がれきから見つかった将棋の駒を棋王戦に「妻も楽しみに」

「私の将棋の趣味を応援していてくれた妻も楽しみにしていると思う」

「棋王戦」の金沢市での対局で、2009年からはほぼ毎年、駒や盤を提供してきた石川県珠洲市の塩井一仁さん(63)。
妻の紀美子さん(64)は、1月の地震で自宅が倒壊して亡くなりました。

一仁さんの趣味は将棋で、結婚当初から、休みの日に将棋の大会などで外出する一仁さんを紀美子さんは温かく見守ってきたといいます。

一仁さんが所有する将棋の駒は、がれきの下から見つかりました。今月24日に、金沢市で行われる将棋の棋王戦に提供される予定です。

1月1日、塩井一仁さんと紀美子さんは珠洲市正院町の自宅1階で、くつろいでいるとき、最初の揺れを感じました。

去年5月の震度6強の地震なども経験していた一仁さんは「また地震か」と思いましたが、次に襲った2度目の揺れはこれまで経験したことがない激しい揺れでした。

2階部分が崩れ落ち、吹き抜け部分にいた一仁さんは助かりましたが、紀美子さんは天井の下敷きになり、大声で呼びかけても返事は返ってきませんでした。

紀美子さんは3日後、自衛隊に救出されましたが、その後、死亡が確認されました。

2人は共通の知人の紹介で知り合い、1997年に結婚、2人の子どもを育てました。

紀美子さんは、今は社会人になり離れて暮らす子どもに米や果物などを送ることを楽しみしていました。

一方、一仁さんの趣味は将棋で、結婚当初から、休みの日に将棋の大会などで外出する一仁さんを紀美子さんは温かく見守ってきたといいます。

一仁さんは将棋の駒や盤を複数持っていて、将棋の八大タイトルの一つ「棋王戦」の金沢市での対局では2009年からはほぼ毎年、駒や盤を提供してきました。

今月24日、藤井聡太八冠(21)に、伊藤匠七段(21)が挑む「棋王戦」第2局が金沢市で行われる予定です。

先月の地震のあと、がれきの下から駒や盤を見つけ出しましたが、一仁さんは「妻が亡くなり、華やかな場所に関わるのはやめておこう」と考え、ことしは駒や盤の提供を見送ることを考えたといいます。

地震の2週間後、紀美子さんの火葬を終えた一仁さんは、骨つぼを見ながら、趣味の将棋に打ち込む自分は紀美子さんの目にどのように映っていたのかと考えた時、長男が小学生のころ、将棋の大会で優勝したときに喜んでいた姿が浮かんだということです。

一仁さん
「棋王戦に駒や盤を提供することはある意味、私の日常です。妻もこれが私の日常だときっと好意的に受け止めてくれるのではないかと思い、その日常を取り戻す意味でもことしも提供しようと思います」