能登半島地震 自治体職員の疲労度合い 長期把握システム初導入

能登半島地震の被災地で、自治体職員の疲労の度合いを長期的に把握し、休暇を促すなど体調を悪化させないための対策を迅速にとるためのシステムを医師などで作る専門家の支援チームが初めて導入しました。

過去の大きな災害では、自治体の職員が精神的な負担感の大きさや基準を超えた時間外労働などで、精神疾患や心疾患などを発症したケースもあり、被災地の復旧や復興に向けた業務に長期間あたる職員の健康管理が課題とされてきました。

こうした課題を受けて、今回、産業医科大学などの専門家の支援チームが、被災者や支援者の健康状態を確認するために開発されたJ-SPEEDと呼ばれるシステムを自治体の職員向けに初めて導入しました。

このシステムは、パソコンやスマートフォンを使い、職員自身が疲労の度合いを10段階で自己評価するほか、「パフォーマンスの低下がないか」などの項目を確認していくもので、入力された結果を受けて医師や保健師が必要に応じて電話などで健康状態などの聞き取りを行い、休暇の取得を促すなどの対策につなげるのがねらいです。

珠洲市、輪島市、志賀町、穴水町、能登町の5つの市と町で導入されていて、先月14日から今月2日までの1255人の累計では、疲労点数7点以上と申告した「疲労度が極めて高い」と認められる人は26.7%でした。

また、疲労度が極めて高い人は、そうでない人と比べると、
▽眠れていない
▽イライラしている
▽パフォーマンスが低下している
といった声をあげる人が多い傾向にあるということです。

ただ、システムを利用していない職員もいるため、実態はより深刻であるおそれがあるほか、今後時間の経過とともにさらに深刻になる懸念もあるということで、被災地の復興に向けて、支援チームは、自治体職員への長期的な支援が求められるとしています。

自治体職員の心身負担 過去の大災害でも

東日本大震災など、過去の大きな災害でも復旧復興の対応にあたる自治体職員の心身の負担の大きさが課題として指摘されてきました。

自治労=全日本自治団体労働組合などは、東日本大震災で被災した岩手県、宮城県、福島県の沿岸34の自治体職員6073人を対象に、発災から1年後の2012年4月から5月にかけてこころの健康調査を実施しました。

その結果によりますと、震災前と比較して発災後の1か月から3か月で
▽時間外労働時間が
「増えた・大幅に増えた」と答えた人の割合は67.2%
▽休日数が
「減った・大幅に減った」と答えた人の割合は59.3%
▽睡眠時間が
「減った・大幅に減った」と答えた人の割合は67.4%
といずれも過半数を超えていました。

また、発災から1年を経過した時点で専門家のサポートが必要な高ストレスの状態だった人の割合は21.3%で、メンタルヘルスのサポートなど継続的な支援の必要性が指摘されていました。

また、地方公務員災害補償基金によりますと、東日本大震災では、岩手県、宮城県、福島県、そして仙台市の支部で、復旧や復興の業務が原因だと認定された公務災害は合わせて128件でした。

いずれも発災翌日の2011年3月12日以降に起きたもので
▽がれきの撤去作業や捜索活動など公務中にけがをした事例が119件
▽精神疾患が7件
▽心臓や脳血管の疾患が2件でした。

このうち精神疾患を患い、みずから命を絶った人が3人、心臓や脳血管の疾患で亡くなった人が1人の合わせて4人の死亡が認められています。

専門家「休める環境作りを」

職員の健康を迅速に把握するJ-SPEEDを導入し、対策にあたる専門家の1人で、産業医科大学災害産業保健センターの立石清一郎教授は「自治体の職員は、みずから被災しながらも、中には1日も休んでない方や睡眠時間を大きく削りながら作業をしているという方がたくさんいた。特に疲労度で如実に影響が出てきている」と指摘しています。

取られるべき対策として「まずは5時間以上睡眠がとれる環境をつくることが大事だ。ただ、休めということを外から声高に言うだけでは職員も困ってしまうので、外部からの支援をしっかりと入れて休める環境を作ることが望ましい」としています。

そのうえで「過去の災害では自治体の職員の中にも頑張りすぎてしまった結果、状況が落ち着いた時に、ぽっきりと心が折れてしまい、仕事に戻れなくなってしまう人や、仕事を辞めざるをえなくなってしまった人もいた。働ける人が少なくなると、結果的に復興にも大きく影響が出てしまいかねないので、休む事によって、よりよい活動ができると皆が認識することが大切だ」と訴えていました。

珠洲市役所では約2週間の連続勤務も

珠洲市役所では先月の地震発生後、1週間ほど自宅に戻れずに庁舎に泊まり込みをした職員がいたほか、連続勤務が2週間ほど続いた職員もいたということです。

全国の自治体から応援が入ったことから、現在は休みを取得できるようになったといいますが、それでも土曜日と日曜日のどちらかは出勤している職員が多いといいます。

また、職員自身も被災していて、避難所や親戚の家から出勤したり、市役所の駐車場で車中泊を続けながら出勤している職員もいるほか、家族を亡くした職員もいるということです。

さらに、ふだんとは異なる災害対応の業務にあたる必要があり、このうち、議会事務局の鳥毛祥瑛さんは、現在は市役所の総合案内の窓口業務を担当しています。

鳥毛さんも市内の避難所から出勤しているということで「記憶があいまいですが、被災直後は12、13連勤くらいしていました。業務量よりも精神的な負担が大きいです」と話していました。

また、環境建設課で水道料金を担当している男性職員は「これまでは夕方6時ごろには帰れていましたが、今は夜10時ごろに帰宅しています。また、休日も窓口対応で出勤するので業務量は2倍以上になっていて、疲れたなと感じることがあるほか、体調を崩す職員も増えています」と話していました。

珠洲市ではおととし6月と去年5月の地震でも被害があったことから、災害対応の業務が続いている職員の健康管理のため、全国の自治体で初めてJ-SPEEDのシステムを導入したということで、適切な住民サービスを守っていきたいとしています。

システムの運用を担当している総務課の石尾泰宏課長補佐は「被災直後は、顔を見ていても、疲れているな、大変だなという職員ばかりでした。自身も被災している中で業務を続けていくことに負担を感じている職員はたくさんいると思う。復興を進めるためにも職員の健康を気遣っていきたい」と話していました。