日・ウクライナ首脳会談“1日も早い平和実現へ協力”で一致

岸田総理大臣は、ウクライナのシュミハリ首相と会談し、ウクライナの復興に向けて官民を挙げた取り組みを連携して推進するとともに、1日も早い平和の実現を目指し、今後も協力していくことで一致しました。

岸田総理大臣は、ウクライナの経済復興推進会議に出席するため日本を訪れたシュミハリ首相と総理大臣官邸で午後6時半すぎから30分あまり会談しました。

冒頭、岸田総理大臣は「ロシアの侵略開始から2年が経過する。国際社会がウクライナを支えるよう改めて機運を高めなければならない。日本としてもきょうの会議の成果を踏まえ、官民一体となってウクライナの復興に向けて取り組みを強化したい」と述べました。

会談で両首脳は、経済復興推進会議で交わした50余りの協力文書を踏まえ、ウクライナの復興に向けて官民を挙げた取り組みを連携して推進していくことを確認しました。

また、ロシア軍の撤退やウクライナの領土回復など、ゼレンスキー大統領が提唱する和平案をめぐっても議論し、1日も早い永続的な平和の実現を目指し、今後も協力していくことで一致しました。

さらに両国関係の強化の一環として、情報保護協定の締結に向けた正式交渉を開始することでも合意しました。

岸田首相「平和が戻るまでウクライナとともに歩んでいく」

岸田総理大臣は会談後の記者会見で「ウクライナの美しい大地に平和が戻るまで、日本はこれからもウクライナとともに歩んでいく。今回の会議の成果を踏まえ、G7をはじめ各国と連携し、国際的な機運を盛り上げていきたい」と述べました。

シュミハリ首相「日本にぜひ復興のリーダーになって欲しい」

ウクライナのシュミハリ首相は、岸田総理大臣との共同記者会見で「日本にぜひウクライナの復興のリーダーになって欲しい。実りのある会談、建設的な対話に感謝の意を表したい」と述べ今後の日本の役割に期待を示しました。

この中で「日・ウクライナ経済復興推進会議」について「会議の枠内で達成された協力文書は2国間協力を加速し、ウクライナの復興に活力を与えると期待している」と指摘し、両国の間で50あまりの協力文書を交わしたことを歓迎しました。

そのうえで人道分野や農業の発展、エネルギーや交通インフラなどの分野で両国が協力していくことを確認したとして「ウクライナは復興分野における日本の技術、経験を大いに必要としている」と強調しました。

さらにウクライナ企業関係者向けのビザの発給要件が緩和されたことについて「両国のビジネス間の交流が大きく前進することを確信している」と述べました。

そしてウクライナの現状について「ウクライナはほぼ2年にわたり、全面的にロシアと戦っている。毎日、毎分、領土解放のためにあらゆる努力をつくしている」と述べ、引き続き日本からの支援が不可欠であると訴えました。

両政府で新たな租税条約結ぶ

鈴木財務大臣は、ウクライナのシュミハリ首相とマルチェンコ財務相と面会し、両政府で結んだ新たな租税条約を歓迎するとともに、復興に向けて継続して支援していく考えを示しました。

今回の会議にあわせて日本とウクライナの両政府は、新たな租税条約を結びました。

条約には、ウクライナに進出した日本企業の子会社が、親会社に配当などを送る場合に課税される税率を引き下げる内容などが盛り込まれています。これによって日本企業がウクライナに進出しやすくなり、ウクライナの経済面での復興を支援する狙いがあります。

会議のあと鈴木財務大臣は、ウクライナのシュミハリ首相とマルチェンコ財務相と相次いで面会し、新たに結んだ租税条約を歓迎するとともに、ウクライナの復興に向けて継続して支援していく考えを示したということです。シュミハリ首相からは日本の支援に対し、感謝の意が示されたということです。

鈴木大臣は、面会のあと記者団に対し「新たな租税条約によって、ウクライナでの日本企業の活動や、日本からの投資が活発になることが期待される」と述べました。

日本 官民挙げて復興後押しの姿勢

ロシアによるウクライナへの侵攻開始からまもなく2年となる中、「日・ウクライナ経済復興推進会議」は19日午前10時から東京都内で開かれ、政府関係者に加え、両国の企業およそ130社が参加しました。

岸田総理大臣は「ウクライナでは今この瞬間も戦争が続いている。状況は容易ではないが、経済復興を進めることは『未来への投資』であり、官民一体となって強力に支援する」と述べました。

続いて、ウクライナのシュミハリ首相が「両国間の関係を発展させる次のステップになる。お互いの力をあわせて取り組むことで、現在の挑戦を成長と繁栄の機会に変えることができる」と述べました。

会議では日本が、地雷の除去やがれき処理、農業の生産性向上、電力・交通インフラの整備など7つの分野で支援策を打ち出しました。

また、両国の間で企業が二重に課税されないよう租税条約に署名するなど56の協力文書が交わされ、投資協定の見直しに向けて交渉を開始することなどでも合意しました。

欧米各国の間でウクライナへの「支援疲れ」も指摘される中、日本としては官民挙げて復興を後押しする姿勢を打ち出し、国際的な機運を高めたい考えです。

ゼレンスキー大統領のメッセージは見送り

今回の会議には、ウクライナのゼレンスキー大統領がビデオメッセージを寄せる予定でしたが、急きょ見送られました。外務省は「ウクライナ側の事情だ」と説明しています。

シュミハリ首相「日本の経済政策から学びたい」

シュミハリ首相は会議の中の基調講演で「日本の復興の経験と経済発展の奇跡は、われわれにインスピレーションを与えるものだ。日本の経済政策から学びたい」と強調しました。

そのうえで「ウクライナの経済復興の原動力は民間セクターだ」と訴え、エネルギーや農業の分野で日本の技術や投資に期待を示すとともに、ロシアの侵攻で被害を受けた道路や鉄道、橋などのインフラ整備に参加するよう求めたほか、日本の自動車メーカーに対してウクライナに製造拠点を設けるよう呼びかけました。

さらに復興には巨額の資金が必要だとして、各国が凍結したロシアの資産を復興の財源に充てるよう訴えました。

また、去年3月の岸田総理大臣のウクライナ訪問について触れ、勇気とリーダーシップのあらわれだとして謝意を示した上で、「ウクライナを再度訪問するよう招待したい」と述べました。

シュミハリ首相は最後に「ロシアの残虐行為や国際法違反に対して、世界がどう反応するかに注目が集まっている。きょうのウクライナはあすの東アジアかもしれない。ウクライナは暗い時代を生きているが、希望の光も見えている。希望は人がつくるものだ。日本の力、リーダーシップ、優しさを、ウクライナ人は決して忘れない」と強調しました。

上川外相 渡航制限を一部緩和

上川外務大臣は経済セッションで演説し、「ウクライナの復旧・復興に参画する企業・団体の取り組みとして、真にやむをえない事情でキーウに渡航する必要がある場合、当該組織が安全対策を講じるとの観点から危険情報の内容を一部改訂した」と述べ、企業からの要望を踏まえて渡航制限を一部緩和したことを明らかにしました。

具体的には、ウクライナ全土に出している「退避勧告」を維持したまま、復興支援に携わる企業・団体関係者が首都キーウに渡航する場合に限って渡航制限が緩和されました。

実際に渡航する場合は、各企業が安全対策を講じた上で、2週間前までに連絡先や宿泊先など渡航計画を届け出るよう求めていて、外務省は相談窓口を設置しました。

日本とウクライナが交わした協力文書 内容は?

会議で日本とウクライナの官民が交わした協力文書は、生活の再建やインフラの整備など7つの分野にわたり、あわせて56に上ります。

【大手はメーカーや商社が】
日本の農機具メーカーや機械メーカー、商社などは、農業の生産性向上やエネルギーや交通のインフラ整備、商用車の供給など幅広い分野の協力文書をウクライナ政府や現地の企業などと交わしました。

このうち大手機械メーカーの「IHI」は、ウクライナの復興インフラ発展庁との間で、寸断された道路の復旧や、近隣の国へとつながる大規模な橋の建設事業に関する協力文書に署名しました。

【スタートアップ】
一方、今回の協力文書には、大手企業だけではなく、日本のスタートアップ企業も参画しています。

このうち、植物由来の界面活性剤を製造する技術を持つ静岡県沼津市の「アライドカーボンソリューションズ」は、ウクライナの農業法人などとの間で、原材料の調達や実証実験に関する協力文書を交わしました。

山縣洋介 代表取締役

この企業は、ウクライナで生産される菜種やひまわりの種を使ったヨーロッパ向けの界面活性剤の量産を計画していて、長引く軍事侵攻で荒廃したウクライナの農地の復興にも役立てたいとしています。

また、沖縄県恩納村のスタートアップ企業、「EF Polymer」は、農地にまく「ポリマー」と呼ばれる材料の生産などに関する協力文書を現地の企業との間で結びました。

工場での製品製造の様子

ダムが破壊され、ウクライナの農地の水不足が懸念される中、吸水性が高く、オレンジの皮など自然由来の原料を使った自社のポリマーを普及させ、環境にも配慮しながら少ない水や肥料で作物を生産できるようにしたいとしています。

このほか、3Dプリンターを使って、短時間で住宅を建設する事業に取り組む兵庫県西宮市の「セレンディクス」も、医療施設や公共施設の提供に向けて、現地の建設会社と協力文書を交わしました。

3Dプリンターを使って建設した住宅

【NEXIも】
さらに政府系の保険会社「日本貿易保険」も、日本企業がウクライナに進出しやすい環境を整えようと、欧州復興開発銀行との間で協力文書を交わしました。

日本貿易保険はこのほか、19日の会議の中で、企業が被害を受けた場合に保険料に応じて損失を補填(ほてん)する「海外投資保険」の引き受け枠をウクライナ向けで新設し、1500億円規模とすることも明らかにしました。

女性・平和・安全保障をテーマにしたセッションも

午後には、紛争の予防や和平に女性が主体的に参画することが重要だとする「WPS(Women, Peace and Security)」という考え方をテーマにしたセッションも開かれ、両国の政府関係者のほか、ウクライナから日本に避難している女性8人が参加しました。

上川外務大臣は演説で「女性や子どもを含むウクライナの人々に寄り添い、WPSの視点を踏まえた取り組みを推進する」と述べ、WPSの視点を復興支援に取り入れる考えを強調しました。

そして、ウクライナから避難してきた人たちの家族が、一定の期間内に何度でも日本に入国できる「数次ビザ」を新たに発給する方針を発表しました。

これに対し、ウクライナのユルチェンコ次官は「復興は女性の参画なくしてかなわない。ジェンダーの視点を復旧プロセスに組み込むことが必要だ」と述べました。

セッションの最後には、避難してきた女性たちにウクライナの代表的な花である「ひまわり」をデザインしたTシャツが贈られました。

ウクライナ首相 “日本企業のウクライナへの進出に期待”

ウクライナのシュミハリ首相は19日、都内でNHKの単独インタビューに応じました。

この中で、会議を通じて日本とウクライナの間で56の協力文書を交わしたことに触れ「両国の間でビジネスを発展させる非常によい事例で、双方にとってすばらしい成果だ。企業の活動はウクライナの復興に向けて新たな可能性をもたらす」と述べ、日本の企業が今後、ウクライナに進出することに期待を示しました。

そのうえで「日本は地震や津波のあと国を復興させた経験がある。その経験や知識、技術がウクライナでの速やかな復興につながる可能性がある」と述べ、震災から復興してきた日本のノウハウを、ウクライナに取り入れたい意向を示しました。

一方、ロシア軍が17日にウクライナ東部の拠点、アウディーイウカを掌握したと発表したことについて「戦争は常に勝利や成功した作戦だけではない。命を守るために戦術的な決定をとることもある。残念ながら今は、ロシア軍が戦場では制空権を握っている」と述べ、ロシアの航空戦力や、ウクライナの弾薬不足によって劣勢に立たされているという認識を示しました。

そして、シュミハリ首相は、アメリカからのウクライナへの軍事支援が滞っていることについて「アメリカからの軍事支援の停滞は、来月にかけて決定的で重要な影響を戦場に直接、与え始めることになる。ロシア軍はウクライナの10倍の砲撃を行っている」と述べ、強い危機感をあらわにしました。

そして「プーチン大統領だけでなく、ほかの大勢の独裁者はこの戦争で誰が勝利するか注視している。ウクライナが敗北すれば、世界各地で多くの新たな戦争を招くことになってしまう」と述べ、ウクライナへの継続的な支援が欠かせないと訴えました。

ゼレンスキー大統領がSNS更新「揺るぎない支援に心から感謝」

ウクライナのゼレンスキー大統領は、東京で開かれた「日・ウクライナ経済復興推進会議」の終了後、日本時間19日午後9時すぎにSNSを更新し、「岸田首相をはじめとする日本の皆さまのわれわれの国への揺るぎない支援に心から感謝したい」と投稿しました。

そのうえで、「ウクライナと日本の協力関係はより強まっている。日本独自の専門性と経験がある復興を含む多くの分野で、力を最大限に発揮してもらえることを期待したい」としています。