暖冬傾向 “クマの冬眠明け早まるか” 雪が少なくても雪崩警戒

暖冬傾向となっているこの冬。積雪も平年より少ない地域が多く、この時期としては珍しく積雪ゼロのところも目立ちます。

暖かい日が多くなることで警戒が必要なのが、クマの冬眠明けです。「ことしは例年より早く目覚めるかもしれない」と専門家は警鐘を鳴らします。

雪どけが一気に進んで..

スキー場は、営業の休止を余儀なくされています。

富山県黒部市の宇奈月温泉スキー場では、先週からの季節外れの気温上昇でゲレンデの雪解けが進み、20日のゲレンデの積雪は10センチほどで、ところどころ地面が顔を出していました。

スキー場の管理者によりますと、安全に滑走できないと営業休止を判断したということです。

スキー場の管理者の古川憲一さんは「このところの暖かさと雨で一気に雪どけが進みました。積雪が1メートル近くないと安全に滑走できないので、今後、雪が降って、営業を再開できるか心配です」と話していました。

各地で“積雪ゼロ”も

全国各地の積雪の深さを示した図です。北海道の南部や東北から中国地方の日本海側までの広い範囲で平年の40%より少ない「紺色」になっています(20日正午時点)。

その多くは20%より少なく、例年、雪が多い地域でも積雪が“ゼロ”となっているところもあります。

北海道函館市や青森市、秋田県仙北市角館、新潟県長岡市などで積雪がない状態となっているほか、平年の積雪の深さが50センチ以上ある山形県最上町や、新潟県上越市、兵庫県北部の香美町兎和野高原などでも積雪はありません。

“氷はらない” “雪足りない” 犬たちの甲子園も..

秋田県にある八郎湖では今月6日、ワカサギ釣りのシーズンを迎える中、湖面が凍らずに釣り人たちを悩ませていました。

湖の周辺の先月の平均気温は平年よりも2.9度高く、この時期に氷が張っていないのは珍しいということです。

暖冬の影響で、北海道で開催される予定だった冬の人気イベントで「犬たちの甲子園」とも呼ばれる犬ぞりレースの全国大会が中止されることになりました。

大会の実行委員会は記録的な暖かさでコースの雪どけが進み、レースを実施することが難しくなったということで、大会の実行委員会は「雪不足や新型コロナの影響で開催できなかったことはあるが、雪がとけて中止になったのは極めて異例だ」と話しています。

群馬県の草津温泉では毎年行われていたイベントが中止になりました。

先月から今月末にかけてかまくらをライトアップするイベントを開く予定でしたが、主役であるかまくらを作るのに十分な雪が積もらなかったということです。

ほうれんそうやキャベツの生育早まり..

農作物の出荷にも影響が出始めています。

群馬県太田市の農家では、ほうれんそうなどの生育が例年より2週間ほど早まっているため、収穫の予定を当初から早めています。

市場への全体的な出荷量が増え需給のバランスが崩れて価格が下がっているため売り上げに影響が出ています。

1袋当たりのもうけは去年と比べて4円ほど下がっているということで、農家の久保田泰成さん(64)は「苦しい中で肥料代などをまかなわなければならず利益はほとんどない」と話していました。

また、千葉県銚子市にあるキャベツ農家でも、例年は3月に収穫する畑で20日ほど早い今が収穫作業のピークになっているということです。

農家の間渕誠一さんは、この時期に収穫・出荷が進むと、ほかの地域の収穫と重なるなどして値段が下落していくことを心配していて、「4月には別の品種のキャベツが収穫できるが、それまで間隔が空いて端境期が生まれてしまう可能性もある」と話していました。

《暖冬のときに気をつけたいこと》

暖冬傾向の中で気をつけたいポイントを各分野の専門家に聞きました。

クマの専門家「冬眠明け早い可能性」

去年の秋ごろからクマによる被害が相次ぎ、今年度に亡くなったり、けがをした人は全国で218人にのぼり、過去最悪の被害となっています。

クマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹特任教授によりますと、クマは例年、11月以降に冬眠に入り、3月末ごろになると冬眠を終え活動し始めるということです。

しかし、2月上旬には秋田市郊外で倉庫にクマが入り込んで3日間にわたって居座るなど、この冬、各地でクマの出没情報が相次いでいます。

石川県立大学 大井徹特任教授
「去年の秋には東北地方を中心にエサとなるドングリなどが不作となり十分に脂肪を蓄えられなかったために冬眠に入るのが遅れたり、気温が高くなると穴から出てきたりするクマもいるのではないか」

例年は春先以降とされる冬眠が明ける時期についても「海外の研究では、冬場の最低気温が1度上がるとクマの冬眠期間が数日短くなると報告されているほか、国内でも3月の気温が高ければ冬眠明けが早まるという調査結果がある」などとして、今シーズンの暖冬傾向によってクマが活動を始める時期が早くなる可能性があると指摘しています。

ことしは平年よりも積雪が少ないため、草木の芽吹きが早まるほか、早い雪どけにより地面に落ちたドングリなどを見つけやすくなるとして、冬眠から明けたクマの活動がより活発になることが考えられるということです。

石川県立大学 大井徹特任教授
「クマによって個体差はあるが、冬眠明けの時期が例年より早くなることも想定してほしい。クマがいそうな茂みなどには近づかないようにするほか、人里に近づかないよう果物や家畜のエサなどクマが好むものを取り除くなどして、ことしは特に早いうちから対策をとってもらいたい」

雪崩の専門家「雪が少なくても警戒を」

一方、雪崩に詳しい専門家は、雪が少なくても雪崩のリスクに目を向けてほしいと言います。

新潟県長岡市にある防災科学技術研究所 雪氷防災研究センターの中村一樹センター長に、暖冬でも警戒が必要な理由を聞きました。

2015年 新潟県内の国道で起きた雪崩

理由1 危険な時期が例年より前倒しに
例年、「全層雪崩」と呼ばれる雪崩の危険は豪雪地域などで気温が上昇して雪が溶け始める春先に高まります。

しかし、この冬は季節外れの暖かさとなる日も多くすでに2月のうちから雪崩のリスクが高まっているということです。

(全層雪崩…地表面がすべり面にして起きる。積もった雪全体が崩れる)

理由2 寒暖差が雪崩のリスク高める
この冬は気温が高くなる時期と低くなる時期があり、例年になく寒暖差が大きくなっています。

中村さんは、気温が上がって積もった雪の表面が溶けたあとで気温が下がると崩れやすい層ができ、そこに雪が積もると「表層雪崩」が起きやすくなると指摘します。

(表層雪崩…すべり面が積雪の内部にある。積もった雪の表面付近が崩れて起きる)

雪氷防災研究センター 中村一樹センター長
「今週は週はじめに気温が上がった後、週末にかけて冷え込みが予想されていて雪崩の危険が高くなる。雪が少ないからと言って雪崩が起きないということはなく、雪溶け水が土壌に染み込むと土砂災害を引き起こすおそれもある。例年とは異なる状況であっても警戒を怠らないでほしい」

地震の被災地ではより警戒を

1月下旬 富山県氷見市

能登半島地震の被災地では、土砂崩れやがけ崩れが起きた場所で樹木がなくなるなどして地表が露出しているところがあります。こうした場所では雪崩が起きやすくなっていて警戒が必要です。

また、雪崩のほかにも▽地震で被害を受けている建物に多くの雪が積もると、重みで倒壊のおそれが高まるほか、▽屋根に積もった雪で建物の重心が高くなり、地震が起きたときに揺れやすくなるおそれがあるということです。