ウクライナ侵攻2年 揺れるEU諸国 ロシアの隣国エストニアは

ロシアによるウクライナへの侵攻からまもなく2年。先週、激しい戦闘の末、東部の拠点がロシア軍に掌握されました。

しかし、最大の支援国アメリカでは、秋の大統領選挙で返り咲きを目指すトランプ前大統領が支援に消極的な姿勢で、不透明感が一段と増しています。

こうした中、重要度が増しているのが、EU=ヨーロッパ連合です。しかし、そのEUでも足並みの乱れ、「支援疲れ」が表面化してきています。

EU加盟国のエストニアとイタリアの状況を取材しました。

(2月21日の「おはよう日本」で放送しました)

エストニア “ウクライナ支援以外の選択肢ない”

ロシアと国境を接するバルト三国の一つ、エストニアは1940年以降、およそ50年にわたって旧ソビエトに併合され、7万5000人を超える人が命を奪われたり強制移住させられたりしたとしています。

1991年の独立後もロシアに対する警戒感は強く、エストニアの情報機関は2月13日に公表した報告書で、ロシアがこの先数年で、エストニアとの国境近くに配置する部隊を侵攻開始前の2倍に増強する可能性を指摘しました。

エストニア軍は国内に駐留するNATO=北大西洋条約機構の多国籍部隊と演習を重ねていて、2月10日に行われた合同演習は厳しい寒さの中、国の南部から敵が侵攻してきたという想定で行われました。

エストニア陸軍第1歩兵旅団のアンドルス・メリロ司令官は「演習は実際の戦争に備えたものだ。ロシアに対する優位性を高めようとしている」と強調しました。

ロシアについて市民からは「これまではロシアに攻撃されるかどうかが問題だったが、いまの問題はいつ攻撃されるかだ」とか「エストニアはロシアとヨーロッパの緩衝地帯のようなものなので攻撃を受けやすい。とても懸念している」などという声が聞かれました。

エストニアはウクライナがロシアに負ければ自国にとっての脅威がさらに増すと考え、ウクライナに対する軍事支援を積極的に行ってきました。

これまでの軍事支援はりゅう弾砲や対戦車ミサイル、対戦車地雷など5億ユーロ、日本円でおよそ800億円に上ります。

GDP=国内総生産に占める割合は1.4%でEU=ヨーロッパ連合のなかでもっとも高い国の一つです。

エストニアはいま、EU加盟国をはじめ欧米諸国に毎年、GDPの0.25%をウクライナへの軍事支援に充てるよう呼びかけています。

NHKのインタビューに応じたペフクル国防相はこの支援額について「過去2年に各国が供与した軍事支援の総額を上回る規模になり、ウクライナを勝利に近づけるのに大いに役立つ。またプーチン大統領やロシア軍の参謀本部に対し、そっちがやるならこっちもやるのだというメッセージにもなる」と意義を強調しました。

そして「ロシアは今もこれからもNATOすべての加盟国にとって脅威だ。われわれにはウクライナを支援する以外の選択肢などない」と述べ、各国に対し支援の強化を改めて訴えました。

イタリア “軍事支援より生活守って” インフレ加速

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でヨーロッパでは天然ガスの価格が高騰しインフレを加速させました。

イタリア有数の工業地帯、北部ミラノの近郊で自動車のエンジン用のボルトを作っている会社では、強度を増すための加熱処理に大量のガスを使います。

ガスの値上がりの影響はいまも続いているといいます。

ブルーゴラ社長は「エネルギーとガスのコストは侵攻前の2倍以上になっていると言わざるをえない。すべてが、わが社にとって大きな打撃となった」と話していました。

まちの人からも「ウクライナは大変な状況なので支援するのは正しいと思うが、国内の現実に目を向けることも必要だ」とか「今回の侵攻の影響で生活が困窮しているイタリア人が国内にたくさんいる」など、ウクライナへの軍事支援よりもイタリアの人々の生活を守るために予算を使うべきだという声が聞かれました。

イタリアの連立与党「同盟」のロメオ上院議員によりますと、こうした世論を背景に与党内からも戦争を終わらせるための外交努力をするべきだという声が出ているといいます。

ロメオ上院議員は「こう着している戦況を、軍事的に解決することはできない。ヨーロッパだけでなく世界中で人々は戦争の影響を感じている。外交交渉を早く始めれば始めるほど、戦争を早く終わらせられる可能性がある」と話していました。

EU世論調査 軍事支援への支持は国によって差

EUの世論調査からは、ウクライナへの軍事支援に対する支持は全体として時間がたつごとに下がる傾向にあり、国によって差があることが見てとれます。

侵攻が始まった2022年の6月から7月にかけて行われた調査では、EU全体でウクライナへの軍事支援を支持すると答えた人は68%、それが去年の1月から2月にかけて行われた調査では65%、去年の10月から11月にかけて行われた調査では60%でした。

また去年10月から11月の調査の結果を国別にみると、
▽スウェーデンが91%
▽フィンランドが90%、
▽ポーランドが85%など、ロシアの脅威をより強く感じているヨーロッパの北部や東部の国で支持が高い一方、
▽ブルガリアやキプロスでは31%、
▽ギリシャでは37%など、ロシアとの経済的なつながりが強かった国などでは低い傾向となっています。

このうち、ことしのG7議長国でもあるイタリアは、おととしの6月から7月に比べて「支持する」と答えた人が57%から51%に減る一方で、「支持しない」と答えた人が37%から44%に増え、その差が縮まってきています。

EUによる支援の遅れ指摘も

EU=ヨーロッパ連合の加盟国はこれまで軍事支援として各国がそれぞれ、戦車や防空システム、りゅう弾砲や砲弾などをウクライナに供与してきました。

EUとしても、侵攻当初から、加盟国がウクライナに兵器を送る費用の一部を負担することで各国の支援を支えてきました。

EUによると加盟国とEUによる軍事支援の総額は、ことし1月末の時点で280億ユーロ、日本円にして4兆5000億円規模に上ります。

一方でEUはことし3月までにウクライナに100万発の砲弾を供与する目標を掲げましたが、3月までに供与できるのはおよそ半分の52万発余りにとどまるとみられ、支援の遅れも指摘されています。

また、加盟国の兵器供与を支援するためのEUの基金についても、50億ユーロ、8000億円余りの積み増しを目指して協議を続けていますが、一部の国の反対で合意できていません。

こうした中、フランスやドイツなどが2月に相次いで追加の軍事支援を発表するなどウクライナ支援を継続していく姿勢を打ち出しています。

専門家「欧州各国の立場が二分化する傾向強まる」

EU本部があるベルギーのシンクタンク、ヨーロッパ政策研究センターのブロックマンズ上席研究員は、ウクライナへの軍事支援をめぐるEU加盟国間の議論について「当初は基本的に早く進んだが、戦争が今後も相当期間続くとみられ、ますます資金が必要となる中、交渉に時間がかかるようになっている。ウクライナについてのニュースが絶え間なく報じられた2年がたち、人々は国内の問題に目を向けるようになっている」と述べ、加盟国の間で支援疲れも見られるという認識を示しました。

そして「戦争に疲れ、これ以上、資金を負担したくないと思っている国は、さらにアメリカでのトランプ氏の返り咲きの可能性も視野に入れ、ロシアに対して融和的な動きを見せるだろう。停戦合意、さらには和平協定に向けた交渉により前向きになるだろう。一方でそうした動きに自国の存在にかかわる危険を感じている国もある」と述べ、ことしはヨーロッパ各国の立場が二分化する傾向が強まると指摘しました。

ブロックマンズ氏は今後のEUでの議論について「バルト三国などはロシアの脅威を繰り返し訴え、侵攻直後は正論と受け止められてきたが、今後はこうした国に対する疲れもヨーロッパのほかの国に出てくる可能性がある。バルト三国などは今後の議論で脇に置かれてしまうリスクが出てきている」としています。

その上で「2024年は、ウクライナにとっても厳しい年になるし、ヨーロッパにとっても、軍事支援に必要な予算を確保する政治的意思を奮い起こすことが、難しい年になるだろう」と述べことしはEUとしてまとまって軍事支援を続けていくうえで正念場になるという見通しを示しました。