能登半島地震 県外への避難者 少なくとも30都道府県937人

能登半島地震で被災して石川県などからほかの都道府県へ避難したり避難することが決まったりしている人は、自治体が把握しているだけで全国30の都道府県で937人に上ることがNHKのまとめでわかりました。もとの自治体からの支援に関する情報が乏しく不安を訴える被災者もいて、専門家は「自治体間で情報を共有する体制作りを急ぐべきだ」と指摘しています。

富山県 宇奈月温泉のホテルで体操する避難者たち

能登半島地震では多数の住宅が被害を受けたほか、道路の寸断や断水が長期化するなどして、被災した人たちが住まいのある自治体を離れる「広域避難」が相次いでいます。

国は石川県に被災者がどの地域にいるかを把握して「被災者台帳」を整備するよう依頼していて、県は通信アプリのLINEや電話による避難情報の登録を呼びかけていますが、把握できていない被災者が多くいるとみています。

NHKが全国の都道府県に対し、石川県などから避難したり、避難が決まったりしている人について取材したところ、北海道から沖縄までの少なくとも30の都道府県で937人に上っていることが新たにわかりました。

このうち最も多いのは富山県で301人、次いで福井県が157人となっています。

避難している人の多くは石川県からで、今後、1人が富山県から沖縄県へ避難することが決まっているということです。

また、自治体の中には避難した人のための独自の支援制度を設けているところもあり、沖縄県では渡航に要する航空券を1往復分支援しているほか、複数の県が1世帯当たり20万円から30万円の給付金を用意していました。

一方、県外に避難した人たちからは住んでいた自治体の支援や復旧の状況などに関する情報が乏しく、丁寧な情報提供を求める声が上がっています。

被災者の生活再建や復興に詳しい東京都立大学の中林一樹名誉教授は、「住み慣れた環境が大きく変わることで災害関連死につながったり、コミュニティーの維持が難しくなったりするおそれがある。避難者の名簿を作成し、避難元や避難先の自治体が連携して支援する体制を早急に構築すべきだ」と指摘しています。

把握できない被災者多数「被災者台帳 作成し情報把握を」内閣府

地震や豪雨、台風などの災害時に住んでいる自治体を離れて避難するケースはこれまでにも起きています。

2011年の東日本大震災では支援が必要な人の健康管理体制について避難元と避難先の自治体の間で十分に調整できず課題となったほか、もとの地域のコミュニティーを維持するのも困難な状況となりました。

このため、国は被災者に関する情報を自治体内で一元的に管理する「被災者台帳」の作成が有効だとして2013年に災害対策基本法を改正し、台帳の情報を避難元と避難先などの自治体間で共有できることを定めました。

LINEの情報登録画面

今回の能登半島地震で、石川県は市や町が把握しきれていない避難者の連絡先などの情報を把握し、公的なサービスにつなげるため、情報登録窓口を設けてLINEや電話での登録を呼びかけています。

7日の時点で1万277人が登録していますが、住所欄が記述式で避難者の情報を都道府県別に仕分けるのに時間がかかっているほか、把握できていない被災者が多くいるとみています。

こうした中、内閣府は7日、石川県に事務連絡を出し、自宅や県外も含め広域に避難している被災者の情報について自治体とも共有した上で、居場所や状況の把握を進めるよう依頼しました。

そして被災者一人ひとりに寄り添った支援を漏れなく行うためには、「被災者台帳」へ情報を集約することが不可欠だとして、被災自治体が台帳の作成を積極的に検討するよう改めて促しています。

内閣府は「被災者台帳を作成することで公的支援を利用できていない被災者を特定することができる。被災者の自立や生活再建を進めるためにも台帳を活用してほしい」としています。

珠洲から名古屋へ避難 ふるさとの情報得られず

石川県珠洲市宝立町の大町泥木地区で区長を務める吉田久俊さん(74)は、地震の影響で集落が孤立し、発生から4日後にヘリコプターで助け出されました。

自宅は壊れ、道路は寸断されたままのため、名古屋市で暮らす息子の呼びかけもあって今は妻と2人で愛知県が提供した公営住宅に避難しています。

冷蔵庫やテレビなどの家電は業者から借りているということです。

吉田久俊さん

吉田さんが気がかりなのは、一緒に避難した集落の人たちの現状と復旧の進捗(しんちょく)状況です。

1か月あまりがたった今も同じ集落のほとんどの人と連絡がつかず、地元の市役所からも今まで1度も連絡はありません。

市役所に電話をかけて孤立した集落につながる道路の状況などについて尋ねましたが、回答は得られていないということで、「地元を離れた被災者にも情報を提供してほしい」と話しています。

県外で学生生活を送る人も

明田凱吾さん(左) 高森虎之介さん(右)

輪島市の専門学校に通う七尾市の明田凱吾さん(19)と能登町の高森虎之介さん(18)は、水道やインターネットなどが使えず、生活環境が整わないことから、1月中旬に明田さんの親族がいる福岡市へ移り、今は市内の公営住宅に避難しています。

現在、授業はオンラインで続けることができていますが、引っ越しや移動も含めてこれまで1人当たり数十万円の費用がかかっていて、今後の生活費や学費の支払いに不安を抱えているといいます。

明田さんは、「お金の不安から学業を諦めざるをえないという友人もいて、資金的なサポートをしてもらえるならお願いしたい」と話しています。

専門家「自治体が情報共有する体制作り急ぐべき」

東京都立大学 中林一樹名誉教授

能登半島地震の被災者が全国の都道府県に避難している状況について、専門家はふるさととのつながりが切れることがないよう、避難元と避難先の自治体が情報を共有する体制作りを急ぐべきだと指摘しています。

被災者の生活再建や復興に詳しい東京都立大学の中林一樹名誉教授は、住み慣れた地域を離れ環境が大きく変わることによるストレスで心身に影響が出る「リロケーション・ダメージ」から孤立感を深めたり、災害関連死につながったりするおそれがあると指摘しています。

また、地域の人たちが各地に点在して避難する状況ではコミュニティーの維持が難しくなるほか、能登地方に戻らず人口の流出につながり、復興の妨げになるおそれもあるとしています。

こうした課題に対応するため、中林さんは、石川県が中心となって避難した人の情報を盛り込んだ名簿を作成し、避難元や避難先の自治体に加えて見守り支援を行う地域の社会福祉協議会などにも共有するなど、連携して支援する体制を早急に構築すべきだとしています。

さらに避難先の自治体には「受け入れ責任がある」として、情報の収集や支援に取り組む必要があると指摘しています。

中林名誉教授は、「避難者が“糸が切れたたこ”のようになりふるさとに戻りたくても戻るための情報が来ないという事態を懸念している。バラバラに避難しても“心は能登にある”という状況を早く作り出すことが大切だ」と話していました。

石川県外への避難者数など詳細(NHK調べ)

石川県などから避難した人について、NHKが2月6日と7日、全国の都道府県に行った取材の詳細です。

各都道府県が把握できている避難者の数は、
▼石川県に近い北陸が470人、
▼九州・沖縄に83人、
▼中国地方に19人、
▼北海道・東北に5人
などと広域に及んでいます。

都道府県別に見ますと、
▽富山県が最も多く301人、
▽福井県が157人、
▽愛知県が122人、
▽沖縄県が74人、
▽東京都が45人
などとなっています。

また、避難者への支援内容について聞いたところ、多くの都道府県で公営住宅を提供しているほか、
▽生活資金として1世帯当たり30万円の給付金制度や、
▽避難先までの交通費、
▽生徒や児童に対する就学支援、
▽老人ホーム利用料の補助など独自の支援制度を設けているところも多く見られました。

さらに都道府県によっては、石川県や避難元の自治体に対し積極的に情報を共有していないところもあり、自治体間の連携による支援態勢の構築が課題となっています。

都道府県ごとの避難者数一覧

各都道府県が把握している数。避難の予定も含む。

▼北海道1人
▼岩手県1人
▼秋田県3人
▼群馬県1人
▼埼玉県5人
▼千葉県10人
▼東京都45人
▼神奈川県6人
▼長野県8人
▼新潟県12人
▼富山県301人
▼福井県157人
▼岐阜県11人
▼静岡県8人
▼愛知県122人
▼滋賀県25人
▼京都府26人
▼大阪府36人
▼兵庫県16人
▼奈良県39人
▼鳥取県10人
▼岡山県3人
▼広島県4人
▼山口県2人
▼徳島県2人
▼福岡県3人
▼佐賀県2人
▼長崎県1人
▼熊本県3人
▼沖縄県74人

計30都道府県 937人