株価 史上最高値更新 株式市場で何が【経済コラム】

日経平均株価が、バブルの絶頂期につけた史上最高値を更新しました。日本企業の好調な業績や、企業の変革への投資家の期待などが背景にあります。一方、年明け以降、急激なペースで進む株高に、過熱感を警戒する声もあります。

専門家やエコノミストに、いまの株価をどう見ているのか、判断の根拠となるデータとあわせて聞きました。(経済部記者 坪井宏彰)

最高値を更新

今月22日、日経平均株価は大きく値上がりし、終値では3万9098円68銭をつけ、バブル絶頂期の1989年12月29日の史上最高値・3万8915円87銭を34年ぶりに更新しました。

取り引き時間中の最高値も更新、市場は、歴史的な節目の更新に沸きました。

株価上昇の要因は

株価上昇の要因について、市場関係者からは、さまざまな好材料が重なった結果だという指摘が出ています。

【アメリカの株高】
ハイテク株上昇 ダウ平均株価が史上最高値更新

【堅調な企業業績】
3期連続最高益の見通し(東証プライム市場)

【企業の構造改革への期待】
東証が改革要請 株主還元も活発に

【円安】
1ドル=150円前後で推移 輸出企業の収益底上げ

【日銀の金融政策】
日銀「マイナス金利解除後も緩和的な金融環境」

海外マネーがけん引 中国からシフトも?

こうした要因を背景に、日本の株式市場をけん引しているとされるのが海外投資家です。

いま、海外投資家は、日本の株式の売買高の60%以上を占め、10%台だったバブル期と比べて相場への影響力が大きくなっています。

東証のまとめでは、海外投資家は、ことしに入って7週連続で日本株を買い越しました。

日本株への期待の高まりは、国内最大手の資産運用会社、野村アセットマネジメントの調査結果からもうかがえます。

この調査は、300以上の海外投資家に日本株の評価を「ポジティブ」か「ネガティブ」かで尋ねるものです。

おととしは、「ネガティブ」が半数近くでしたが、去年夏頃には一転、「ポジティブ」が優勢になったといいます。

また、こうした海外投資家が、中国から日本へとマネーをシフトする動きも強まっているといいます。

不動産不況などを背景に、中国市場では株価の下落傾向が顕著になっています。

その結果、これまでアジアの中で中国に集中していた投資マネーが、日本の株式に引きつけられているというのです。

実際、マネーの流れを分析しているIIF=国際金融協会のまとめでは、去年(2023)1年間に中国の株式・債券市場から流出した外国マネーは845億ドル、日本円で12兆5000億円に上っています。

分かれる見方

この株価は本物なのか。

専門家やエコノミストの間でも見方はさまざまです。

いまの株価の水準や今後の展開をどう見るのか、その根拠となるデータとあわせて聞きました。

大和総研の熊谷亮丸 副理事長は、「PER=株価収益率」に注目しているといいます。

PERは、1株当たりの純利益に対して、株価が何倍になっているかを示す指標です。

バブル期、日本企業のPERの水準は70倍でしたが、現在は16倍程度。

いまの株価は決して高くはないと解説します。

大和総研 熊谷亮丸 副理事長
「日本企業のPERはバブル期には非常に高かったが、現在はアメリカ企業より低い。現在の株価の水準は適正で、バブルではない。日本の景気は底堅く、持続的な賃上げでデフレ脱却の期待感が高まっている。日銀がマイナス金利解除後も緩和的な金融環境を維持するというメッセージを出していることも追い風だ。今後も株価の上昇に期待できる。ただ、アメリカ大統領選挙や中国の景気減速、ウクライナ・中東問題など、海外要因は今後のリスクになる」

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが、判断材料の1つとして挙げたのは潜在成長率です。

資本、労働力、生産性という要素をすべて活用した場合に実現できる経済成長率のことで、その国の経済の実力を示すとされます。

バブル期には4%前後あった潜在成長率が、その後は0%から1%程度で推移し、直近でも0.7%にとどまっていると強調します。

野村総合研究所 木内登英 エグゼクティブ・エコノミスト
「今の株高は、アメリカの株高や円安、中国からの資金流入など外的要因を背景にした投資マネーの流入が要因だ。経済の潜在成長率はバブル期と比べて低迷が続いていて、株価は日本経済の実力を反映したものではない。足元の上昇ペースは行き過ぎで、投資マネーの流入は一時的なものと考えられ、持続性には疑問符がつく」

日本企業の経営について長年研究してきた一橋大学の伊丹敬之名誉教授は、いまの株価自体は驚くような水準ではないと見ています。

その上で、今後は日本企業の経営姿勢が問われると指摘します。

この20年、大企業の株主への配当金額は年々増えている一方、設備投資額はほとんど変わらず、2021年度には配当金額を下回ったことに留意すべきだとしています。

一橋大学 伊丹敬之 名誉教授
「そもそも海外各国で株価が長期的に上昇しているのに日本だけが30年以上前の水準を超えられないのはおかしい。コロナ後の世界的な金融緩和を背景にした投機マネーの流入もある中で、当然の結果だ。バブル崩壊後の低成長は、日本企業が自信を失い、成長につながる投資を行ってこなかったことが一因だ。配当そのものが悪いわけではないが、投資をせずに企業が成長するはずがない。この株高をきっかけに、企業はリスクを取って成長に向けた設備投資や賃上げなど人への投資を増やす経営に転換すべきだ」

株価の史上最高値の更新は、日本経済にとって明るい材料であることは確かです。

ただ、その数字だけではなく、日本企業が成長を続け、日本経済が次のステップに進むことができるのか、冷静に見ていくことも必要となりそうです。

注目予定

来週は日米で重要な経済指標の発表が相次ぎます。

27日には日本で1月の消費者物価指数、29日にはアメリカで1月のPCE=個人消費支出が発表されます。

日米の中央銀行の金融政策の方向性を探る手がかりになるとして、投資家の関心が集まっています。