“核のごみ”最終処分地選定 「文献調査」報告書の原案公表

原子力発電に伴って発生する高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分地の選定に向けて、全国で初めて北海道の2つの町村を対象に行われてきた文献調査の報告書の原案が公表され、寿都町の全域と神恵内村の南端の一部が、次の段階の調査の候補地として示されました。報告書が正式にまとまれば、2つの自治体と北海道が、次の段階に進むことに同意するかが焦点になります。

報告書 “活断層などは 調査進んだ段階で詳しく確認”

これは、13日、NUMO=原子力発電環境整備機構が経済産業省の審議会に報告し公表しました。

「核のごみ」は長期間強い放射線を出し続けることから、地下300メートルより深くに埋めて最終処分を行うことが法律で決まっていて、処分地の選定に向けた第1段階の「文献調査」が、2020年11月から全国で初めて、北海道の寿都町と神恵内村を対象に行われてきました。

13日に公表された報告書の原案では、2つの町村の地質や火山、活断層に関する論文などのべ1500点余りの資料を分析した結果を、それぞれおよそ700ページにまとめています。

この中では、寿都町の全域と、神恵内村では火山の積丹岳の山頂から半径15キロを除いた村の南端の一部について、第2段階の調査で現地でボーリングなどを行う「概要調査地区の候補とする」と示されました。

これらの地域の大半は2017年に政府が作成した「科学的特性マップ」で、好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高いとされた範囲と重なっています。

一方、「科学的特性マップ」で、好ましくない特性があると推定されていた寿都町の南部周辺にある活断層や、神恵内村の南端に近い、過去に噴火した可能性が指摘されている山などは、文献調査段階では十分に確認できなかったため、調査が進んだ段階で詳しく調べるとして、「概要調査」の候補地からは除外しませんでした。

経済産業省は、審議会で数か月かけて議論をしたうえで、正式な報告を受けるとしていて、その後は、地元の町村長と北海道知事が「概要調査」に進むことに同意するかが焦点になりますが、鈴木知事は、処分場を受け入れないとする道の条例などを理由に、反対する意向を示しています。

調査は3段階 次に進むには知事の同意が必要

核のごみの最終処分地の選定に向けた調査は、3段階に分け、20年程度かけて行われることになっています。

政府の説明では、
▽はじめに、文献をもとに、火山や断層の活動状況などを調べる「文献調査」で2年程度、
▽次に、ボーリングなどを行い、地質や地下水の状況を調べる「概要調査」で4年程度かかる見通しで、
▽その後、地下に調査用の施設を作って、岩盤や地下水の特性などが処分場に適しているか調べる「精密調査」を14年程度で行う想定です。

対象の自治体には段階に応じた交付金が用意され、
▽はじめの「文献調査」では最大20億円、
▽次の「概要調査」では最大70億円が支払われます。

このうち、
▽第1段階の「文献調査」は、地元の自治体が応募するか国の申し入れを受諾すれば始めることができますが、
▽現地でボーリングなどを行って直接、地下の状況を調べる、第2段階の「概要調査」に進むには、地元の市町村長だけでなく都道府県知事の同意も必要になります。

「文献調査」の報告書は、正式に取りまとめられたあと、地元を中心に開かれる説明会などで、1か月以上の期間をかけて周知されることになっています。

そのうえで、NUMOが「概要調査」の具体的な計画を作成し、対象の市町村長と知事の意見を聴くことになっています。

制度上、「地域の意見に反して先へ進まない」と定められていて、寿都町と神恵内村の町村長、それに北海道知事が、次の段階に進むことに同意するかが焦点になります。

北海道 鈴木知事「現時点で反対の考え」

鈴木知事は、「北海道では放射性廃棄物を持ち込ませないための措置として、『処分場を受け入れる意思はない』との考えにたった条例が制定されている。仮に概要調査に移行しようとする場合には、現時点で反対の意見を述べる考えであり、その表明については道議会の議論や市町村、道民の意見を踏まえて適切に対応したい」とするコメントを出しました。

鈴木知事は寿都町と神恵内村が文献調査の受け入れを決めた4年前の2020年から、一貫して次の段階の概要調査に進むことに反対する姿勢を示しています。

神恵内村村長「経過を見守りたい」

文献調査の報告書の原案が公表されたことについて、北海道神恵内村の高橋昌幸村長は13日午後、村内で記者会見を開き、「報告書の原案は今後、国の審議会で適切に議論されると思うので、その経過を見守りたい」と述べました。

次の段階の「概要調査」に進むかどうかについては、「正式な報告書が出た段階で村長としての意見を述べたい。そのうえで村民の意向を確認してから進むか退くか決めることになるが、住民投票を実施するかどうかについてはまだ検討段階だ」と述べ、今後、必要に応じて住民向けの勉強会などを実施する方針を示しました。

また、寿都町と神恵内村以外に調査地域が増えていない現状については、「全国で1つでも多くの自治体が文献調査に手を挙げてほしい。より多くの調査地点からベストな場所を選ぶのが適切で、国にはそういう選択ができるよう動いてほしい」と述べました。

寿都町長はコメント発表せず

一方、北海道寿都町の片岡春雄町長は、今回、コメントを発表していません。

寿都町では、「概要調査」に進むかどうか、調査の是非を住民投票で問うことになっていて、片岡町長は、事前に町民対象の勉強会を開くとしていますが、ほかの調査地域が現れるまではいずれも実施しない方針を示しています。

林官房長官「地域の声に向き合い 丁寧かつ着実に進める」

林官房長官は午後の記者会見で「寿都町と神恵内村には『文献調査』の受け入れに改めて深く感謝したい。『概要調査』への移行の見込みについては報告書の原案をこれから有識者に議論してもらうところで、現時点でコメントは差し控えたい」と述べました。

そのうえで「『文献調査』の実施地域の拡大に向け、全国の自治体を個別訪問するなど取り組みを強化している。引き続き、地域の声に向き合い、説明を重ねながら、『文献調査』のプロセスを丁寧かつ着実に進めていきたい」と述べました。

地質学専門家 地質に懸念「両論ある場合 安全性を重視すべき」

北海道の地質学の専門家からは、寿都町や神恵内村の地質について懸念も示されています。

北海道の地質に詳しい、北海道教育大学の岡村聡名誉教授によりますと、寿都町や神恵内村には、海底の火山活動がきっかけで「水冷破砕岩」と呼ばれる岩石を中心に、軟らかい岩や硬い岩が混在しているということです。

岡村教授は「割れ目から地下水が入り込みやすく、『核のごみ』と接触するおそれがある」としたうえで、「場所によって地質が大きく異なるため、数か所の掘削調査で処分場の建設が可能かどうか、地下の全体像を把握することは困難だ」と述べ、今後、概要調査を行っても、建設に適しているか判断するのは難しいと指摘しています。

また、積丹半島沖の海底や寿都町の陸地では活断層の存在が指摘されていて、文献調査では関連する文献を収集していたものの、報告書の原案では処分場を設置する深さに断層は確認されていないとして、概要調査の候補地からは除外しませんでした。

同じく、神恵内村の南端に近い、過去に噴火した可能性が指摘されている「熊追山」と呼ばれる山についても、比較的新しい時代の火山の可能性があると指摘されていますが、原案では候補地から除外していません。

これについて岡村教授は、「両論ある場合、安全性を重視すべきだ」と話しています。

こうした指摘に対しNUMOは、文献調査で分かることには限りがあることから、次の段階以降の調査で詳しく調べるとしています。

去年11月に神恵内村で開催した勉強会では、NUMOの担当者が岩盤が水を通すかは水圧に左右され、亀裂があるからといって必ずしも通るわけではないと述べたほか、「熊追山」がいつの時代の火山かを調べた文献はないとして、次の段階の現地調査をしないと分からないと説明していました。

NUMOの坂本隆理事は、「この事業についていろいろな知見やさまざまな見解があることはわれわれれながら調査を丁寧に進めていきたい」と話していました。

国の審議会委員「技術者の懸念はいい機会 継続的に議論を」

北海道の地質に詳しい専門家から懸念が示されていることについて、環境地質学が専門で、地層処分について話し合う国の審議会の委員を務める名古屋大学の吉田英一教授は、「日本は地殻変動などが活発な『変動帯』と指摘され、技術的な観点で疑問が呈されているのは事実だ。地域の技術者の懸念の声はむしろいい機会と捉えて、1回や2回に限らず継続的に議論する機会として活用することが大事だ。地質学的な解釈の違いなのか、それとも確認していないデータがあるのかなど、お互いの考えが周りからも見えてくる」と話し、NUMOと専門家との間での透明性の高いコミュニケーションが重要だと指摘しました。

そのうえで、文献調査でわからないことは次の概要調査で調べるとするNUMOの説明については、「文献調査の対象となる論文や報告書は地層処分のためにまとめられたものではないので、文献調査だけですべてがわかるということはない。必要な情報は実際に現場で調べてみて初めてわかることがある」として、一定の理解を示しています。

一方で、「調べてみないとわからないから調査を進めるということだと歯止めが利かなくなる可能性もある。どこまでやったらよしとするのか、ここまで知りたいので『概要調査』を進めますとか、判断基準や要件が示されることで地元の方々も理解できる」と話し、なし崩し的に調査が進むことにならないよう、基準や要件が必要だと指摘しました。

処分地選定をめぐる経緯

核のごみの処分地選定をめぐっては、法律ができた2000年以降に鹿児島県や長崎県、秋田県などの自治体で勉強会を開くなどして調査への応募を検討する動きがありましたが、それが表面化するたびに住民や周辺自治体などから反発を招き、断念するケースが続きました。

2007年には、高知県の東洋町が全国で初めて調査に応募しましたが、賛成派と反対派の対立の末、その後の選挙で町長が落選し調査が始まる前に応募は撤回されました。

その後、2011年の東京電力福島第一原発の事故などを経て、調査の受け入れが表立って議論される機会はなくなっていきました。

このため政府は、2017年に、文献などをもとに火山や活断層の有無などを確認し、調査対象の有望地を色分けして示した「科学的特性マップ」を公表して、全国で説明会を開くなどして改めて調査への理解を求めてきました。

こうした中、4年前の2020年に北海道の寿都町と神恵内村が調査への応募や受け入れを決め、この2つの町と村を対象に、第一段階の「文献調査」が全国で初めて進められています。

ただ、地元の北海道からは、最終処分地の選定が「北海道だけの問題」とならないよう、調査地域の拡大を求める声が上がっています。

国やNUMOも全国に関心を広げる活動を進めていますが、去年、長崎県対馬市の市議会が調査の受け入れを求める請願を採択した一方、市長が調査を受け入れない意向を表明するなど、調査地域の拡大は具体化していません。