人生の“最期”を「どう過ごしたいか」伝えていますか?

人生の“最期”を「どう過ごしたいか」伝えていますか?
あなたや大切な家族がどのような“最期”を迎えたいかについて話し合ったことはありますか?どこで、誰と、どうやって過ごしたい?延命治療は?

とある病院の療養病床に密着し、人生の最後のページの描き方について考えました。(おはよう日本 ディレクター 小田翔子)

“病院でのみとりも覚悟…”

雪が降り積もる2024年1月、福井県にある病院に80歳の男性が入院しました。認知症が進み、肺炎により食べ物が飲み込めない状態になっていました。

妻と意思疎通をするのも難しくなっていましたが、病院ではこれまで男性本人や家族と話してきた意向を踏まえて、今後の治療方針を検討していました。
その結果、家族の状況などから在宅での介護は難しく、病院で医療的ケアを続けていくことになりました。ただ患者本人の希望に沿う形で、胃ろうは行わないことを確認しました。
男性の妻
「夫が70歳くらいの時に認知症みたいな行動が見られたので、症状が進んでからではできないと思って2人で話をしました。そうしたら『何も分からないのにただ栄養だけ入れて寝てるっていうのはつらいから、胃ろうだけは嫌だ』と言っていたので。私も『自分もそうなったら胃ろうは嫌だ』と子どもたちに言っているんです。糖尿病もあるしだんだん合併症も起こしてくるだろうなと、その覚悟はできているので何があっても仕方がないと思っています」

“生活を支え 人生を支える”

男性の入院先は、高齢者を中心に慢性的な病気を抱える人たちが長期間療養する「療養病床」専門の病院です。

病気の症状が安定している状態から、人生の最期までを見据えながら医療的なケアが行われていて、全国の療養病床には、約24万人が入院しています。

2040年に高齢化のピークを迎えるとされる中、国は人生の最期まで自分らしい生活を続けられる体制づくりをすすめるとしていて、いま療養病床のあり方が、改めて問われています。

この病院でも、患者本人や家族の「人生の最期に向けてどう過ごしたいか」という思いを治療の方針を考える際に最も大切にしているといいます。
池端院長
「命を支えるだけではなく、生活も支えて、そして最期まで尊厳ある人生も支える、これが究極の目的です。療養病床は、まさに最期の人生を支えるための医療のあり方を追求していくことにどんどん生まれ変わっていくべきだと思っています」
患者と家族の意向を最大限に尊重するために求められることの1つが、可能なかぎり、自宅や施設などの希望する場所に患者を帰す取り組みです。
去年12月に入院した村上春雄さん(89)は、慢性的な心臓の病気が悪化し歩くのも難しい状態が続きましたが「自宅に戻りたい」という強い意向を持っていました。

このため、村上さんは、自宅で日常生活を送る上で必要な「お椀を片手に持ちながら、歩く」「段差をのぼる」といった動きを取り入れるなどのリハビリに取り組みました。村上さんは努力の結果、体の機能が一定程度回復し、希望をかなえることができました。

病院の枠を超えて

退院当日、村上さんの退院後の生活について話し合う「退院前カンファレンス」が行われました。村上さんの退院後の生活を支援するため、本人や家族、病院スタッフのほかにも、介護関係者なども集まりました。
息子夫婦が遠方に暮らしているため、村上さんは退院後一人暮らしになります。こうした事情に合わせ、今後の生活をどうサポートするかが話し合われました。

食事など日々の暮らしをサポ-トする介護ヘルパーや、薬を届ける薬剤師などと意見を交わし、生活上の注意点を共有しました。
息子夫婦からも相談があり、不安が解消されるまで話し合われました。

こうして、村上さんは2か月ぶりに念願の自宅に戻ることができました。玄関先には3段ほどの段差がありましたが、リハビリのおかげで、手すりにつかまりながら自力で上がることができました。
村上さん
「体の具合は大丈夫だと思います。(これでやっと)いわゆる日常の生活を始められる。容易ではないと言えば容易ではないけれども」
ことばとは裏腹な豪快な笑いとともに、安心した様子で話していました。

尊厳ある人生を全うするために

病院での取材を通じて、本人が望むかたちにできるかぎり家族や病院が寄り添うことが、最期まで尊厳ある人生を全うするために大切なことだということを実感しました。
2年前に退院した95歳の女性は、心臓の病気を抱えていましたが、衰弱した栄養状態が回復するよう食事を工夫するなどして、自宅での生活を実現させました。20年来の趣味であるパズルをしながら過ごす時間を楽しみにしていて、「1000ピースのパズルをするのがやみつき」と話していました。
また、呼吸器の疾患と難病による足のまひがある72歳の男性は、2年前に退院し訪問診療やケアマネージャーなどのサポートを受けながら自宅療養中です。治療を続けながらも、電動車イスで外に出かけ、毎日ふるさとの景色を眺めるのが日課だと言います。

もちろん、さまざまな事情からこうした望みが必ずしもかなえられる訳ではないはずです。今回、取材した病院の院長は以下のように話していました。
池端院長
「ご本人の気持ちになるべく寄り添う形にもっていくために、シナリオを書いて、そのシナリオに合わせてご家族や病院、そしてケアマネージャーなど皆さんと相談する。シナリオは状況や本人とご家族の気持ちの変化に合わせて書き換えながら、みんなでシナリオのように演出して、最期を拍手で終わる、お迎えに来てもらうという形ができるのが、理想かなと思っています」
できるかぎり、理想に近づけるための努力をすること。そうした思いが人生を彩りのあるものにするのかもしれません。

人生最後の1ページのシナリオ。大切な人と話し合ってみてはいかがでしょうか。

(2月14日「おはよう日本」で放送)
おはよう日本ディレクター
小田 翔子
2018年入局
長野局を経て現所属