パティシエ 辻口博啓さんから広がる“甘い”支援の輪

2月初め、名古屋市内のデパートの一角。
バレンタインデーを前にしたイベントの会場にできた行列の先に、辻口さんの姿はありました。

自身が手がけるチョコレートを買いに来たお客さんに対応していると「復興を応援しています」と話しかける人もいました。

さらには、親戚が被災したという人も…。

客「親戚が能登なんです。2軒、焼失して…」

辻口さん「ああ、そうですか…。輪島ですか？」

客「そうです、みんな無事だったからよかった」

辻口さん「命あっての、ですからね。頑張っていきましょう」

辻口さんは石川県七尾市の出身です。
洋菓子の世界的な大会で数々の優勝を経験。七尾市内にも店舗を持ち、手がけるスイーツには能登地方の食材を積極的に取り入れるなど深いつながりを持ってきました。

辻口さん
「子どものころから慣れ親しんだ町並みが一気に倒壊していて、風景が様変わりしている。蔵が被災し泣き崩れる、歴史あるしょうゆ店の店主さん。自分の店が倒壊などのおそれがあると判定された飲食店仲間たち。現実を受け入れられませんでした」

シュークリームを買った人
「買うことによって少しでも協力できれば」
「家族が被災地のことを考えるきっかけになれば」

辻口さんを動かしているのは、被災したふるさとに対する危機感です。

辻口さん
「いろんな人たちの人生というか、そういうものを育んできた町が崩壊していくのを見たときに一日も早い復興を考えないと、本当にこの町から人がいなくなっちゃう。能登に人が居つかなくなってしまう」

辻口さんは、地震の直後から、募金活動を始めました。
SNSで発信したところ、仲間のシェフなどから、応援のメッセージや自分も募金を始めたので送りたいという声が相次いで寄せられました。

奈良県の洋菓子店
「メッセージ失礼いたします。辻口シェフが発信する現地の混乱をとてもひと事とは思えず、店頭に募金箱を設置しました」

福島県のケーキ店
「田舎の小さなケーキ店でもできることはないのかと考え、募金を辻口シェフにお願いしたいと思い連絡させていただきました」

そのひとりが、東京・港区にある洋菓子店のシェフパティシエ、横山翠さんです。店頭には募金箱が…。

横山さん
「震災の被害を見て心を痛めていて、私も何かできないかなと。（辻口さんと）面識もなかったので、突然、メッセージを送っていいのか迷ったけど、すぐに返信をいただいて、そこから募金箱を設置しました」

おつりを全部入れてくれるお客さんもいるといいます。

横山さん
「微力だと思うが、私も『輪』に入って協力したい」

賛同した人が、募金箱を持った写真を辻口さんへ。それを辻口さんがSNSで発信。

協力の申し出は80件を超え、最近では、パティシエやシェフ以外の人もその輪に加わっています。

辻口さん
「全く予想していなかった。本当にうれしかったですね。今まで全く僕とつながりのないパティシエたちが、僕がやっていることに賛同してくれて『力になりたい』ってつながってくれる。お互いの思いが一つになる」

集まった募金は今後、石川県に直接届けることにしています。辻口さんは、子どもたちの食事や教育のために使ってほしいと話します。

辻口さん
「僕自身も小学校3年生の時に食べたショートケーキに感動してパティシエになった。いちパティシエですから、パティシエができることを、無理なく長く続けられること、そういったことを僕はやっていく」

「無理してやる必要はないけど、やれる範囲のなかでいろいろな職種の人たちが動いてくれれば、もっともっとそれが大きなつながりになり、大きな力になる。微力かもしれないけど、そうしていくことが、能登半島の復旧・復興につながるんじゃないか」

終わりに、辻口さんからのメッセージです。

辻口さん
「本当に多くの尊い命が亡くなって、いろんなことに傷つき、いろんなことに押しつぶされそうになっていると思います。でもそういうなかでも、たくさんの人たちが応援しています。必ずみんなで、みんなで、復興していきたい。みんなで能登を守っていきましょう」

（2月3日 サタデーウオッチ9放送）