田上宏樹さん(55)は去年の大みそか、いつもの年末と同じように家族4人で輪島市河井町の実家に帰り、母の嘉子さんと過ごしていました。
宏樹さんには中学3年生になる双子の長男と長女がいます。
「頑張るましや(頑張るんだよ)」
年が明けたら高校受験が控える2人に、嘉子さんはそう声をかけて励ましたといいます。
元日は、朝から嘉子さんが作ったおせちや雑煮を食べました。
そして午前11時ごろ、宏樹さん家族は実家をあとにして、10キロほど離れた輪島市内の自宅に戻りました。
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「受験頑張るんだよ」前夜励ましてくれた“輪島のばあちゃん”
孫たちに“輪島のばあちゃん”と呼ばれていた、輪島市の田上嘉子さん(77)です。
いつも好物のカレーをふるまい、地震の前日には受験を控えた孫たちを励ましていました。
つい数時間前まで一緒だった母との別れに、長男の宏樹さんは「今までありがとう。それしか言えなかった」と話しています。
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おせちやお雑煮を食べ、離れた実家
「逃げていてくれれば」
地震が起きたのはそのおよそ5時間後のことでした。
激しい揺れのあと、母の携帯に電話をかけましたが、つながりません。
「どこかに逃げていてくれればいいが」宏樹さんはそう思いながら1人で車に乗り、数時間前までいた実家を目指しました。
しかし途中の道路は落石や段差がひどく、近づくにつれて同じ地区で起きていた火災の真っ赤な炎も目に入ってきました。
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なんとか駆けつけると、2階建ての実家は1階部分がつぶれていて、入口から入ることができない状態でした。
宏樹さん
「2階が1階になっとるし、これは入れないなと」
携帯を鳴らすと着信音が
呼びかけても返事はありませんが、母の携帯を鳴らすと家の1階の真ん中のあたりから着信音がしました。
ガラスを割って家の中に入り、音のする居間のあたりを目指してヘッドライトの明かりを頼りに、無我夢中でがれきをかき分けました。
2階から落ちてきた家具などを放り投げ、畳などをめくったとき、下にいた嘉子さんを見つけました。
宏樹さんは脈を確認したもののもう反応はなく、肌は冷たくなっていたということです。
その後、病院に運んで死亡が確認され、死因は圧死だと言われました。
宏樹さん
「警察からはあんまり苦しまず、亡くなったと説明を受けた。それが唯一の救いです」
宏樹さんにとって、そのあと家族が待つ自宅に戻った時がつらかったといいます。
余震が続く中、車中に避難していた家族がみんな車から出てきて「お母さん、どうやった?」と聞かれました。
「もうね、ダメやった。輪島の病院に置いてきたわ」
前夜、励まされた2人の孫たちは「うわーっ」と大声をあげて泣いたということです。
宏樹さんは、それから2週間たった1月15日、ようやく母の火葬を済ませることができました。場所は輪島から100キロ以上離れた小松市の斎場でした。
宏樹さん
「1月1日から、ずっともう日常じゃないのね。ずっと夢見ているみたいな感じやからね。毎日が日常じゃないし、もう一か月たったんやと思ったけど」
「もっと親孝行したかった」
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“輪島のばあちゃん”と呼ばれ、孫たちに慕われていた嘉子さん。
宏樹さんの子どもたちは学校が終わると、嘉子さんの自宅に寄って宏樹さんたちの迎えが来るまで過ごすことが日課になっていました。
宏樹さん
「輪島のばあちゃんのカレーが一番おいしいわって言うとったわ。俺もそう思うけど」
嘉子さんは離れた場所に住むほかの孫にも、誕生日には電話してお祝いのことばをかけ、プレゼントも贈っていたということです。
宏樹さんは、子どもたちの受験が終わる3月には母親を連れて東京にでも旅行に行こうと計画していました。
「親孝行したくても親はなしとならないように」との思いからでしたが、それはかなわなくなってしまいました。
宏樹さん
「もう単純に、ありがとうやね。今までありがとうって。本当に家族思いで、自分よりも家族のことを優先する母親でした。もっと親孝行したかったです。
来年からは正月が命日。新しい年が来ても悲しい思いをするのかな。つらい気持ちは一生消えないです」
ニュースポスト
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能登半島地震 被災地からの声(随時更新)
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