慣れ親しんだ街の“建物解体” 進まぬ復旧 業者の苦悩 課題は

能登半島地震から7週間余りがたちますが、被災地では今も壊れた建物は解体されずそのままになっている場所が目立っています。

こうした中、慣れ親しんだ町の復興させようとほぼ休みなく作業を続けている地元の解体業者がいます。

ただ、復旧を進めるために欠かせない解体業も人手不足が深刻です。

「二重被災」の住民 自宅の解体費用に悩む

石川県珠洲市におよそ60年住んでいる村元克寿さん(66)は、1月の地震で自宅が傾くなどして応急危険度判定で赤の「危険」と判断されました。

90歳の母親と避難所で過ごしたり車中泊をしたりしていましたがライフラインの復旧がままならないことから金沢市内に古い民家を購入し、当面、生活の拠点を移すことを決めたということです。

元の自宅は解体したいと考えていますが、公費で解体できるのか費用を工面する必要があるのかもわからないということです。

村元さんは2023年5月の地震でも自宅が被害を受け修復が終わったばかりだったということです。

住民「金銭的にも苦しい 再建するかどうか判断できない」

村元克寿さん

村元さんは「前回の地震の被害をやっと直した直後に今回の地震があり、ただただやるせない気持ちでいっぱいです。地区は復旧が進まず発災直後から大きく変わらない状態が続き、金銭的にも苦しいため戻って再建するかどうかは判断することができない」と話していました。

珠洲市によりますと市内には去年に続いて再び被害を受けたいわゆる「二重被災」の住宅は市内で3000棟を超えるとみられるということです。

「公費解体」とは

石川県珠洲市によりますと、能登半島地震で被害を受けた住宅や建物がり災証明書で「半壊」や「全壊」などと認定されると公費で解体・撤去される対象になります。

取り出すことが可能な家財道具などについては、被災者自身が費用負担して搬出したり処分したりしなければならないということです。応急危険度判定で赤の「危険」と判断されても必ず対象になるわけではありません。

石川県の住宅被害 7万5000棟余(21日)

石川県のまとめによりますと、住宅への被害は21日時点で7万5000棟余りに上っていて、被災地ではがれきの撤去は徐々に進んでいるものの壊れた建物は解体されない状況が続いています。

被災した解体業者 作業には精神的な負担も

およそ5000棟の住宅が全壊する被害が出た珠洲市にある、解体業者「やなぎ企画」は市からがれきの撤去などを請け負っていますが、人手不足に加え5人いる従業員全員が被災していることもあり、通常より作業に時間がかかっているということです。

被災した従業員たちは会社の敷地内に設置したプレハブ小屋で寝泊まりし、1月上旬からほぼ休みなく作業を進めていて、被害が最も大きかった地域ではようやく路上のがれきの撤去が完了する見通しが立ったということです。

一方、倒壊した住宅などについては、市からの発注もまだなく解体作業は進められていないということです。

作業員たちは、慣れ親しんだ街のあちこちでがれきが散乱していたり、建物の取り壊しが必要になっていたりする状況について精神的な負担もあるということです。

解体業者社長「解体するのは正直つらいが責任を果たしたい」

柳和彦社長

みずからも自宅が全壊した柳和彦社長は「60年以上暮らしてきた土地で顔見知りの住民もいるなか建物を解体するのは正直つらいものがあるが、電気を通すなど復旧・復興を進めるためにはしかたがないです。地震で重機などが使えなくなった業者もいるので無事だった自分たちがこの地区の業者としての責任を果たしたい」と話していました。

「公費解体」申請受け付け始まるも…

地震の被害を受けた家屋の解体をめぐっては、被災地以外からも解体業者を確保しようと石川県が解体業者で作る「県構造物解体協会」を通じて県内と福井県、それに富山県の業者に協力を求めています。

所有者に代わって自治体が進める「公費解体」の申請の受け付けが一部の市や町ではすでに始まっていますが、関係者によりますと県と協会の間で請け負い額など具体的な条件の調整が続いていて本格的な発注には至っていないということです。

「工事の発注あっても割に合わず…」

県は「公費解体」を2025年10月までに終える目標を掲げていますが、金沢市の解体業者はNHKの取材に対し、
▽解体しながら壊れて混ざっている部材を手作業で分類する必要があるため通常より時間がかかり人件費がかさむことや、
▽被災地への移動のための燃料費の負担も大きいこと、
▽それに現地での宿泊する場合の費用も見通せないことなどから、
「被災地の復興に貢献したい思いはあるが、工事の発注があっても割に合わず、手をあげる会社は少ないのではないか」と話しています。

人手不足 「公費解体」請け負いのハードルに

また、石川県の解体業は人手不足が深刻で石川労働局によりますと解体工事の作業員が含まれる「建設※ク体工事従事者」の2023年12月の有効求人は223人に対し仕事を求める人は13人と、有効求人倍率が17.15倍で、すべての職種の中で最も人手が足りていません。

別の県内の業者は人手不足についても「今ある仕事だけで手いっぱいというのが実情で『公費解体』の仕事を請け負うことは働き手を確保する面でもハードルが高く感じる」と話しています。

※「ク」は「躯」のつくりが「区」