取材に応じたのは国土交通省の東京空港事務所に所属する消防隊員で、事故当時、消火にあたった成瀬眞之介さんです。
出動した6台のうち、1台の責任者で、ほかの車両との連携などを担っていました。
成瀬さんは事故発生の直前、空港の西側にある庁舎で、消防車の整備を行っていたところ「C滑走路上で火災が発生した」という管制からの連絡が庁舎内のスピーカーから流れ、現場に急行しました。
C滑走路で停止した日本航空機に向かう途中、車内に設置されている無線に「脱出用シューターが開いている」という連絡が入ります。
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羽田空港 航空機衝突事故 消防隊員が証言“大勢の人命が危機”
羽田空港で起きた航空機どうしの衝突炎上事故から2日で1か月です。
当時、消火にあたった空港の消防隊員が取材に応じ、その内容から緊迫の消火活動の詳細に加え、機体から脱出したあとの乗客の避難誘導に関する課題が見えてきました。
空港の消防隊員が初証言 緊迫の消火活動が明らかに
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成瀬さんは当時の心境について「燃えているのが旅客機だとわかり、多数の人命がかかっているということで危機感が増しました」と振り返ります。
そして、消防車がC滑走路に入ったところでオレンジ色の炎が見え、日本航空機の左エンジンと左の翼が激しく燃えているのがわかったということです。
日本航空機のそばに到着すると、炎は機体の高さを超えるほどにまで立ち上っていて、成瀬さんは、まだ乗客が残っていた機体内部の温度を下げるため胴体部分への放水を行いました。
消火活動中、機体前方の2つの脱出用シューターに加え、炎上を続けていた左エンジンの後方にあるシューターも開いていることを確認したということで「エンジンの後方から冷却するような形で火がそれ以上、後ろにいかないように消火活動を行いました」と話していました。
脱出した乗客の避難誘導に課題も
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一方、成瀬さんの話からは、機体から脱出したあとの乗客の避難誘導に関する課題も見えてきました。
乗客は脱出用シューターからは次々と出てきましたが、その後、そのまま機体の付近にとどまり、家族を待っている人や機体の方を見て立ちすくんでいる人が複数いたということです。
成瀬さんは「火災に巻き込まれる可能性もあるうえ、消火活動の妨げにもなるので『危ないから逃げてください』『見ていないで逃げてくれ』と声をかけ、声をかけるだけでは動けない方もいたので肩を引っ張るような形でお願いをしました」と話していました。
そのうえで「実際にこれだけの命がかかっているというのは過去にない経験でした。今回の消火活動の経験も踏まえ、どんどんレベルを上げていきたいと思います」と話していました。
空港消防の無線記録からわかる当時の状況は
機体の消火活動にあたった空港の消防は、事故後、無線の記録などから活動の状況をまとめています。
この消防への取材から、当時の状況が徐々にわかってきました。
▽事故が起きた午後5時47分ごろ
管制塔から消防の通信指令に事故発生の通報がありました。
▽午後5時48分ごろ
通信指令から6台あるすべての消防車に対し、現場となったC滑走路に出動するよう指令を出しました。
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▽午後5時51分ごろ
消防の東庁舎から出た消防車3台が海上保安庁機側に到着し、機体全体への放水を開始しました。
▽同じ午後5時51分ごろ
西庁舎から出た消防車3台も日本航空機側に到着し、左側の主翼への放水を開始しました。
左側のエンジン付近から燃え広がっていたということです。
▽午後5時52分ごろ
通信指令から東京消防庁に、東京空港事務所から警視庁に出動要請を行いました。
▽同じ午後5時52分ごろ
消防隊員らは日本航空機から脱出し、機体の付近にとどまっていた乗客に対し、その場から離れるよう呼びかけました。
延焼していて危険がある状態でした。
これまで、事故発生から18分後に乗客乗員379人全員が機体からの脱出を終えたことが明らかになっていますが、今回、事故の5分後にはすでに脱出が始まっていたことが新たにわかりました。
▽午後5時57分ごろ
通信指令から航空各社など羽田に関係する90の事業者に非常通報を行いました。
▽午後6時1分ごろ
左側主翼の火の勢いが一時的に収まります。
▽午後6時5分ごろ
消防車1台が機体の左側後方に移動し、消火活動を行いました。
▽午後6時11分ごろ
胴体部分に延焼したため機体全体への消火活動を始めました。
▽午後6時13分ごろ
胴体部分の火の勢いが一時的に収まります。
▽午後6時22分ごろ
脱出してきた機長に機体の中に取り残された人がいないことを確認したうえで、乗客と乗員を駐機場まで誘導しました。
各地の空港に消防配置 羽田空港の消防は全国で唯一国直轄
国土交通省によりますと各地の空港では航空機の火災に備えてICAO=国際民間航空機関の基準に従って消防を配置しています。
基準は、就航する最も大きな航空機の全長や胴体の幅にあわせて10段階あり、それぞれに定められた放水量を確保できる消防体制をとっています。
国内では、全国で唯一羽田空港に国直轄の消防があり、国土交通省の航空局に属しています。
この消防は、羽田空港の敷地内にある東庁舎と西庁舎にわかれて待機していて、それぞれ3台ずつ消防車があり、合わせて12人の隊員が常駐しています。
通信指令室は東庁舎にあります。
一方、羽田以外の各地の空港では別の団体に委託したり、空港会社の中に組織を設けたりして対応しているということです。
各地の空港にある消防は、自治体の消防と連携していて、緊急時には出動を要請するケースもあるということです。
長崎 大村に空港消防の訓練施設 実物大の模型で訓練
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空港の消防に特化した国土交通省の訓練施設「空港保安防災教育訓練センター」は長崎県大村市にあり、実物大の航空機の模型を使った訓練が年間を通して行われています。
先月31日には1年未満の隊員を対象にした訓練が行われ、2日に起きた衝突炎上事故で消火活動にあたった羽田の隊員のほか、大阪などから合わせて12人が参加しました。
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訓練は、着陸時に左側の主翼が地面に接触して火災が発生し燃料が流出したという想定で行われ、施設にあるボーイング767型機の模型に実際に火がつけられ、消防車3台が出動しました。
航空機に搭載されているジェット燃料に着火すれば機内の温度が一気に上昇するほか、爆発が起きるおそれもあり、駆けつけた消防車3台は一気に大量の放水を行いました。
3台は空港用化学消防車と呼ばれる特殊な車両で、隊員がホースで水をかけるのではなく、車体から直接放水します。
放水量は1分間に6000リットルに上り、一般的な消防車のおよそ2倍だということです。
今回の訓練では使われませんでしたが、実際の火災の際は、放水すると泡状になって酸素の供給を抑え延焼を防ぐ薬剤が放水する水の中に入っているということです。
訓練では、火の勢いが収まったあと隊員たちは消防車から降り、乗客らが避難できるよう脱出口付近にホースで水をかけていました。
所長「意識変わった 事故の検証が終われば訓練にも反映」
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空港保安防災教育訓練センターの友利一豊所長は「航空機災害はめったに起こらず経験することがあまりない。だからこそ、ここで実際に火を燃やして放水する経験が職員の自信につながる。今回の事故で航空機火災は起こりうるものだという意識に変わった。今後、事故の検証が終われば訓練にも反映していきたい」と話していました。