スウェーデンのNATO加盟 全加盟国が承認へ 32か国へと拡大

北欧スウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟について、26日、ハンガリーの議会で採決が行われ承認される見通しです。これによりすべての加盟国が承認することになり、世界最大の軍事同盟のNATOは32か国へと拡大します。

スウェーデンはロシアの軍事侵攻を受けて長年、続けてきた軍事的中立の方針を転換し、おととし5月、ロシアと国境を接するフィンランドとともにNATOへの加盟を申請しました。

加盟にはすべてのNATO加盟国の承認が必要で、フィンランドの加盟は去年4月に実現したものの、スウェーデンについては、トルコとハンガリーが承認せず、難航してきました。

このうちトルコは先月承認し、ハンガリーでは現地時間の26日午後、日本時間の26日夜、議会が開かれ、スウェーデンのNATO加盟について承認の採決が行われます。

これに先立ち、今月23日に首都ブダペストでスウェーデンのクリステション首相と会談したハンガリーのオルバン首相は「お互いに対する完全な信頼を再構築することができた」などと述べ、議会で加盟が承認されるという見通しを示しました。

承認されれば、スウェーデンの加盟が決まり、NATOは32か国へと拡大します。

NATOにとってはフィンランドに続きスウェーデンも加盟することでロシアと対じするうえで戦略的に重要なバルト海を加盟国で囲むことになり、安全保障が一段と強化されることになります。

スウェーデン加盟への経緯は

スウェーデンは、200年以上にわたって軍事的中立の方針を掲げてきましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて方針を転換することを決めました。

軍事侵攻が始まったおよそ3か月後のおととし5月、同じく軍事的な中立の方針を掲げてきたフィンランドとともにNATOへの加盟を申請しました。

NATOの加盟には、加盟国すべての承認が必要で、フィンランドは申請をしたおよそ1年後の去年4月にNATOの31番目の加盟国となりました。

しかしスウェーデンについては、トルコとハンガリーが承認せず、加盟に向けて大きな障壁となってきました。

このうちトルコは、スウェーデンが自国からの分離独立を掲げるクルド人武装組織のメンバーなどを支援していると主張し、難色を示してきました。

スウェーデンはトルコとの協議を重ね、トルコが求めてきたクルド人武装組織への対策などで具体的な措置を示し、トルコ側は進展がみられたなどとして先月議会で加盟を承認しました。

一方、ハンガリー政府は承認しない理由を明確にせず、オルバン首相が政治的な駆け引きの材料に利用していたという見方もあります。

しかし、トルコが承認し、アメリカなどNATOのほかの加盟国が圧力をかける中、今回、議会が承認の採決をすることになりました。

専門家「NATOがバルト海の支配権握る ロシアに大きな打撃」

スウェーデンのNATO加盟について、RUSI=イギリス王立防衛安全保障研究所のニール・メルビン部長は「北欧全体がNATOの領域となり、NATOはバルト海の支配権を握ることになる。ロシアにとって戦略的に大きな打撃だ」と指摘します。

このうちスウェーデンの航空戦力について「ロシアの最新鋭のものよりはるかに高性能な戦闘機を90機以上保有している。NATOの戦闘空間は大きく拡大する」としたうえで、海軍力についても「バルト海で運用するために設計された、極めて静かで探知が難しいディーゼル潜水艦を保有し、ロシアの潜水艦や水上艦が活動するのが難しくなる」と分析しています。

そして、スウェーデンの加盟によって特にエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国の安全保障が強化されるとし「バルト海沿岸にあるロシアの飛び地カリーニングラードは高度に軍事化され、バルト三国にとって脅威とみなされてきた。しかし、バルト海に浮かぶスウェーデンのゴットランド島を空母のように運用し、NATOの航空機を発着させれば、ロシア側が飛び地を守るのは難しくなり、形勢が逆転する」と説明します。

また、ロシアについては「核戦力を配置している北部のすぐそばでNATOの存在感が強くなったことで、国境の兵力を増強する必要に迫られている。しかし、現在は戦力のほとんどをウクライナ侵攻に投入しているため、数年間にわたり多大な費用と労力をかけて兵士を追加動員しなければならないだろう」と述べ、プーチン大統領にとって大きな誤算だという見方を示しました。

一方で、スウェーデンの加盟についてトルコやハンガリーが慎重な姿勢を示したため、申請から2年近くかかったことに触れ、32か国に拡大するNATOは意思決定に、より多くの調整が必要になると課題を挙げます。

そのうえで、アメリカで再選を目指すトランプ前大統領がNATOへの関与に消極的な姿勢を示していることを念頭に「アメリカが果たす役割に各国が疑問を抱くようになれば同盟が求心力を失いかねない」と指摘します。

加盟めぐり授業で議論する場を設けている学校も

NATOへの加盟をめぐりスウェーデンでは、授業で議論する場を設けている学校もあります。

スウェーデンは、18歳以上の男女を対象に徴兵制を導入しています。

北部の都市、ルレオの高校では、NATOの加盟は将来、兵士になる可能性がある生徒にとって重要な問題だとして、17歳から18歳の生徒を中心に加盟の意義や是非について授業で議論を行っています。

NHKが取材で訪れた今月7日も、およそ20人の生徒が教室に集まり、教師とともに意見を出し合っていました。

多くの生徒からは「ウクライナ侵攻が始まってから、ロシアからの脅威は増した。国を守るためにもNATO加盟には賛成だ」などと加盟に前向きな声が聞かれました。

一方で、授業に参加した男子生徒の1人は取材に対し「加盟国を守るために戦って死ぬかもしれないことは怖いが、NATO加盟は戦争が起きるのを防ぐためでもある。さまざまな感情が入り交じる」と話し、複雑な心境も聞かれました。

学校は今後も、授業で生徒に考える機会を設けたいとしています。