石川県穴水町川島の中島俊博さん(38歳)は、あの日、家族で初詣に出かけていました。
自宅に帰宅して30分後。
おいの羚善(れい)くんにサプライズで見せようと、2階で動画編集をしていた時でした。
突然の地震。
大きな低い音と衝撃とともに、大量の土砂が自宅に押し寄せます。
「最後の最後までかっこいい父ちゃんやったな」
家族で出かけた初詣。
帰宅して30分後のことでした。
突然の大きな揺れ、自宅に流れ込む土砂。
5日後、見つかった父は、孫を守るように抱きかかえていました。
「最後の最後までかっこいい父ちゃんやったな」
石川県穴水町で4人の家族を亡くした息子の声です。
(金沢放送局 記者 原祢秀平)
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自分以外の家族が全員…
中島さん
「今までの地震とは明らかに違う揺れ方だった。ダンプがつっこんできたかっていうような衝撃があって、部屋が横に傾いてた」
1階には、中島さんの両親と妹、そして羚善くんがいました。
階段から下はすでに崩れ落ちていました。
屋根をつたってなんとか外に出た中島さん。
何としてでも家族を助けなければ。
崩れた風呂場の隙間をかき分けて捜します。
しかし、現場は再び土砂崩れのおそれがありました。
近所の人に説得され、その場を離れざるをえませんでした。
中島さん
「めっちゃ複雑ですよね。僕としては助けたいけど、僕が助けようと思ってやっていることで、ほかの人にも被害が及ぶことを考えたら。本当はそのまま捜し続けたかったんですけど自分1人の力では、どうにもできんと判断して、いったん逃げるしかないということで、ついて行く格好になりました」
仲がよかった中島さん家族
5人家族の中島さん一家。
仲がよく、ふだんから写真や動画で日常を記録していました。
あの日、2階で動画編集をしていたのは、友達にYouTubeを見せたいという羚善くんの願いをひそかにかなえるためでした。
地震発生直前に完成した動画には羚善くんが親子で海に出かけたときなど何気ない日常が映っていました。
チョコレートやアニメが好きで、家族全員からかわいがられていた羚善くん。
友達の輪に入るのが苦手な子を遊びに誘うような優しい性格でした。
妹の美穂さんは、就寝前には息子の羚善くんと必ず話をするなど、親子の時間を大切にしてきました。
ふざけ合うのが大好きで、家の中心にはいつも2人の笑顔がありました。
また、勤務先でも同僚の信頼が厚く仕事に熱心に取り組んでいたということです。
父親の博さんと母親の國子さんは、おたがいを大事に思い合う、中島さんにとって尊敬できる両親でした。
自分を「祭り男」と呼ぶほど祭りが好きだった父親の博さん。
中島さんがプレゼントした湯飲み茶碗に焼酎を入れて家族とお酒を飲むのが好きでした。
母親の國子さんは「みんながいてくれたら十分」と家族を何より大切にしていました。
ガーデニングが趣味で自宅の庭はきれいな花が植えられていました。
最後の最後までかっこいい父ちゃんやったな
そんな家族との別れは突然でした。
地震翌日、土砂の中から、母親の國子さんと、妹の美穂さんが見つかったと連絡を受けました。
しかし、意識はなかったそうです。
大量の土砂に妨げられ、2人をすぐに運び出すこともできませんでした。
さらに1月6日。
父の博さんと、おいの羚善くんが見つかったと連絡を受けました。
博さんは、羚善くんを守るように抱える状態で見つかったということです。
中島さん
「救出した方から『父ちゃんは妹の子どもかばっとったよ、そっから救いあげたよって』言われて。最後の最後までかっこいい父ちゃんやったなって。自分も怖かったやろなって思うなかで、守ったのはすごいなって」
遺骨のぬくもりで感じた別れ
家族でただ1人助かった中島さん。
なかなか家族を亡くした実感がわかなかったといいます。
中島さん
「ふらっと家の近くに行ったときに、もしかしたらひょこっと出てこんかなって。火葬しますよってなったときも正直実感なかったですよね。本当に自分の家族なのかなみたいな」
しかし、火葬を終えて遺骨を抱えた時に初めて、別れを実感したといいます。
中島さん
「温かさ、まだここにおるのかなというのがすごくあったです。これが最後のぬくもりかなと。小さい時、母ちゃんにぎゅっと抱き締めてもらった温かさになんとなく似ていて。あのぬくもりは、まだ忘れられないですね」
4人への思いを抱きながら
今は、自宅が倒壊したため、4人の遺骨と遺影は妹の美穂さんが働いていたクリニックで預かってもらっています。
中島さんは4人への思いを大切に過ごしていきたいと話しています。
中島さん
「先のことは考えられず、いまをどうにか生きていくことでいっぱいいっぱいですが、それでも4人には『俺頑張るわ』と言いたいです。父のようにかっこよく、母のように物知りで、妹のように明るく、おいのように活発になりたい。4人の思いやよかったところを引き継いでいきたいです」