新NISA 日本経済をどう変える?

新NISA 日本経済をどう変える?
個人投資家の税制の優遇制度NISA。投資で得られた利益を一定の範囲内で非課税とする制度ですが、2024年から大幅に拡充されました。

ポイントは、非課税で投資できる枠の大幅な拡大と制度の恒久化です。

新NISAは、私たちの家計に、そして日本経済にどのような変化をもたらすのでしょうか。投資信託協会の前副会長で、NISAの制度設計にも関わった中野晴啓さんに聞きました。
(政経・国際番組部ディレクター 豊島あかり)

新NISA “長期投資の旅を”

中野さんは、大学を卒業後、クレジットカード会社に入社。

グループ内の金融子会社で海外債券を中心とした資金運用業務などに従事した後、社内起業し、資産運用会社を設立。社長、会長に就任しました。

2023年に資産運用会社の会長を退任。9月に新たな資産運用会社を立ち上げました。年明けに迫った新NISAの制度開始に合わせた形です。

これまで一貫して訴えてきたのが、「長期」「積み立て」「分散」投資の重要性です。
投資信託協会前副会長 なかのアセットマネジメント社長 中野晴啓さん
「NISA制度っていうのは僕自身も積極的に関わってきた。とにかく一刻も早く、新しい運用を皆さんに提供して一緒に旅をしたいなと。“長期投資の旅”という言い方を僕はしているんですけど」

新NISAとは

NISAの制度ができたのは2014年。

通常、株式や投資信託などに投資して利益が出た場合、利益に対して約20%の税金が課されますが、NISA口座を使って投資すれば課税されず、利益をそのまま受け取ることができるというものです。

一方、中野さんは、これまでのNISA制度には課題も感じていたといいます。
投資できる期間が「5年」「20年」と限られているほか、年間に投資できる金額も「40万円」「120万円」と上限が設けられ、年齢などによっては、十分に制度を活用しきれない人もいると考えていたからです。

一方、新NISAでは、非課税の期間は無期限に。これまでは最大800万円だった非課税投資枠の上限も、1,800万円となりました。

2023年6月までの2年間、投資信託協会の副会長をつとめてきた中野さん。協会として、NISAの投資期限や投資上限額の撤廃や緩和を政府に要望するなど制度設計にも関わってきました。その結果は、想定を大きく超えたものになったといいます。
中野晴啓さん
「今回の改革、制度改正で圧倒的によくなったのは、期限がなくなったことと、やはり(非課税保有限度額の)スケールですね。例えば若い人だったら、極端に言うと、50年60年かけて積み上げていくことができますし、逆にシニアの人で『(これまで)貯蓄一辺倒だった』と後悔している人は、まとまった額を毎年投資していくこともできるので、あらゆる国民生活者に、自分の置かれた環境とか価値観、人生プランにのっとって自由に使ってもらえる制度ということで、すごく使いやすくなりました」
いっぽう、投資にはリスクがつきものです。中野さんは、リスクを軽減するためには「長期」「積み立て」「分散」が重要だと話します。
中野晴啓さん
「リスクを減らしていくための1つのメッセージが、『長期』『積み立て』『分散』という投資行動になるんです。とりわけ長期というのが僕は大変重要だと思っていて、マーケットというのは毎日でたらめに動きますけど、長期的には必ず投資したものの付加価値が大きくなっていけば、そこにのっとった価格水準に収れんしていくという習性があるので、長い時間をかけて投資を続けることで、損失可能性はその分だけ着実に減らせると。ここをすごく意識してもらいたいです」

個人の資産形成 日本経済も変える?

いま、中野さんが日々の講演活動などを通じて訴えかけているのは、“私たちの預貯金が日本再生のカギを握る”というメッセージです。

家計資産が投資に回れば、運用益で個人消費が増加する。それが企業の成長を促し、日本全体の経済成長につながるという考え方です。
中野晴啓さん
「預金をしても新しいお金は生み出されない、つまり利息がつかない。これが30年近く続いているわけですよ。その一方で将来の不安を、いまは1億2500万人全員が抱えているといってもいい。ですから個人の方々が自分のお金を経済活動の中に働きに出して、そしてその経済活動のいわゆる成長を糧として、お金が育って自分に戻ってくる。これこそ立派な所得ですから。この所得が積み上がってくるということで自分の将来に対し、いわゆる楽観、あと前向きになる、そして明るくなる。これはもう、日本経済マクロで影響を与える大変有効なすべだということなんですね」

新NISA 業界にも変革迫る

一方で、資産運用業界は変革も求められています。
金融庁が指摘する課題の1つが「利益相反」の懸念です。

資産運用会社の多くは、商品を販売する大手金融グループの傘下にあるため、顧客よりも販売を担う会社の意向に沿った商品を作ろうといった状況が生じやすいのではという指摘です。

また、中野さんは近年、特定の株価指数に連動することを目指す「インデックスファンド」に人気が集中していることに懸念を強めています。

インデックスファンドのみが極端に偏重されるようなことになれば、有望な銘柄を選別する力が失われ、資産運用業界の本分を果たせなくなると考えているのです。

こうしたことから中野さんの新会社は、親会社を持たない独立系資産運用会社としてスタート。
また有望な日本企業を発掘・選別投資し、対話を通じて企業価値の向上を促す「日本株のアクティブファンド」を設立し、春から運用を始めることを目指しています。

ファンドを運用する自社の担当者については、氏名や運用経験を公開するほか、投資対象のすべての銘柄を公開することを目標にしています。

顧客への情報開示が十分ではないとの指摘もある資産運用業界の課題に対応した上で、高い運用成績をめざしていきたいとしています。
中野晴啓さん
「まず必要なのは、われわれ資産運用業界側がまっとうな日本企業を支える長期運用を提供すること。そして日本の将来をけん引するテクノロジーやサービス。それを実現する経営力がある会社をより一層応援して、みんなでより強くしていこうという国民の意志がお金を通じて資本市場に流れていくこと。こういうことがメンタリティーとして一般化することが大事で、これ自身が、日本の産業界をより強くしていく第一歩になると思います。お互いに、日本の国のこれからの発展に向けて一緒に歩んでいく。そういった流れを投資信託の中で表現していく。これが、僕自身のこれからの社会的使命だと思っています」
投資に不慣れな私たち日本人がこれから投資を始めようとした場合、投資対象の特性やリスクなど、学ぶべきことはたくさんあると思います。

また自分が投資をするにあたっては、自身はリスクをどの程度許容することができるのか、十分に見極めることも欠かせません。

今回の中野さんのインタビューを通じて、「投資を通じて、どのような日本を目指したいのか」という視座があることも知りました。

新NISAのスタートが、自分自身や日本の将来像について、少し立ち止まって考えるきっかけになればと思います。
政経・国際番組部ディレクター
豊島あかり
フリーランスの番組ディレクターなどを経て、2013年入局
静岡放送局、首都圏局、ニュースウオッチ9を経て現職