新たな再編の幕開け?動き出した東京の信用金庫

新たな再編の幕開け?動き出した東京の信用金庫
今月13日、東京都内で信用金庫の合併交渉の動きが明らかになった。足立区と葛飾区に本店を置く2つの信金が協議を進めている。

実現すれば都内では実に19年ぶりとなる信金の合併。地方に比べて資金需要が高く、人口も増えている東京で、なぜ、今、再編なのか、現地で探った。

(経済部記者 真方健太朗、斉藤光峻)

信金の合併交渉、東京でも

履物店 店主
「祖父母の代からずっとつながりがある信用金庫なので合併のニュースにびっくりした。今まで通り地域に根ざした親切な信金であってほしい」
合併交渉が明らかになった翌日、新小岩駅前の昔ながらの商店街で、履物店の50代の店主はこう話した。

目の前の道路は「東栄信金通り」と名付けられている。

商店街から歩いて5分ほどのところに本店を構えるこの信金が、地域に根づいていることがよく分かる。

東栄信金は、昭和13年の設立で、従業員は144人。

葛飾区を中心に10店舗を展開していて、預金残高は都内に23ある信金の中で最も少ない1437億円だ(去年3月末時点)。
合併交渉の相手「足立成和信用金庫」の本店にも足を運んだ。

江戸時代から宿場町として栄えた北千住駅近くの商店街に位置する。

設立は大正15年で再来年には100周年を迎える。

従業員は433人、区内を中心に23店舗を展開していて、預金残高は5778億円と、都内で16番目となる。
本店の近くで青果店を営む60代の男性は「接し方には情があるし、相談にも対応してくれる。合併したとしても地元を尊重して接してもらいたい」と話した。

この青果店、もともとは大手金融機関とつきあっていたが、親身に相談に乗ってもらったことをきっかけに信金と取引を始めたという。

家族写真がプリントされた店のポスターを前に「足立成和さんが撮ってくれた」と、うれしそうに話した。

来年、合併が実現すれば、都内では2006年に3つの信金が「多摩信用金庫」となって以来、およそ19年ぶり。

預金量は合計でおよそ7200億円となり、都内の信金で13番目の規模となる。
東京商工リサーチによると、いずれかをメインバンクとする都内の企業数は合わせて1365社ある。

大手銀行や地銀には及ばないが、この企業数でも、都内に300以上ある金融機関で18番目になる見通しだ。

なぜ東京で?

信金や地銀が合併や統合を選択する動きは、人口減少や少子高齢化が深刻な地方で先行してきた。

一方、今回の舞台は東京だ。

その背景にあるのは、将来への強い危機感だ。

都内でも人口減少の局面に入れば、預金量の減少や貸出収益の低下も懸念される。

こうした事態に陥る前に、合併によって経営基盤を強化する。

関係者は、交渉の狙いをこう打ち明けた。

信金をめぐっては、相続などをきっかけにほかの金融機関に預金を移す動きが出てきているという。

デジタル化の遅れで特に若い世代の顧客が減っているという指摘もある。

確かに、足を運んだ葛飾区の商店街の店主は「以前は知り合いの多くが信金とつきあっていたが、今は減ってきているようだ」と話していた。

さらに、個人投資家向けの優遇税制「NISA」の拡充によって、株式などへ資金を移す動きが加速すれば、預金の流出が進むのではないかという懸念の声も出ている。
実際、信金の中央組織「信金中金」のまとめでは、昨年度(2022年度)までの20年間、信金全体での預金量は増加を続けているものの、今年度は9月時点(2023年度)での預金量が、前年度同期に比べて減少に転じている信金が都内でも出てきているという。

不安要素はまだある。

この先、日銀が金融緩和策を転換するという観測が強まっている。

「金利のある世界」が本格的に到来すれば、貸出による収益は改善することが見込まれるが、今度は、体力がある大手金融機関との預金の金利競争が激しくなる可能性がある。

人口が増えている東京でさえ、次々と押し寄せてくる変化の波。

その対応策として2つの信金が導き出したのが、今回の合併交渉だったと考えられる。

加速するか 再編の動き

今回の動きを受けて、金融業界からは「厳しいのは皆同じだ。合併を検討する信金は増えると思う」といった声が聞かれる。

その見立てどおり、都内の他の地域、そして、全国250あまりの信用金庫に波及するのだろうか。

「信用金庫」のルーツは、明治時代に経済的に弱い立場にあった農民や商工業者の相互扶助を目的に作られた「信用組合」にある。

利益が求められる銀行とは異なる非営利の組織と位置づけられる。

地銀などのように越境して大都市に店舗を設け、収益をあげることは原則できない。

だからこそ、個人商店や中小・零細企業との密着したつきあいで存在感を高めてきた。

こうした歴史的な経緯や地域重視の姿勢は、2つの信金が描く合併後の絵姿にもあらわれている。
店舗については、安易に統廃合は行わず、デジタル化の進展など時代にあわせた機能の見直しに着手する見通しだ。

また、職員の再配置などを通じ、事業者への支援の強化を図るという。

個人事業主や中小企業が課題として抱える、後継者の育成や新規事業の立ち上げなどに積極的に関わっていくことを目指している。

信金は、この先どのようにして、地域密着の金融インフラとしての存在意義を発揮し続けていくのか。

難しい環境に直面している信金の動向を今後も取材していきたい。

(2月14日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
真方健太朗
2011年入局
広島局などを経て、経済部で金融分野を取材
経済部記者
斉藤光峻
2017年入局
長野局などを経て、経済部で金融分野を取材