能登半島地震 地域支える産業の復興への道筋は

能登半島地震 地域支える産業の復興への道筋は
能登半島地震から1か月余りがたちましたが、地域経済を支えてきた観光業や漁業などの地場産業への打撃は深刻で復旧すら手付かずという地域もあります。そうした中でいかにして復旧や復興を進めていくか、その手がかりを探ります。

能登の名勝にも被害

石川県志賀町の景勝地「能登金剛」は、能登半島の西側・約29キロの海岸線で険しい断崖や自然がつくり出した奇岩など風光明美な景観が人気となっています。去年はおよそ5万2000人が名所の洞窟「巌門」を訪れています。

しかし、今回の地震では遊歩道に亀裂が入ったほか、土砂崩れが複数の場所で発生し、「巌門」に近づくことができなくなっていて復旧のめどはたっていません。
また、近くの福浦港に陸揚げしていた3隻の遊覧船のうち、2隻が津波で30mほど流され、防潮堤に乗り上げました。地震から1か月余りが過ぎた2月7日には船を元の場所に戻す作業が行われ、遊覧船を所有する会社の従業員らがベルトで船を固定したあと、クレーンでつり上げて港に移動させました。
今後、船体に損傷がないか検査が行われる予定ですが、船を陸から海に出すために必要な発電機が海水につかり使えなくなっているほか、海底の隆起の状況が分かっていないため、遊覧船の営業再開のめどは立っていないということです。

各県で宿泊キャンセルの影響拡大

観光業への影響は被災した各県で広がっています。被害が甚大だった能登地方では、営業再開のめどが立たないホテルや旅館も少なくないうえ、営業できている各県の宿泊施設でも予約のキャンセルが相次いでいます。
石川県旅行業協会のまとめによりますと、加盟する宿泊施設での予約のキャンセルは1月26日の時点で、わかっているだけでも4万1300人分を超え、総額は8億5000万円近くにのぼっているということです。調査への回答がない施設もあり、被害の全容は見えていないのが実情です。

富山県でも宿泊や宴会のキャンセルが相次いでいます。富山県ホテル旅館生活衛生同業組合のまとめでは、1月25日時点で少なくともあわせて3万4000人分余り、総額およそ5億2000万円となっています。

県内の市や町を通じて集計した福井県のまとめは金額が大きく、1月25日時点でおよそ3万9600人分、総額は13億4000万円余りとなっています。

新潟県旅館ホテル組合では、2月1日時点で2万4300人余り、金額にして3億3400万円を超えると試算しています。

被災地で復旧支援などにあたる人たちの宿泊が増えている施設も一部にはあるものの、観光目的の旅行客の足が遠のいたことで、需要の冷え込みが懸念されています。

過去の大きな地震では

こうした傾向は東日本大震災や熊本地震など過去の大きな地震でも見られています。
日本総研では、観光庁の統計をもとに地震が宿泊者数に及ぼした影響を分析しています。地震が起きる前の月を100としてみると、地震が発生した月では、いずれも宿泊客の落ち込みが見られます。統計には被災地の復旧支援などで宿泊する人も含まれることから、一見、回復のペースが早いようにも見えますが、それでも観光産業への影響が見てとれます。

こうした過去の事例も踏まえて、国は被災地の北陸三県と新潟県で観光客の宿泊料金を補助する「北陸応援割」を実施し、旅行需要の回復を促そうとしています。
一方で、課題となりそうなのが外国人客の誘致です。日本人と比べると、宿泊客数は長期にわたって低迷していることがわかります。分析を行った日本総研の北辻宗幹研究員は「外国人観光客の方が風評被害の影響を大きく受けていると考えられる」と話していて、不安を払拭(ふっしょく)するためにも、海外からの旅行客向けの情報発信に力を入れる必要がありそうです。

“豊かな海の幸”担う漁業にも甚大な影響

地域の観光需要を支えるのは、それぞれの土地の食や土産物です。そして、北陸の場合、“豊かな海の幸”が観光客を引き付ける大きな魅力の1つです。今の時期は寒ブリやベニズワイガニなどが旬を迎えていますが、そうした“豊かな海の幸”を提供する水産業の被害も甚大です。
石川県では多くの漁船で転覆や沈没などの被害が出たうえ、県内69の漁港のうち、能登半島を中心に全体の8割以上にあたる60の漁港で、海底の隆起や岸壁の損壊などの被害が確認されています。

農林水産省によりますと、少なくとも18の漁港で水揚げができなくなっているということです。今月4日には坂本農林水産大臣が輪島市の漁港を視察し、被害状況を確認しました。

国は、被害の実態を踏まえた復旧方法などを検討するために、2月中にも専門家による緊急調査を始める方針で、調査の結果や漁業者の意向を確認しながら県とともに復旧に向けた計画を策定していくことにしています。
富山県でも「定置網」やカニ漁に使う「かご」などの漁具が壊れたり、流されたりする被害が出ました。県漁連によりますと、1月末時点の被害額は3億円近くにのぼっています。

こうした影響で、旬を迎えているベニズワイガニの県内の漁獲量は、ことしに入ってから1月20日までで5.2トンと、去年の同じ時期の3割以下に落ち込んでいます。また、3月から漁が解禁されるホタルイカの定置網にも被害が出ていて、復旧作業などに追われています。

伝統産業や地元企業も影響

漁業以外でも地域を支えてきた幅広い企業に影響は広がっています。富山県氷見市にある創業およそ90年の老舗かまぼこ店「與市郎蒲鉾店」は地震で大きな被害を受け、閉店を決めました。

2代目の中村一成社長(83)は60年以上、かまぼこを作り続けてきました。手作りにこだわりがあり、地元の小学生に加えて、外国人観光客や修学旅行生の絵付け体験も受け入れ、地元の観光の重要な拠点にもなってきました。

しかし、今回の地震で自宅兼店舗だった建物には床に亀裂が入ったり、入り口のガラスが割れたりして「半壊」し、立ち入りが「危険」と判定されました。
中村さんは地元のために今後もかまぼこを作り続けたいという思いがありましたが、再建は資金的に難しく、年齢も考慮して閉店を決めたということです。中村さんは「10年若かったら再建を考えましたが、年も年なので諦めました。死ぬまでかまぼこを作り続けたかったです」と話していました。
石川県の伝統産業「輪島塗」も甚大な被害を受けました。「輪島塗」は国の重要無形文化財にも指定されている伝統産業で120余りの工程に多くの職人が関わっていますが、漆器店や職人などで作る「輪島漆器商工業協同組合」では、加盟する100余りの事業者のほとんどが被災しました。工房や店舗の焼失や全壊も相次ぎ、今もほとんどの工房や漆器店で再開のめどが立っていません。

こうした中でも組合の日南尚之理事長は、先月27日に現地を視察した齋藤経済産業大臣との面談で「何としてもわれわれの代で輪島塗を終わらせるわけにはいかない。ご協力をいただき後世につないでいきたい」と思いを述べました。
齋藤大臣も一連の視察のあと記者団に対し「伝統産業や観光は地域経済に欠かせない産業だ。特に伝統産業は再建して、世界に飛躍していけるようになってほしい」と述べ、すでにある対策に加えて、必要な支援を検討していく考えを示しています。

国は輪島塗を含めた伝統産業への支援として、1000万円を上限に道具や原材料の確保に必要な費用を補助する支援策を打ち出しているほか、仮設の工房を作る費用の全額補助も選択肢に入れています。

多様な支援ニーズをいかに捉えるか

地域を支えるさまざまな産業に深刻な打撃を与えた今回の地震。復旧・復興に向けた国の積極的な支援が不可欠な一方で、復旧が手付かずの地域もあれば、復興に向けて歩み始めている地域もあり、必要とされる支援の内容は地域ごと、あるいは同じ地域でもフェーズによって異なると感じます。

足元の観光需要の喚起策から、地域産業の立て直しに向けた息の長い支援まで、それぞれの被災地のニーズをいかにきめ細かにくみ取れるかが、復興の課題だと感じました。(経済部デスク 岩間宏毅)

※2月7日 ゆう5時で放送