「なんであんただけ先に逝ったんや」弟へ【被災地の声】

亡くなった光次さんの写真です。

「わぁぁ」

写真を手にした姉の園利子さん(その・としこ、80)は、声をあげてしばらくじっと見つめました。そして、光次さんのほおや頭を優しくなでていました。

地震で起きた土砂崩れに、輪島市の自宅が巻き込まれた弟。

「光次、私が送ってもらいたかった。ちゃんと安らかに眠ってね」

一瞬にして土砂が……

輪島市三井町で1人暮らしをしていた中橋光次さん(72)はあの日、地震で起きた土砂崩れに巻き込まれました。山の斜面が広い範囲で崩れ、光次さんの自宅は土砂と木で埋まりました。

光次さんはしばらく「安否不明」となっていましたが、地震から5日後に見つかり、死亡が確認されました。

姉の利子さん(80)は、光次さんは「きれいな顔をしていた」と話しています。

「一瞬にして大きなの(土砂)が来たら、たぶん逃げ場もなかったと思う。でも死に顔を見たら、寝ているような顔で傷もない状態だった。涙が出ました。なんでこの子だけこういう目に遭うのか……」

「1人でよく頑張ったね」

光次さんは8人兄弟の末っ子でした。左官職人として勤めていた会社を定年退職したあと、亡くなった兄に代わって家を継ぐために1人で実家に帰ってきたということです。

亡くなった光次さんに、利子さんはこう声をかけたといいます。

「家を守ってくれてありがとうねって。災害からは守りきれんかったけどね。人に迷惑もかけず、1人でよく頑張ったね」

また、利子さんの夫で、光次さんの義理の兄の敬さん(81)は、光次さんとは「血のつながった本当の兄弟のように、何でも言い合える関係だった」と話しています。

「ずっと家のことを守りながら動いてくれていた。冬は雪すかし(雪かき)して、春先になったら家の周りの草を刈ったり掃除をしたりしていた。『光次、今度また来るから元気しといて』と言って帰ると、いつも玄関から出て車が見えなくなるまで手を振っていた」

「ちゃんと安らかに眠ってね」

今回の地震では、利子さんと敬さんが住んでいた輪島市の自宅も地震で倒壊しました。

現在、2次避難先の加賀市のホテルで過ごす2人は、光次さんの写真を持っていませんでした。

取材の日、記者が利子さん夫妻の2人の長男から提供を受けた20年ほど前の光次さんの姿を写した写真を手渡しました。

「わぁぁ」

利子さんは声をあげて、しばらくじっと見つめました。そして、写真の中の光次さんのほおや頭を優しくなでていました。

「光次」

利子さんは名前を呼び、こう語りかけていました。

「なんであんただけ先に逝ったんや。私が送ってもらいたかった。ちゃんと安らかに眠ってね。お墓も小さいながらもまた作ってあげるね」