兄は“かまいたち” 特殊詐欺防ぐ名物店長【防止策を詳しく】

兄は“かまいたち” 特殊詐欺防ぐ名物店長【防止策を詳しく】
「以前にも来られませんでしたか?」

コンビニエンスストアのレジに電子マネーカードを持ってきた50代の女性に店長は声をかけました。積極的な声かけが特殊詐欺の被害防止につながっています。

この店長、実は有名人の弟なんです。
(松江放送局 記者 曽田幹広)

コンビニは最後のとりで

ことし1月。松江市のコンビニエンスストアの店長、山内剛さんは警察から表彰を受けました。

去年、このコンビニは島根県内で最も多い3件の特殊詐欺の被害を防ぎました。

山内さんは特殊詐欺の被害を防いだとして警察から表彰されるのは個人を含めて今回が6度目という名物店長です。
山内剛さん
「防止や表彰の件数は気にしていない。目の前の1件1件の詐欺を防ぎたい」
松江警察署 世良匡司 生活安全課長
「コンビニは特殊詐欺を止めてもらう最後のとりでだと思っている。詐欺被害防止に尽力していただいてありがたい」

急増する“電子マネー型”の被害

警察庁のまとめによりますと、全国で去年1年間に確認された特殊詐欺の被害は440億円余り。

実に毎日1億2000万円がだまし取られている計算です。
被害件数は1万9000件余り、4年前の1万3500件余りから3年連続で増加。ここ15年でみても最多でした。

その中で、前年の2倍以上に急増した手口が「電子マネー型」

現金ではなく電子マネーをコンビニエンスストアなどで購入させてその番号を送らせる手口です。

島根県内でも去年、コンビニでの「電子マネー型」の被害件数が4割を超えました。

名物店長は…

表彰を受けた山内さん。
松江市出身で、名字が山内ということからピンと来る人もいるかもしれません。

実は人気お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司さんの弟なんです!

弟の活躍に、健司さんはSNSで早速反応しました。
山内健司さんのX(旧Twitter)より
「凄いなぁ 県内1位言うてるけど、全国1位じゃないのかなぁ 頑張れーーー
山内剛さん
「投稿を見て何を言ってるのと思いましたが(笑)。応援してくれているのでうれしいです。兄からも力をもらって、こっちも頑張ってるよって」

詐欺被害をどう防ぐのか

手口が多様化する特殊詐欺の被害。山内さんはどう被害を防いでいるのか。去年のケースを教えてもらいました。
【ケース1】“高齢者が なぜ電子マネーカード?”

4月。50代の客が3000円分の電子マネーカードを購入しようとレジを訪れました。

山内さんは、カードの種類に違和感を覚えたといいます。
山内剛さん
「ゲーム用のカードを高い年代の人が買うのは珍しく、不審に思い声をかけました」
利用目的を尋ねたところ返ってきた答えはゲームとは全く関係のない「当選金を受け取る手数料」でした。

山内さんは、すぐに警察に通報し、被害を防ぎました。
【ケース2】“見覚えのある客が…”

9月にはこんなケースも。

5000円分の電子マネーカードを購入しようとした客に、山内さんは見覚えがありました。以前同様の手口でだまされかけた人だったのです。
そのときも声かけで被害を防いだという山内さん。顔と買うものを見て思い出したということです。

「怪しいとは思っていたんだけど」といぶかしむ客の背中を押し、警察に通報して被害を防ぎました。

従業員にも広がる声かけ

山内さんは、電子マネーカードを買おうとする年長者には必ず声をかけるようスタッフにも広めています。

11月にはレジを担当していた従業員が被害を防ぎました。

ただ、本当に買い物をしているだけの人もいるため、その見極めは難しいといいます。山内さんが意識しているのが、スタッフが声をかけやすい環境をつくることです。
山内剛さん
「お客さんに怒られるかなとか、店にクレームが入って迷惑かかるんじゃないかとかスタッフは心配する。店として取り組んでいるので大丈夫だよと伝えています」
山内さんはこうした積み重ねが広がり、社会全体で詐欺被害を防いでいきたいと考えています。
山内剛さん
「自分の出たテレビや記事を見て家族と詐欺について話をしたとか、祖父母に注意できたという話を聞くので、自分の活動から詐欺の防止が少しでも広まればと思っています」

詐欺被害を防ぐために

今回、紹介した2つのケースでは山内さんが防いだ金額は、あわせて8000円でした。

少額だと思う人もいるかもしれません。

しかし、少額だからこそ自分がだまされていることに気付きにくいものです。

山内さんのように日常生活の中で特殊詐欺に気付いて誰かに声をかけるのは難しいかもしれませんが、まずは自分がだまされないことが大切です。

対策について家族で話し合い、不審な電話があれば、すぐに周囲や警察に相談しましょう。

《警察“注意すべきポイントは?”》

去年1年間に全国で確認された特殊詐欺のうち、犯人側が被害者に接触する最初の通信手段は電話が77%余りを占めました。山内さんの店舗で防いだ3件もいずれも電話がきっかけで、だまされそうになったケースでした。
【「+1」や「050」で始まる電話番号に注意】
特殊詐欺では「+1」、「050」を使うケースが多い。
警察は、こうした番号からの電話には出ないことや、かかってきた電話番号が分かる機能のついた電話機を購入するよう呼びかけている。

【電話・SNSなどでの金銭の受け渡し話に注意】
▽投資でもうけることができる
▽能登半島地震への義援金をかたる
こうした金銭の受け渡しに関する話を持ちかけられたときは注意が必要。
身に覚えのない不審な連絡があった場合には、すぐに家族や警察に相談することが被害の防止につながる。
(1月31日「しまねっと610」で放送)
松江放送局 記者
曽田 幹広
2023年入局
出身地の島根県で特殊詐欺をなくすべく警察取材などを担当