三重県桑名市にある多度大社で毎年5月に行われる「上げ馬神事」は、南北朝時代から続くとされる伝統の神事で、馬に乗って急な坂を駆け上がり、最後の高さ2メートル近くある壁を乗り越えた回数で農作物の作柄などを占います。
去年の神事で馬が転倒して骨折し、殺処分となったことなどから、動物虐待だという批判が神社などに寄せられ、馬や人がけがなどをしないよう地元の人たちが対策を協議してきました。
その結果、ことしからは、坂をゆるやかにし、馬が乗り越える最後の壁を撤去して行うことが決まりました。
さらに、神事で走る馬に事前に坂で訓練させることや、万が一のけがに備えてすぐ近くに馬運車や獣医師を待機させるといった改善策をとったうえで、例年どおり5月に実施するということです。
また、馬への暴力や威嚇行為を一切行わないよう、3月以降、神事で馬と関わるすべての人に講習会を受講させるということです。
「上げ馬神事」馬がけがしないよう 壁撤去など対策とり実施へ
馬が急な坂を駆け上がる、三重県の多度大社の「上げ馬神事」は、動物虐待だとの批判を受け、馬がけがをしないよう坂の最後で乗り越える高さ2メートル近くある壁を撤去するなどの対策をとったうえで、実施することが決まりました。
記者会見した多度大社の平野直裕権宮司は「改めるところはためらいなく改善し、今の時代にあった神事に改革しなければならないと思いを新たにした」と話していました。
地元の代表の伊藤善千代さんは「今後は専門家の指導のもと、一層思いやりを持って馬に接し、馬にも乗り子にも安全で楽しい神事になるよう取り組む。これまでの勇壮な祭りから、時代に即した人馬一体の行事へと変えていく」と話していました。
「上げ馬神事」とは
多度大社で毎年5月に行われている「上げ馬神事」は、南北朝時代から続くとされる伝統の神事です。
若者が馬に乗って急な坂を駆け上がり、最後の高さ2メートル近くある壁を乗り越えた回数で農作物の作柄などを占うもので、三重県の無形民俗文化財にも指定されています。
神社に伝わる江戸時代後期の文書「大祭御神事規式簿」の中で「坂をのぼって馬が駆け上がる」という内容の記載があることから、神社では遅くてもこの頃から現在に近い形での神事が行われていたとしています。
一方、去年を含む過去15年間で4頭の馬が神事の際に骨折し殺処分となったことや、参加者が馬をたたく行為が確認されたことなどから、神社などには動物虐待だという批判が多数寄せられていて、ことしの神事がどのような形で行われるのか注目されていました。
ことしの神事は3地区 例年より規模小さく
「上げ馬神事」で馬を駆け上がらせるのは、長年、桑名市多度町内にある6つの地区でした。
このうち1つの地区は担い手不足が課題となり、去年の神事を最後に脱退することがもともと決まっていましたが、さらにほかにも2つの地区が参加を見送ることを決めたということです。
関係者によりますと、2つの地区は、神事の関係者が動物愛護法違反の疑いで刑事告発を受けている状況にあることや、動物虐待という批判の影響もあって神事に使う馬を用意できないことなどから、参加しないことを決めたということです。
このため、ことしの神事は残る3つの地区での実施となり、例年よりも規模が小さくなる見込みです。
参拝者 “神事は続けてほしい”
「上げ馬神事」について、神社を訪れた人たちからは、形が変わったことを評価する一方で、神事は続けてほしいという声が聞かれました。
参拝に訪れた桑名市内に住む80代の男性は「人も馬もけがをしないよう、坂をもう少し下げないといけないと思っていましたし、やむをえないと思います。でも、昔からの神事なので続けていくべきだと思います」と話していました。
名古屋市から参拝に訪れた女性たちは「もう少し馬に優しくなるようにと、いつも思っていました」とか「習わしを守りながら、馬を傷つけないようにもしてほしいです。ただ神事はなくなってほしくはありません」などと話していました。
専門家 “馬の扱い方などへの改善盛り込まれた点は評価”
今回の改善策について、中部大学の特任講師でアニマルウェルフェア国際協会の上野吉一会長は「馬じたいや馬の扱い方への改善がかなり盛り込まれている点は評価できる」と話しています。
そのうえで「動物と私たちは長い歴史の中で共に生きてきたからこそ、協力し合う神事や祭りがある。批判にこたえる工夫は盛り込まれているが、地元の人たちの思いをもっとくみ取るべきで、その部分を掘り下げられれば、より時代に即した形での神事になるのではないか」と話しています。