「危険」判定でも自宅に戻りたい 避難生活長引く中で何が?

「避難を続けることで、子どもたちの足を引っ張っているのではないか…」

石川県輪島市の高校で避難生活を送る男性は、そう話しました。

能登半島地震の被災地では、先の暮らしを見通すのが難しいなか、避難所から被災した自宅に戻ろうとする人が増えています。

自宅か 避難所か…

谷内さんと自宅

輪島市河井町の谷内家次守さん(77)は、地震の直後から輪島高校の体育館で避難生活を送ってきました。

その中で、日に日に、子どもたちが学校を使える状態に戻してあげたいという思いが強くなっているということです。

谷内さんは顧問を務める地元のホテルで営業再開に向けた準備を進めていて、離れた場所での生活は難しいため、自宅に戻る準備を進めているということです。

自宅は隣の家が傾いていることで応急危険度判定で「危険」とされています。

これまでに息子に頼んで棚やタンスなど地震で倒れるおそれがあるものを壁に固定するなどしたということです。

谷内さん
「避難先の学校では新学期を始めたいという話を聞きました。本来なら子どもたちを教える先生が私たち避難者のために受け付けや食事を配ってくれています。私たちが子どもたちの足を引っ張っているのではないかと思いました。事情が許せば学校から出たいと思っています」

仮設住宅 追いつかず

いま、被災地では仮設住宅の着工が入居の希望に追いつかず、先の暮らしを見通すのが難しいなか、避難所から被災した自宅に戻ろうとする人が増えています。

石川県によりますと、今月13日の時点で仮設住宅への入居の希望が7411件にのぼっているのに対し、完成したのは58戸で、工事が始まったのは2227戸となっています。

1次避難所は最も多いときで県内に404か所ありましたが、避難者が減っていることなどから集約され、16日の時点で254か所になり、生活する人が以前よりも多くなっている避難所もあります。

こうしたなか、NHKの取材では、プライバシーが限られたり、家の様子が気になったりするなど、さまざまな理由から被災した自宅に戻ろうとする人が増えています。

「危険」でも… 自宅に戻る人も

輪島崎町の萬正和彦さん(71)の木造2階建ての住宅は、一部が崩れるおそれがあるとして、「危険」と判定されました。

萬正さんは地区の区長で、地震の当日は大津波警報が出されたため、近所の人たちに声をかけながら高い場所に避難したということです。

その後は館長を務める公民館に避難者を受け入れて、支援物資の配付をはじめ、給水や炊き出しの調整と準備などにあたってきたということです。

萬正さんは1人でも多くの被災者を公民館に受け入れたいと考え、みずからは40日にわたって車で寝泊まりを続けてきました。

しかし、県外で暮らす娘から体調を心配され、家で電気が使えるようになったこともあって、今月10日から自宅に戻って生活しています。

萬正和彦さん
「避難所にはまだまだ多くの人が避難していて区長として住民のみなさんの支援や応援をしたいと思って地区に残って生活しています。落ち着いたところで業者に依頼して自宅を修理したいと思います」

輪島市によりますと、輪島崎町では応急危険度判定の調査を受けた町内の建物のうち6割が危険と判定されましたが、萬正さんによりますと、近所では避難先での生活が落ち着かず安心して眠れないなどの理由で、自宅に戻る人が増えているということです。

応急危険度判定 「危険」とは?

そもそも「応急危険度判定」とは、どういったものでしょうか。

「応急危険度判定」は、大規模な地震のあと2次被害の防止を目的に、建物が倒壊するおそれがないかや、窓ガラスや瓦などが落ちるおそれがないかを判定する制度です。

調査は各自治体がそれぞれの判断で実施本部を設置し、「応急危険度判定士」の資格を持つ行政職員や建築士などが行います。

先月10日 輪島市での「応急危険度判定」調査の様子

判定士は原則として建物の外から
▽壁や建物の基礎部分が壊れたりひび割れたりしていないか、
▽柱が傾いていないか、
▽屋根瓦や室外機がずれるなどしていないかなどを
目視で確認します。

判定結果は建物の出入り口などに貼り紙をして所有者や周囲の人に知らせることになっていて、
▽立ち入ることが危険な赤色の「危険」、
▽十分注意が必要な黄色の「要注意」、
▽通常通り使うことが可能な緑の「調査済み」の
3段階で示します。

貼り紙には判定士が建物の状態や危険な場所などについて「倒壊のおそれ」とか「室外機が転落するおそれ」などとコメントする欄も設けられています。

国土交通省によりますと、判定は建物の危険性などの情報を提供するもので、「危険」や「要注意」と判定されても、立ち入りを禁止するなどの強制力はないということです。

専門家「避難者の実情 把握を」

応急危険度判定で危険と判定された建物について、地震防災が専門の名古屋大学の福和伸夫名誉教授に聞きました。

福和名誉教授は「命に関わる危険があるという意味で原則として戻るのは好ましくない」としたうえで、「避難生活が6週間にも及んでいることが原因だ。万が一、いま強い揺れが来れば、多くの人たちが危険な住宅の中にいて、誰がどこにいるか分からない状態では救助することができない。行政は見て見ぬふりをせず、避難者の実情を把握することが大事だ」と指摘しました。

そのうえで福和名誉教授は、「筋交いを入れる補強や板を打ちつけるだけでも住宅の安全性が増す。り災証明が出る前に応急修理ができるようにするなど、行政の臨機応変な対応も必要だ」としています。

また、仮設住宅だけではなく、トレーラーハウスを用意するなど生活の場を提供することも重要だとして、「危険が早期に解消されるあらゆる手当てを考えることが大切だ」と述べました。

馳知事「できれば1次避難所を頼ってほしい」

建物の危険性を調べる応急危険度判定で、赤の「危険」と判定されたにも関わらず、自宅に戻って生活する人がいることについて、県はそうした状況があることは把握しているものの、人数など詳しいことはわからないとしています。

また、県としては避難を強制することはできず、注意喚起をして呼びかけるのが精いっぱいだとしています。

馳知事は今月13日、記者団の取材に対し、「非常に心を痛めている。さまざまなやむをえない事情で、そこに居ざるをえないということも、直接、伺っている。地震活動が2度とないとは言えず、身を守るためにも、できれば1次避難所を頼って頂きたい」と述べました。

その上で、被災地での仮設住宅の建設が1つの解決策になるとして、建設のペースを加速させる考えを示しました。