私の「ロレックス」がフリマアプリに… 腕時計シェア会社解散

人気が高まる高級腕時計の「シェアリングサービス」を展開していた大阪の会社が、先月末、突然の解散を発表しました。

腕時計を預けて「シェア」してもらい、時計のランクに応じた預託料を受け取れるというシステムでしたが、「自分が預けていた時計が返ってこない」などと不安や戸惑いの声が広がっています。

時計を預けた会社が突然解散

先月31日、ホームページで解散を発表したのは、高級腕時計の「シェアリングサービス」、『トケマッチ』を展開していた大阪の会社です。

『トケマッチ』のシステムは、人気の高まりで急速に値上がりしている高級腕時計を預かり、使いたい人に月額でレンタル。

預けた人は「オーナー」として、会社から時計のランクに応じた月額の預託料を受け取れるというもの。

会社は「売却するよりも実利的な『シェアリングエコノミー』。新しい形の腕時計ライフをお楽しみいただけます」などとうたっていました。

会社のホームページでは突然の解散の理由について「諸般の事情」とした上で、預かっていた時計は「6か月を目安に発送する」などと説明していますが、現在は電話をしても連絡がとれない状態となっています。

SNS上では「預けていた時計が戻ってこない」、「自分の時計はどうなったのか」などと、不安や戸惑いの声が広がっています。

NHKは会社の所在地である大阪市内のマンションを訪ねましたが、インターホンを押しても応答はなく、メールでの取材の申し込みにもこれまで回答はありませんでした。

「ロレックス」など合計5000万円相当が返却されないまま…

預けていた「ロレックス」など、高級腕時計28本、仕入れ額の合計で5000万円相当が返却されないままだという30代の時計商の男性は、『トケマッチ』が設定していた預託料が高く、投資先として魅力的だったことに加え、サービスを展開する企業が業界団体の認証を取っていたことから信用できると考え、法人契約を結んで在庫の時計を預けていました。

45本の高級腕時計を預け、月額100万円を超える預託料が入っていたといいますが、先月末、突然、17本の腕時計が箱に入った状態で自宅に届きました。

男性が預けていた時計

不審に思ってホームページを調べたところ、会社の解散とサービス終了が告知されていたということです。

手元に戻らない28本の時計は、預けていたもののなかでも特に価値の高いものばかりだったということです。

男性
今思い返すと、12月に大々的なキャンペーンもしていて、計画的だったのかなと思います。当たり前のことですが、時計を返してほしい。友人や家族を誘って、時計を預けていた人たちは人間関係も崩れてしまうと思います

自分の時計がネットで出品されている

1本数百万円で購入した腕時計4本を『トケマッチ』に預けていた30代の会社員の男性は、先月末、サービスが突然終了したあと、時計のオーナーたちの間で「自分たちの時計がネットで売られているらしい」とうわさになっていることを知りました。

型番で検索したところ、自分が預けていたものとよく似た時計がフリマアプリに出品されているのを見つけたということです。

保証書の写真を見ると、購入日も同じだったことから警察に連絡し、警察が出品元の時計販売店に確認をとったところ、男性の時計とシリアルナンバーが一致していることがわかったということです。

男性
売られているのを見つけた時はとてもショックで、だまされたと感じました。残りの3本も転売されているのかと思い探していますが、見つけるのは非常に難しいと思います。怒りというよりやるせない気持ちです。

シェアリングエコノミー協会「認証の悪用 大変遺憾に思う」

『トケマッチ』を展開していた会社は、業界団体である「一般社団法人シェアリングエコノミー協会」の会員で、協会が政府のガイドラインに基づいて定めた条件を満たしていることを示す「認証マーク」も取得していました。

協会では今回のトラブルを受けて会社の認証を取り消し、退会させたということです。

今後、認証の条件を見直す考えを示しています。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会 上田祐司 代表理事
認証が悪用されたことは、大変遺憾に思っている。認証はシェアする個人間のトラブルを減らすための仕組みを企業に持たせることを目指したものだが、個別の企業の財務状況などは見ていなかった。

デジタル庁「大変残念に思う」

インターネットを介し、モノやサービス、場所などを共有する「シェアリングエコノミー」は、フリマアプリや民泊、カーシェアリングなど、身近に浸透しています。

『トケマッチ』を展開していた会社も会員となっていた業界団体「一般社団法人シェアリングエコノミー協会」と、民間のシンクタンクが行った調査によると、2022年度の国内での市場規模は2兆6000億円あまり、2032年度には最大15兆円を超える可能性があると試算されています。

政府も政策を推進する立場で、デジタル庁はホームページで「シェアリングエコノミー協会と連携し、官民一体となって、取り組みを進める」などとしていました。

NHKの取材に対しデジタル庁は「事実関係については解明の途上にあると認識しているが、健全な発展を期待するシェアリングエコノミーの中でこのような事案が発生してしまい大変残念に思う。消費者トラブルの増加の有無など今後の動向を注視し、関係省庁とも必要に応じて対応を相談していきたい」とコメントしています。

専門家「社会的なセーフティーネット作っていく必要ある」

情報社会学が専門で、シェアリングエコノミーに詳しい武蔵大学の庄司昌彦 教授は、『トケマッチ』をめぐるトラブルについて、時計を預けただけで、その先の貸し出しがなくてもリターンが得られるという投資に重点が置かれたビジネスモデルで、リスクが高かったと指摘しています。

武蔵大学 庄司昌彦 教授
自分が使っていないものを誰かに使ってもらい、そのお礼が戻ってくるのがシェアリングサービスの本来の姿で、多額の金が儲かるものではないと、利用する側も理解しておく必要がある。

新しいビジネスは未成熟なものが多く、消費者保護の点でリスクも存在する。社会的なセーフティーネットを作っていく必要がある。