中国の日本産水産物輸入停止発表から半年 規制長期化か 専門家

福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出を受けて、中国が、日本産水産物の輸入を停止すると発表してから24日で半年です。日本政府は規制の即時撤廃を求めていますが、中国側は応じる姿勢を見せておらず、専門家からは規制が長期化するという見方も出ています。

中国政府は、東京電力福島第一原発にたまる処理水を「核汚染水」と呼んで放出に強く反発し、去年8月に日本産水産物の輸入を全面的に停止すると発表しました。

日本政府は、「科学的根拠に基づかない」として、規制の即時撤廃を求めていて、今月20日には中国に駐在する金杉憲治大使が黄潤秋生態環境相と会談し、専門家らによる科学的見地からの議論が重要だと強調しました。

これに対し、中国側は、日本の近隣諸国も参加する国際的なモニタリング体制の構築を求めていて、輸入停止措置の解除に応じる姿勢は示していません。

こうした中国側の姿勢について、中国の政治や社会に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は、外交的、戦略的な思惑があると分析しています。

興梠教授は、日本が先端半導体の製造装置の輸出管理を厳しくしていることに中国が強く反発していることを例に挙げ「日本側に緩和を求めるための交渉カードとして水産物の輸入停止措置を利用する可能性がある。だからそう簡単に手放さないだろう」と述べ、規制が長期化するという見方を示しています。

ホタテの輸出先をインドネシアに 商談進める

中国が日本産の水産物の輸入を停止してから半年となるなか、北海道南部にある八雲町の水産加工会社では、中国に代わる輸出先を確保しようと、インドネシアの水産加工会社と商談を進めています。

この会社では、年間で取り扱うホタテ2万トンのうちおよそ7割を中国に輸出していました。

去年8月の中国による輸入停止措置で主要な販路を失うことになり、多い時には、在庫が4000トン、積み上がるなど、大きな影響を受けています。

来月から、北海道南部の噴火湾沿いでホタテの水揚げがピークを迎えるのを前に、この会社が中国に代わる輸出先として考えているのが、受け入れている多くの技能実習生の出身国のインドネシアです。

首都ジャカルタから車でおよそ1時間半の場所に工場を構える現地の水産加工会社と商談を進めていて、すでにおよそ150トンのホタテを試験的に輸出しています。

現地の工場で殻むきなどの加工をしてもらう計画で、加工後の販路の開拓なども協力していきたいとしています。

「イチヤママル長谷川水産」の長谷川博之社長は「中国が輸入を再開してもまた同じように輸入停止になる可能性は否定できない。リスク分散として中国以外の国での販路拡大を考えておくべきだと思っている」と話していて、来月には、アメリカで開かれる海産物の展示会にも参加する予定だということです。

ネット通販など国内の販路拡大へ

中国が日本産の水産物の輸入を停止して半年となるなか、北海道函館市の水産加工会社では消費者向けのネット通販や飲食店との取り引きを始めるなど、国内の販路拡大に取り組んでいます。

中国向けのホタテの輸出が売り上げ全体の4分の1を占めていたこの会社は、売り上げの落ち込みをカバーしようと、去年9月から消費者向けの通販サイトを立ち上げました。

およそ3か月間で、中国向けに輸出する予定だった量の半分以上を販売することができ、売り上げは4000万円余りに上るということです。

また、ネット通販をきっかけに愛媛県の飲食店との取り引きも始まり、今月からは、この飲食店が開発した、ホタテを使った冷凍ピザを通販サイトで販売する取り組みも始めています。

水産加工会社「きゅういち」の藪ノ賢次社長は「これまでは中国向けの輸出や国内の大手企業などとの大口の取り引きが多かったが、今後はリスク分散のためにも、消費者や飲食店などへの販売にも力を入れ、顧客数を増やすことで、経営基盤を安定させたい」と話しています。

中国 市民の間では日本産水産物輸入再開に期待の声も

福島第一原発にたまる処理水の海への放出のあと、中国の市民の間では当初、警戒感から水産物の消費を控える動きも広がりましたが、このところは消費が戻ってきています。

北京に先月オープンした日本の回転ずしチェーンの店舗は行列ができるほどの人気になっていて、週末には待ち時間が3時間近くになることもあるといいます。

食事に訪れた人からは、処理水の放出について「少しは心配だが、水産物を食べることに影響するほどではない」とか「本当に問題なら日本でとうに問題が起きているはずだが、そうでないということは安全なのだろう」といった声が聞かれました。

また、上海中心部にある日本の海鮮料理を提供する居酒屋では、一時は、売り上げが9割ほど減ったといいます。

しかし、安心して食べてもらえるようSNSでの宣伝に力を入れるなどしたところ、去年11月ごろから徐々に客が戻ってきたということです。

訪れた客からは「日本の海鮮と銘打つなら、本場のものが食べたい」とか「輸入が再開されるなら、喜んで食べる」などと、日本産水産物の輸入再開に期待する声も聞かれました。

居酒屋のオーナーの岩崎昭彦さんは「中国の市民の間では、海鮮離れは起きていない。日本の魚のおいしさを早く中国のお客様に伝えていきたい」と話し、輸入再開に期待を示しています。

中国外務省報道官「輸入停止措置 完全に正当だ」

中国外務省の毛寧報道官は23日の記者会見で、日本産水産物の輸入停止措置について「食品の安全と国民の健康を守るために、完全に正当で合理的かつ必要なものだ」と述べました。

また、毛報道官は処理水を「核汚染水」と呼んで「日本側は責任ある方法で『核汚染水』を処理すべきで、海洋放出が取り返しのつかない結果にならないよう近隣諸国などが参加する独立した長期の国際的なモニタリング体制の構築に全面的に協力すべきだ」と主張しました。

一方で処理水をめぐる日本側との協議については「私の理解では意思疎通は保たれている」と述べるにとどまりました。