“ロシアの兵器を輸送”制裁船舶の航路分析 関係国行き来 確認

ロシアの兵器を輸送しているなどとして、アメリカ政府が制裁を科している船舶の航路をNHKが分析したところ、ロシアの一部の船舶が中東などの関係が深い国と最近も行き来していることが確認されました。

アメリカ国務省はおととし、2022年5月、ロシア国防省のために戦車や軍事装備品を輸送しているなどとして、ロシアの海運会社が運航する69隻の船舶を新たに資産凍結などの制裁対象に加えると発表しています。

NHKは、それらの船舶の去年10月以降の航路を独自に分析しました。

その結果、13隻については、ロシアから国外へ出港したり、国外からロシアの港に到着したりしていることが確認されました。

黒海や地中海を航行して、ロシアと関係の深い中東のトルコやエジプトに寄港している船が合わせて6隻あり、このうちの1隻は10月9日に、海軍基地もあるロシア南部ノボロシースクを出港し、10月15日にエジプト北部のアレクサンドリアに寄港していて、ことし1月までの間に同じルートを4回往復していました。

このほか、ロシアが一方的に併合したクリミア付近からトルコ南部の港に向かう船舶も確認できました。

一方、13隻のうちの5隻はカスピ海を航行し、イランに寄港していました。

公開情報では、いずれの船も積み荷については明らかになっていません。

ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之 研究員は、多くの船舶が黒海から地中海に抜ける航路を通っていることに注目し「トルコが管理するボスポラス海峡やダーダネルス海峡が、ロシアにとって生命線になっている可能性がある」と指摘しています。

そのうえで「ウクライナ戦争や国家としての生存を支えるためにロシアが重要な物資として捉えている戦略的な品目を、さまざまな手段を用いて搬入しているとみられる」と述べ、これらの船が兵器などの軍事物資を運んでいる可能性もあると指摘しています。

一方、イランの港との往来が活発なことについては「通商の面でカスピ海の重要性が浮き彫りになった。無人機をイランから輸入する主要な航路となっている可能性がある」と分析しています。

ロシア海運会社の船舶の輸出入 実態は

NHKでは、いわゆる「制裁逃れ」の実態などを調査しているアメリカの研究機関、C4ADSからロシアの輸出入の記録の提供を受け、制裁の対象となったロシアの海運会社の船舶が運んでいた物資を分析しました。

提供を受けた記録は、ロシア国防省のために兵器などを輸送しているとしてアメリカ政府から制裁の対象となったロシアの海運会社2社についてのもので、おととし2月のウクライナ侵攻のあとから去年6月までの300件ほどの輸出入記録です。

記録には輸出入の日時や物品、出発や到着した国などの詳細が書かれています。

ロシアへの輸入記録の中には、船舶設備の代替部品、金属製品、それに船舶用のエンジンやエンジン部品といった物資も含まれていて、一部には「軍事用ではない」と補足の説明を加えているものもありました。

これらの物資は、アメリカ政府が海運会社に制裁を科したおととし5月より前はドイツやポーランドなどのヨーロッパの国からも輸入されていましたが、その後の主な輸入元はトルコとなっています。

ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之 研究員は「エンジンなどの物資が継続的に入っているという印象だ。民生品という扱いでロシアに入っているがすぐさま軍事転用も可能だ」として、物資が軍事転用されている可能性もあると分析しています。

兵器不足が指摘されるロシア 北朝鮮やイランから調達か

欧米などからの制裁を受けて兵器不足が指摘されているロシアは、北朝鮮やイランから弾薬などの兵器を調達しているとみられています。

アメリカ政府は、北朝鮮から弾薬などの軍事物資がロシア極東の港を経由して南部の弾薬庫まで運ばれたと去年10月に発表しています。

また、ウクライナのメディアなどは検察当局の話として、去年12月末から2月上旬までの間に、ロシアがウクライナへ向けて発射した北朝鮮の弾道ミサイルは24発に上り、この攻撃で少なくとも市民14人が死亡したと伝えています。

ウクライナ当局は初期の調査報告として、発射されたのは、2種類の短距離弾道ミサイルだとしたうえで、発射されたうち2発のみが「比較的正確だった」としています。

一方、ウクライナは、ロシアがイランから供与を受けた自爆型の無人機を攻撃に使用していると繰り返し指摘しています。

また、アメリカ・ホワイトハウスの高官は、2月22日、イランがロシアに対してこれまでに多くの無人機や誘導爆弾、弾薬を提供していると指摘しました。

そのうえで、イランがロシアに短距離弾道ミサイルを供与する交渉が進んでいるとしています。

イラン政府は、ウクライナで使われる兵器のロシアへの供与について一貫して否定しています。

“ロシアの兵器 「制裁逃れ」の輸入部品が使われる”

ロシアの兵器には、制裁を回避して外国から輸入した部品が多く使われていると指摘されています。

アメリカやウクライナなどの研究者らが参加し、ロシアに対する制裁の効果を調べているグループは、侵攻でこれまでロシアが使用したミサイルや無人機などから見つかった外国製の部品およそ2800個について、調査報告書を1月に公表しました。

見つかった部品には、兵器に転用されるおそれがあるとして欧米や日本がロシアへの輸出を規制している集積回路やカメラなどが含まれるということです。

部品の生産国は
▽アメリカが72%と最も多く
▽次いでスイスが6%
▽日本が5%
▽中国が4%などとなっています。

こうした部品は、生産国から複数の業者にわたったあと、中国やトルコ、UAE=アラブ首長国連邦など、第三国を経由してロシアに輸入されていると指摘しています。

報告書によりますと、おととし、制裁で規制されている部品に関わるロシアの輸入額は一時、侵攻前と比べて5割ほどに減少していました。

しかし、去年1月から10月までの輸入額は、87億7000万ドルに上っていて、これは侵攻前と比べて10%ほどしか減少しておらず、「ロシアは制裁によって当初影響を受けたが、大幅に回復している」と指摘しています。

調査に参加したメンバーで、首都キーウのシンクタンクでシニアエコノミストを務めているベンジャミン・ヒルゲンシュトック氏は「われわれが規制すべき部品についてもロシアは依然としてその多くを輸入できている。各国の輸出規制には深刻な問題がある。民間セクターも効果的にサプライチェーンを管理できていない」と指摘しました。

そのうえで「ロシアは誘導兵器などに利用するために外国製部品を必要としている。輸出規制だけで戦争を終わらせることはできないが、ミサイルや無人機に必要な部品が入手できなくなれば、ウクライナへの攻撃を減らすことができる」と強調しました。