文部科学省は、170人以上の被害者らへのヒアリングなどを踏まえ「高額献金や霊感商法などの教団の行為は民法上の不法行為に当たり、被害は甚大だ」などとして、去年10月に教団への解散命令を東京地方裁判所に請求しました。
これについて裁判所が国と教団側の意見を直接聞く「審問」と呼ばれる手続きが22日、初めて行われました。
「審問」は非公開で行われ、教団側によりますと、国からは文部科学省などの担当者、教団側は田中富広会長や弁護士などが出席しました。
田中会長は意見陳述を行い「資金集めを目的とした団体だとの文部科学省の主張は明らかな間違いだ。献金を受け取ることは宗教活動の一環で、正体を隠した布教活動もなくなった。裁判所には公正な判断をお願いしたい」などと述べたということです。
また「教団の行為は法令に違反する」という国の主張について、教団側が「具体的に法令を特定してほしい」と求めました。
これに対し国の担当者は「不法行為が法令違反にあたる」とこれまでの主張を改めて述べたということです。
今後の進め方について教団側は「国はおよそ1年かけて証拠を集めたので、こちらも反論にそれなりの時間がかかる」などと主張しましたが、裁判所から具体的なスケジュールは示されなかったということです。
行政機関が法令違反を根拠に解散命令を請求したのはオウム真理教と明覚寺に続いて3例目ですが、民法上の不法行為を根拠としたのは今回が初めてで、今後の審理の行方が注目されます。
旧統一教会「審問」教団の会長“公正な判断を” 東京地裁
旧統一教会に解散命令を出すかどうかを判断するため、裁判所が国と教団側の意見を直接聞く「審問」の手続きが22日、東京地方裁判所で初めて行われ、教団の会長が「公正な判断をお願いしたい」などと述べたということです。
被害回復支援の法整備を議論
旧統一教会への解散命令が請求されたあと、国会では裁判所の決定が行われるまでの間の教団による財産隠しなどを防ぎ、元信者らの被害回復を支援していくための法整備が議論されました。
去年12月に成立した法律では、解散命令を請求された宗教法人について、被害者が相当多数にのぼると見込まれる場合に、不動産を処分する前の届け出を義務づけることや、3か月ごとに財産目録などの書類の提出を求めることなどが盛り込まれました。
文部科学省は今月、旧統一教会を法律の対象となる「指定宗教法人」に指定する方針を固め、教団に通知しています。
また法律では、高額献金などの被害を訴える人たちが、収入にかかわらず、民事裁判で支援を受けられるよう日本司法支援センター=法テラスを中心とした体制を強化することも盛り込まれ、年度内の体制発足に向けた準備が進められています。
こうした国の対応について、信者の親の元で育った「2世」や、弁護士グループからは、被害の救済につながりうると一定の評価をする声がある一方、「財産隠しを防ぐための抜本的な対策にはなっていない」などと、引き続き検討を求める意見もあります。
2世の男性“審議の過程でも説明を”
現在も両親が信仰を続けている「2世」で、30代の元信者の男性は、非公開で行われている今回の審問の手続きについて「私たち当事者が何も知らないうちに結論が出ているということがないように、国には審議の過程でも説明をしてほしい。時間の経過とともに世間からの関心が薄れてきていると感じる。旧統一教会がしてきたことの何が違法だったのかを、社会全体の問題として考えていくことで、親の信仰によって苦しむ子どもたちを再び生まないことにもつながると思う」と話しています。
現役信者の男性“事実と法に基づいて審理を”
NHKの取材に応じた現役信者の男性によると、教団からは審理の場で主張する具体的な内容や、進捗(しんちょく)などについて今のところ説明はないということです。
男性は「もどかしさもありますが、裁判所は世論や外部からの指摘に影響されず、客観的な事実と法に基づいて審理をしてほしい。公平な審理の結果、解散命令が出るのであれば納得して受け入れられます」と話しています。
また、「審理がいつ終わるかわからない中で、教団はただその結果を待つのではなく、組織の改善や、被害者と真摯(しんし)に向き合うことなど、できることがあると思うのでしっかりやってほしい」と話していました。
専門家 “裁判所はバランス取りながら審理必要”
憲法が専門で宗教法人法に詳しい近畿大学の田近肇教授は「国と教団側双方の主張を整理した上で、意見を聞くのであれば、解散命令の請求から4か月かかったことは、遅すぎもせず、早すぎることもないと思う」と述べました。
その上で、「速やかに結論を出した方が、被害者の救済に資する側面はあるが、1つの宗教法人の法人格をなくすことにつながるので、信教の自由への配慮が必要で、裁判所はバランスを取りながら審理を進めていく必要がある」と話しています。
「審問」とは
「審問」とは、裁判官が国と教団側、それぞれの主張を直接聞く手続きで、非公開で行われます。
これまで国と教団側は、民法の不法行為が解散命令の要件になるかや教団の活動に組織性、悪質性、継続性があるか、高額献金などが宗教法人の目的に著しく逸脱するかどうかなどを争点に真っ向から争っています。
1995年に解散命令が請求されたオウム真理教の審理でも「審問」が行われ、およそ1か月後に東京地裁が解散命令の決定を出しました。
関係者によりますと、旧統一教会の審理では、国が「教団による被害」と主張する一つ一つについて教団側が反論するとみられ、長期化も予想されるということです。