保護者が就活に!?広がる「オヤカク」

保護者が就活に!?広がる「オヤカク」
まもなく大学生の就職活動が本格化しますが、最近の就活市場に広がるこんなことばを知っていますか。

「オヤカク(親確)」

企業が学生に内定を出す際に、保護者の確認を事前に取っておくことを意味します。
就職情報サイトの調査では、就活生の保護者の半数以上が、企業から「オヤカク」を受けたと回答しました。
企業と学生との間で行われる就職活動になぜ保護者が関わるようになっているのでしょうか。

(大阪放送局 木村真実記者 蜘手美鶴記者)

広がる「オヤカク」

「オヤカク」の方法はさまざまです。

子どもの内定企業から保護者に「内定を出しますが賛成してくれますか」といった電話がかかってきたり、「入社誓約書」などの文書に保護者の署名欄が設けられたりします。

誓約書には「提出後は、正当な理由なく入社を拒否しません」などと書かれています。

就職情報サイト「マイナビ」は、この春就職する予定の大学生や大学院生などの保護者851人を対象に、子どもの内定企業から連絡を受けたことがあるかどうか、2024年1月に調査を行いました。
その結果、「オヤカク」を受けたという保護者が半数以上の52.4%に上り、6年前の調査の17.7%から大幅に増えたということです。

このほか、「内定式や入社式への招待」が17.3%、「保護者向けの資料の送付」が8.6%でした。

学生や保護者 どう思う?

就職活動中の学生や保護者の世代からはさまざまな意見が聞かれました。
「オヤカク」を経験した就職活動中の大学院生
「内定した企業から、親に連絡してほしいと言われて、内定の承諾について親に確認しました。企業側の意図が分からなかったので、少し戸惑いました。自分が何をしたいのかを考えて就職活動をしていたので親の意向はあまり関係ないと思っていました」
大学生
「自分ひとりの考えよりも、親に相談して意見を聞いた方がいいかなと思います」
50代の母親
「大学を卒業して社会に出る年齢なので、就職については自分で決めて自立してほしいです」

高校3年生の娘
「最終的には自分で決めますが、何かあったら助けてくれると思うので親には相談します」

「オヤカク」広まるワケは

就職情報サイトが今年度の内定者を対象に、内定先を決めた際の相談相手を調査したところ「父親や母親」が最も多く61.9%でした。

就職情報サイトの担当者は、親子関係の変化が「オヤカク」が広まる背景の1つとみています。
就職情報サイト 長谷川洋介 研究員
「少子高齢化で大学生人口も減少し、新卒採用の人材獲得競争がよりいっそう激化しており、いわゆる『売手市場』になっていることが背景にあります。また、親子関係がよりフランクになって、相談しやすい間柄の仲のよい親子が増えたのではないかと思います。子どもの内定に保護者が賛成することで、内定者の入社意欲につながるため、今後も『オヤカク』に取り組む企業は増えてくるのではないでしょうか」

「オヤオリ」も実施

企業から保護者へのアプローチは「オヤカク」だけではありません。

大阪府内のIT企業では2023年12月、「オヤオリ」が行われました。

「オヤオリ」とは「親対象のオリエンテーション」のことで、内定者の保護者向けの説明会などを意味します。

ねらいは保護者と一緒に職場を見てもらい、会社への理解を深めてもらうことです。

学生が就職先の会社を選ぶ際、保護者の意見を重視する傾向にあることから開催しました。
この日の説明会には、内定者5人と保護者8人が参加しました。

会社の担当者は、仕事の内容や業績の安定性などを説明し、保護者を安心させるためのアピールをします。
また、多くの社員が社内にいる平日の夕方にあえて説明会を行い、実際に働いている様子を見学できるオフィスツアーや先輩社員を交えた懇親会も開きました。
内定者の母親
「息子が働く職場が気になったので来ました。息子が会社の人と話す様子も見ることができて、もうなじんでいるんだなと安心できました。来てよかったです。仕事で悩むことはあると思うんですけど人間関係で悩まず、生き生きと働いてほしいです」

内定者
「母が会社の人と何を話すのか、恥ずかしさもありましたが、どんな会社か知ってもらえたし、他の内定者の家族とも仲よくなれたのでよかったです」
「オヤオリ」を企画した石井雄輔さん
「内定後に冷静になって、この会社大丈夫だろうかと考えて不安になってしまう学生さんがいます。内定者にとって一番身近な保護者に会社のことを知ってもらい、後押ししてくれることで、選びやすい会社になると思います。保護者の方に実際に会社に来てもらって、雰囲気のよさを伝えることができてよかったです」

保護者向けパンフレット 作成依頼相次ぐ

企業の採用活動の支援などを行う人材コンサルティング会社には、保護者に向けた会社案内のパンフレットの作成依頼が相次いでいます。

初めて作成したのは9年前。

その後、継続的に依頼がくるようになり、ことしもすでに5社から依頼がきています。

事業の性質上、個人にあまり知られていないIT企業などを中心に、企業からの相談も増えているということです。
大阪府内のIT企業のパンフレットには、社長から保護者に向けたメッセージが6ページにわたり記載されています。
「不況を乗り越える自信があります」

「社員の生活に一生責任持つと誓います」

「社員達は宝であり誇りです」
人材コンサルティング会社 手島麻帆さん
「内定の辞退を防ぎたいという企業が増えていて、保護者に向けて働きかけをしたいという依頼が続いています。保護者は、子どもの内定先の情報が少ないと不安になると思うので、情報を伝えて不安を払拭するのが効果的です」

取材後記

私(木村)はおととしまで就職活動をしていました。

当時、人事担当者から「保護者の方はどう思っているの?」などと会話の中で両親の意向を確認されたことが何度かありました。
雑談だと思って特に気にしていませんでしたが、今考えると「オヤカク」がしたかったのかもしれないなと思いました。

今回、取材で伺った「オヤオリ」の現場は、想像以上に和気あいあいとした雰囲気でした。

企業、学生そして保護者、それぞれが納得のいく就職先を決めるうえで「オヤカク」や「オヤオリ」はひとつの選択肢になってきているように感じました。

(2月16日「ほっと関西」で放送)
大阪放送局 記者
木村真実
2023年入局
災害や教育の取材を担当
大阪放送局 記者
蜘手美鶴
新聞社を経て2024年入局
国際関係や多文化共生などについて取材