奈良 貴重な発見相次ぐ富雄丸山古墳 蛇行剣や鏡の次は何が?

古代の東アジアで最も長いとされる鉄の剣など貴重な発見が相次いでいる奈良市にある古墳で、木製のひつぎの大部分が埋葬された当時の形のまま残っていたことが市の教育委員会の調査でわかりました。金属探知機の反応も確認され、このひつぎから埋葬された人物を知る手がかりが見つかる可能性もあると期待されています。

4世紀後半に造られたとされる奈良市の富雄丸山古墳。

左 青銅製の鏡    右 蛇行剣

昨年度の発掘調査で、▽波打つような形をした「蛇行剣」と呼ばれる、古代の東アジアで最も長いとされる鉄の剣や、▽盾の形をした国内最大級の青銅製の鏡などが相次いで見つかっています。

一連の調査では、1本の丸太をくりぬいた「割竹形木棺」と呼ばれる木製のひつぎも見つかりましたが、いったん埋め戻していました。

去年12月から、奈良市教育委員会が再び掘り出して詳しく調査したところ、ひつぎは幅およそ70センチ、長さ5メートルあまりあり、大部分が腐って失われることなく当時の形のまま残っていたことがわかりました。

ひつぎのふたは一部が壊れて土が流れ込み、中の様子は確認できませんが金属探知機の反応が確認されたということで、7日から土を取り除いて内部を調べることにしています。

奈良市埋蔵文化財調査センター 鐘方正樹 所長
「ひつぎの状態がよく、鉄器や青銅器などの副葬品が出てくる可能性もある。被葬者像などを解明する手がかりが見つかるかもしれない」

特殊な環境保たれ 木材の腐食抑えられたか

木製のひつぎが1600年もの長い期間腐って失われなかったのはなぜなのか、専門家は古墳の内部で木材の腐食を抑える特殊な環境が保たれていたためではないかと見ています。

富雄丸山古墳で木製のひつぎが見つかった場所は盗掘を受けておらず、周りは厚い粘土で覆われていました。

木棺が失われなかった理由について保存科学が専門の奈良大学の今津節生 学長は、▽周りが粘土で覆われていたことで缶詰めのなかのように密閉されて酸素が欠乏し、微生物の活動が抑えられた可能性や▽ひつぎと一緒に納められていた青銅製の鏡から銅が溶け出し、殺菌効果が得られた可能性などが考えられるとしています。

奈良大学 今津節生 学長
「古墳に納められた木棺は腐って失われることが多くそのままの形で見つかるのは極めて珍しい。同じように腐りやすい木製の刀の『さや』や布などの副葬品が見つかる可能性もある。『古墳時代のタイムカプセル』とも言えるひつぎの中にどんな物が入っているのか、今後の調査が楽しみだ」

被葬者の性別や社会的地位の解明につながるか

木製のひつぎの大部分が当時の形のまま残っていたことについて、考古学が専門の大阪大学の福永伸哉 教授は想像以上の成果が次々に出てきていると期待を寄せています。

大阪大学 福永伸哉 教授
「古墳時代の木棺の大部分が残っているのは国内でも数例しかない。今回のひつぎの埋葬方法は非常に丁寧なもので、地位の高い人物が葬られている可能性もある。通常は腐ってしまう繊維製品や漆製品、人の骨や歯といったものが今後の調査で見つかる可能性があり、被葬者の性別や社会的地位の解明につながるのではないか。富雄丸山古墳の調査は想像以上の成果が次々に出てきて、研究者の予断を許さない魅力がある」

富雄丸山古墳とは

富雄丸山古墳は、古墳時代前期の4世紀後半に造られたとされる大型の円墳です。

奈良市の中心部から西におよそ6キロ離れた矢田丘陵にあり、昭和47年に奈良県が初めて行った調査では、頂上の部分から埋葬施設や副葬品などが見つかっています。

さらに、平成29年に奈良市がレーザーを使って詳細な測量を行った結果、当時、考えられていたより20メートルあまり大きく直径がおよそ110メートルと判明し、国内最大の円墳とわかりました。

3段構造の表面は石に覆われ、盛り土を囲むように埴輪が置かれていたと考えられています。

埋葬施設は古墳の頂上付近のほか、北東に四角く突き出た「造り出し」と呼ばれる部分にも確認されていて、昨年度の調査ではこの「造り出し」の部分から「蛇行剣」や、国内最大級の青銅製の鏡などが見つかっていました。