ダイハツ 認証取得の不正問題受け奥平社長退任へ 経営体制刷新

ダイハツ工業は国の認証取得の不正問題で、親会社のトヨタ自動車とともに記者会見を開き、ダイハツの奥平総一郎 社長が3月1日付けで退任し、後任の社長にトヨタ自動車の本部長が就任する人事を発表しました。ダイハツがトヨタ向けに行っていた小型車の開発と生産などの見直しを進めることにしています。

両社は午後3時からトヨタ自動車の佐藤恒治 社長らが都内で記者会見を開き、ダイハツ工業の奥平総一郎 社長が3月1日付けで退任し、後任にトヨタ自動車の井上雅宏中南米本部・本部長が就任する人事を発表しました。

また、松林淳 会長も職を退くことになり、経営体制を刷新します。

ダイハツによる国の認証取得の不正問題では、調査を行った第三者委員会が短期間の開発による現場の負担が不正の背景にあったと指摘しました。

トヨタの佐藤恒治社長は13日の会見で、ダイハツを軽自動車を軸とする会社とし、トヨタ向けに行っていた小型車の開発と生産などの見直しを進める考えを示しました。

一方、ダイハツは今月9日、車の開発スケジュールを長くすることなどを盛り込んだ再発防止策をまとめ国土交通省に提出しました。

今後は親会社のトヨタが積極的に関与する形で再発防止策の徹底が求められることになり、全面的な再開のめどがたっていない国内の自動車工場の生産再開に向けても取り組みを急ぐことになります。

ダイハツ 井上新社長「4月に新体制の方針説明」

「ダイハツ工業」の新しい社長に就任するトヨタ自動車の井上雅宏中南米本部・本部長は13日の記者会見で「従業員やステイクホルダーと徹底的に対話し、今後のダイハツのあり方を定め、4月に新体制の方針を説明したいと考えている。ダイハツのメンバー全員で心をひとつに再出発していく」と述べました。

井上新社長「再生に全力尽くしたい」

また、「ダイハツが力不足の点はトヨタの力を借りながら確実に実行していく。そして不正を引き起こしたダイハツの組織風土をダイハツメンバーと共に力を合わせて改革し、ダイハツ再生に全力を尽くしたいと考えている」と述べました。

トヨタ自動車のグループのほか、資本関係があるスズキといすゞ自動車が参加し、脱炭素などの技術開発を進めるための会社、「CJPT」については、再発防止を最優先に取り組むため、ダイハツ工業が会社から脱退したことを明らかにしました。

トヨタ 佐藤社長「再発防止に取り組む」

トヨタ自動車の佐藤恒治社長は記者会見で、子会社のダイハツ工業の不正問題について、「ダイハツ工業による不正問題によってお客様にご迷惑、ご心配をおかけしておりますこと、おわび申し上げます」と述べ、あらためて謝罪したうえで、「ダイハツはトヨタとともに、安全安心を第1に置いた車作りを徹底し、風土改革、経営改革、ものづくり、ことづくり改革の3つの誓いに基づき、再発防止に取り組んでまいります」と述べました。

ダイハツ “今後は軽自動車に軸を”

また、「良品廉価な車づくりは本来のダイハツの強みであり、その原点に立ち戻り、会社を作りかえる覚悟でダイハツらしさを取り戻していきたい」と述べました。

そのうえで、ダイハツの今後の事業について、「軽自動車に軸を置いた会社と定め、海外事業については企画、開発、生産をトヨタからの委託に変更する方向で詳細を検討していく。将来的に小型車を中心に、ラストワンマイルまで視野に入れたモビリティカンパニーという役割を担えるよう、あるべき姿を検討していく」と述べました。

新社長 選任の理由

ダイハツ工業の新しい社長に井上雅宏氏を選んだ理由については、「新興国を中心にことばの壁を乗り越えながら、かなり厳しい事業環境の中でもコミュニケーションを大切にしながら取り組んできたリーダーだ。現場で対話をしながら、一緒になってダイハツの向かうべき方向を従業員全員と取り組んでくれることを大切に考えて人選した」と述べました。

今後の取り組みについて

今後のトヨタとしての取り組みについては、「実際の仕事の中で『正しいプロセス、正しい仕事とは』ということを問いかけながら、語り合いながらやっていくことが一つの責任の果たし方だと思う」と述べました。

そのうえで、「ダイハツの負荷を高める結果になっていったと考えられる海外事業に関するスキームについては、ダイハツに対する負荷を考慮しつつ、トヨタの得意領域はトヨタの方で取り組んでいくという事業分担の見直しも考える。ダイハツの負荷を適正化していくことも、われわれが取り組んでいくべき課題の1つだと思っている」と述べ、グループ内でのダイハツとの役割分担を見直す考えを示しました。

ダイハツ工業の新体制について

ダイハツ工業の新体制については、「本当に企業を作り直すぐらいの覚悟でやろうということで検討をスタートしており、不正問題の発覚当初、ダイハツという企業の存続そのものが、社会から認められないのではないかというところを原点にしている。トヨタに対する一体化も含めて検討してきた」と述べました。

そのうえで、「ダイハツという企業が100年を超える歴史で守ってきたものを、やはりダイハツの本来の役割をもう一度お任せいただけないかという結論に至った」と述べました。

経営体制 刷新の理由

ダイハツ工業の経営体制の刷新の理由については、「再発防止を徹底しながら、ダイハツらしさを取り戻していくために必要な体制変更を行うという観点であり、引責辞任ということではない。現社長の奥平本人からは辞任の申し出もあり、副社長として留任する星加からも辞任の提案があったが、経営の責任という観点で、当人たちの思いもしっかり受け止めたうえで考えている」と説明しました。

ダイハツ工業の新たな経営体制 会長不在 副社長は2人体制に

ダイハツ工業は今回の経営体制の刷新で、4人の取締役のうち3人をトヨタ自動車出身者が占める体制となります。

トヨタ自動車からは井上雅宏 次期社長のほか、副社長には以前、トヨタの副社長も務めていた桑田正規氏が新たに就任します。

また、非常勤の取締役には、トヨタの顧客対応などを担当する部署で副本部長を務める柳景子氏が新たに就任します。

一方、今のダイハツの取締役のうち、奥平総一郎 社長と松林淳 会長をはじめ5人が取締役を退任し、新たな体制ではダイハツ出身の取締役は留任する星加宏昌 副社長の1人となります。

会長は不在となり、副社長は新たに2人体制となります。

ダイハツ工業の不正とは

去年12月に公表された第三者委員会の調査では、「ダイハツ工業」の不正は25の試験項目で174件にのぼります。

最も古いものは1989年で、2014年以降に不正の件数が増加したと指摘しています。

衝突試験のほかに排ガスや燃費の試験なども含まれ、装置の不正な加工や交換、速度の改ざんなどがありました。

具体的には、
▽衝突試験の際に、本来は衝突をセンサーで検知してエアバッグを作動させる必要があるにもかかわらず、タイマーによって作動させていた事例があったほか、
▽運転席側のかわりに、助手席側の試験結果を使用していた事例もあったということです。

こうした不正が行われた背景には、過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによって、認証試験にそのしわ寄せが来る実情があり、社内で「認証試験は合格して当たり前」という考え方が強かったことに加え、現場に強いプレッシャーがかかる中、管理職が現場の実務に精通しておらず、問題解決が現場任せになっていたこと、専門性の高さから衝突試験が「ブラックボックス」化していたことなどをあげています。

そのうえで、第三者委員会は、
▽短期開発の見直しや
▽相互のけん制が機能する組織の再構築
▽現場と管理職のコミュニケーションを促進する取り組みの導入などを提言していました。

トヨタ自動車とダイハツ工業の関係

トヨタ自動車はダイハツ工業と小型車の開発や供給などを通して緊密な関係を続けてきました。

トヨタは1998年にダイハツの株式の過半数を取得して子会社化し、2016年にはすべての株式を取得して完全子会社化しました。

トヨタとしては、ダイハツが得意とする小型車の需要が新興国などで伸びると見込み、その分野の競争力を高めるねらいがありました。

完全子会社化以降、ダイハツが主体となったトヨタとダイハツ双方のブランドの小型車の開発が加速していきます。

さらに、2017年には両社にまたがる組織として「新興国小型車カンパニー」を発足させ、ダイハツが中心となってトヨタブランドも含めた新興国向けの小型車の開発にさらに力を入れるようになりました。

ダイハツの不正問題に関する第三者委員会の報告書では、ダイハツがトヨタの完全子会社になって以降、トヨタの海外事業の生産プロジェクトにも関わるようになり、車両の出荷先や生産国が増加していったと指摘しています。

報告書では不正の背景として、短期間での開発が指摘されましたが、ダイハツがトヨタグループの中で、その強みを海外にも展開する「トヨタの遠心力」とも称される役割を期待されるようになり、その期待に応えようと奮起したことも背景の1つになったと指摘しています。

トヨタの佐藤恒治社長は先月、記者団に対し、「一定の自立性を持って小型車の開発をリードすることがトヨタにとっての遠心力になるという前提で進めてきた結果、この状態が生まれている」と述べ、両社の関係性に課題があるという認識を示していました。

トヨタ自動車のグループ会社で相次ぐ不正

トヨタ自動車のグループ会社ではおととし以降、国の認証の取得などに関する不正問題が相次いでいます。

▽おととしには、日野自動車でエンジンの排出ガスなどについて不正なデータを国に提出していたことが明らかになったほか、
▽去年、ダイハツ工業で海外向けの一部の車種で認証に必要な衝突試験の際に不正があったことが明らかになりました。

ダイハツではその後、国内向けの車種でも不正が発覚するなど問題が拡大しています。

また、
▽去年3月にフォークリフト用のエンジンなどで法規違反が明らかになった豊田自動織機も、ことし1月、自動車用エンジンの認証手続きでの不正を新たに公表しました。

相次ぐ不正はグループの事業にも影響を与えています。

ダイハツは国内の4つの自動車工場で生産を停止し、12日、国が基準への適合を確認した一部の商用車に限って、およそ1か月半ぶりに京都工場で生産を再開しました。

また、子会社のダイハツ九州の大分工場でも今月26日から10車種の生産を再開することを決めていますが、主力車種の「タント」などについては国の確認試験が続いていて、全面的な生産再開のめどは立っていません。

また、トヨタも不正が見つかった豊田自動織機からエンジンの供給を受ける10車種について、一部の海外向けを除き出荷を停止しているため、国内2つの工場の2つの生産ラインで今月16日まで生産の停止を続けることを決めています。

それ以降の生産については改めて決定するとしていて、グループ内の一連の不正問題による車の生産への影響が現在も続いています。

トヨタの新興国戦略に影響与えるかが焦点に

トヨタは世界戦略のなかで、東南アジアなどの新興国について、成長が見込まれる重要な市場と位置づけています。

この戦略のもとでダイハツと連携しながら小型車などの投入を進めてきました。

現在、トヨタはマレーシアやインドネシアなどの新興国向けの小型車としてダイハツから7車種の供給を受けているほか、ダイハツが開発してトヨタの工場で生産している小型車もあります。

トヨタは今後、新興国向けの小型EVなども投入していく考えを示していますが、ダイハツの事業の見直しがこうしたトヨタの新興国戦略にどのような影響を与えるかが焦点となります。