耐震にどう対応? 住宅倒壊から身を守る

耐震にどう対応? 住宅倒壊から身を守る
「この家なら、大丈夫」
地震が起きた時、自分の住まいは安全だと思えるでしょうか。能登半島地震の発生を受けて、住宅の耐震化に改めて関心が高まっています。家屋の倒壊から、いかに命を守るのか。耐震化をめぐる課題と対策を取材しました。
(報道局記者 長野幸代/サタデーウオッチ9ディレクター 井上聡一郎)

「うちは大丈夫か」増える相談

住宅の耐震化についての相談会は、全国各地の自治体で行われています。

20年以上こうした相談会を行ってきた、千葉県市原市。

2月4日の相談会には、市内に住む15組が参加しました。
これまでは定員の半分が空席の時もありましたが、今回はすぐに満員になったといいます。

相談会では、建築の専門家が図面や聞き取りなどをもとに、無料で耐震診断を行います。

診断結果によって、参加者は耐震工事の方法や受けられる補助についても説明を受けます。
倒壊の危険性がある場合、実際に自宅での現地診断も案内される仕組みです。
※市原市の場合、現地診断は自己負担5000円

市によると、相談会に訪れたおよそ9割の人が現地診断を行います。

ただ、実際に耐震化工事を行うのは、そのおよそ3分の1にとどまるといいます。

耐震化をめぐる“迷い”

いったいなぜなのか。

「地震で家が壊れているのを見て、自分の家が心配になって」

話を聞いた70代の参加者は、能登半島の地震をきっかけにみずからの住まいが気になり、相談に訪れていました。

防災意識は高いように感じましたが、工事について尋ねると、意外な答えが返ってきました。
築50年/76歳男性
「“倒壊の可能性が高い”という結果で、安心して住んでいたからがく然としました。でも、いつまで元気でいられるか分からないのにリフォームするのか…。子どももこの家には戻ってこないしね」
築37年/77歳男性
「予想より耐震性が低いことが分かったけど、自分は今77歳。あと10年は生きたいと思う。だけど、その間に大地震が来るのかどうか…。工事をするかどうか、ジレンマなんですよね」
いつ起きるか分からない災害への備え。

対策にかかる費用と今後のリスク、自分の年齢などを照らし合わせ、対応に二の足を踏む様子は切実でした。

耐震化 どうすれば進む?

国は、1981年以前の旧耐震基準で建てられた木造戸建て住宅の所有者にアンケート調査を行っています。
その中で、耐震改修をしない理由について
▽およそ75%が「費用負担が大きいから」
▽44%が「古い家にお金をかけたくない」と答えています。

(出典:国土交通省住宅局建築指導課建築物防災対策室「住宅の耐震化に関するアンケート調査」(R元年10~11月実施)より ※耐震診断を行った木造戸建て住宅所有者への調査)
国の推計によると全国の住宅(鉄筋マンションなど含む)の耐震化率は、およそ87%。

高齢化が進み、古い木造家屋が多い地域の耐震化率は、これよりさらに下がる傾向にあります。

建物の耐震化率を高めていくにはどうしたらよいのか。

専門家は、耐震工事に伴う補助金の申請手続きを簡略化するなど、対策へのハードルを下げることが必要だと指摘します。
名古屋大学 福和伸夫 名誉教授
「お金がかかる、そして面倒だと感じる。この2つが建て替えが進まない要因です。補助もあるけど普及啓発は十分ではなく、診断、設計、施工と、それぞれのタイミングで手続きや片付けなどが必要になります。その面倒だと感じる思いは、年齢を重ねるにしたがって大きくなります。行政はこうした手続きを簡略化して、手間を減らす必要があります」

建て替えでも、工事でもない、選択肢

建て替えや耐震工事をためらう人も少なくない現状に、どう対応していくのか。

住民の命を守るため、自治体は取り組みを続けています。

横浜市では室内に設置するシェルターなどの購入に対し、補助を行っています。
対象となるのは、ベッドの上の部分が金属製の枠で覆われている防災ベッドや、下に潜り込むことで身を守る鉄骨製のテーブル、扉のついた小部屋のようなシェルターなどさまざま。

令和6年度からは補助の額をさらに上乗せすることも検討をしています。

市の担当者は、「ひとたび大地震が起こると、逃げる間もなく建物の下敷きになってしまう可能性が高いです。市民の皆様には、大地震が発生する前に、命を守る対策を進めていただきたい。命を守るための次善の策として、導入を検討してほしい」と訴えていました。
横浜市に住む小嶋三千男さん(73)はことし1月、ベッドを覆う、鉄製の枠を設置しました。

小嶋さんの自宅は築40年以上。

寝室は1階にあります。

去年の夏、市からの案内を受けて耐震診断を行った結果、「倒壊する可能性が高い」と診断されました。
工事をすれば、市の補助を活用しても、200万円から300万円ほどの自己資金が必要になる可能性があったといいます。

市から届いた案内の中には、シェルターなどの設置の経費補助についても紹介されていて、小嶋さんはベッドに設置するタイプのものを選択しました。
ベッドを覆うこの枠は家屋が倒壊しても、16トンの重さに耐えられるといいます。

その高さはおよそ1メートル85センチで、本体の重さは200キロあります。

価格は41万8000円(税込み)。

こん包輸送費や専門スタッフによる組み立て設置費も別途かかるため、小嶋さんの場合、設置にかかった費用は総額で61万円(税込み)になりました。

市から補助が出るとはいえ、自己負担は少なくありませんが、「自分の命と比べたら安いんじゃないかと思います」と小嶋さんは話していました。
小嶋さん
「私もだいぶ年なので、今から家を建て替えるとなるとお金もかかるし大変なこと。工事もちょっと考えられない。でもこれがあればひとまず潰されないかな。シェルターって防空ごうみたいに逃げるイメージで、家に作るという発想が無かったけれど、こういう方法もあるんだなと知りました。寝ているときが一番無防備だから、今は安心して眠れています」

「諦めないで」

この製品を開発したのは、大阪にある防災製品などを手がけるメーカーです。

会社は1995年の阪神・淡路大震災をきっかけにこのベッド枠の製造を始め、これまでにおよそ300台を販売してきました。

能登半島地震以降、製品についての問い合わせが続いているといいます。
伊藤 部長
「諦めないでほしいと思います。危ないと言われても、あと何年生きられるか分からない状態で、家にお金をかけられないと、諦められる方がけっこういらっしゃる。こうしたシェルターも、どうしてもお金の負担はありますが、比較的少ない金額で、命だけは助かる可能性が高まる。こうしたものが世の中にあることを知ってほしい」
いつ起こるかわからない大地震にどう備えるか。

何から取りかかればよいかわからないという人もいるかも知れません。

専門家は、まずはいますぐできる対策に取り組んでほしいと呼びかけています。
名古屋大学 福和伸夫 名誉教授
「まずは家具の転倒防止など、お金をかけずにできる当たり前のことからやりましょう。みんなで備えることが当たり前の社会にしなければなりません。そして行政も災害が起きたあとではなく、災害が起きる前に、できるかぎり住民の対策を支援するべきです」
一方、地震のあとは特に、住民の不安につけこむ悪質な業者が増えるとも言われているので注意が必要です。
▽業者みずから家を訪問する▽詳しい説明をせずに契約を迫る
このような場合は、決してその場で契約をせず、自治体に相談したり、複数の企業に見積もりをとったりするといいと言われています。

最後に、住宅の耐震基準の変遷について紹介したいと思います。

自分の住まいが作られた時期と照らし合わせ、いつ起きるか分からない災害に対する備えへの参考にしていただければと思います。
(名古屋大学 福和名誉教授による)

○旧耐震基準 1981年以前の建物
屋根が重く、地震の横揺れに対抗するための筋交いや合板が少ない建物が多い

○新耐震基準 1981年から2000年の建物
筋交いや合板が多くなる。
ただ、中には、筋交いの入る場所に偏りがあるなど、揺れに対してバランスが悪くなっている可能性がある。

○現行の耐震基準 2000年以降の建物
筋交いや合板がバランスよく入っている。
柱や“はり”、筋交いの接合部が金物などで固定されている。
2月10日「サタデーウオッチ9」で放送
報道局記者
長野 幸代
2011年入局
岐阜局 鹿児島局 経済部を経て現所属
サタデーウオッチ9ディレクター
井上 聡一郎
NHK「ニュース地球まるわかり」などの制作に携わったのち、2022年4月より「サタデーウオッチ9」を担当