が物価に波及するかを丁寧に見たいという考えを示しました。

「財」と「サービス」

消費者物価指数は食料などの「財」と「サービス」の価格の平均的な変動を調査したものです。

「財」には食料や機械、家具などの目に見える「モノ」が主な対象となりますが、電気代や都市ガス代といったエネルギーも含まれます。

一方、「サービス」は教育や理美容、医療、運輸など、役務の提供や労働の対価とされます。

働く人の賃金が上がると、それに連動して「サービス」の価格も上昇するケースが多いとされています。