月面の岩石がなぜ “トイプー”? 今後の展望は?

先月、月面着陸に成功した日本の無人探査機「SLIM」。
一時、発電が出来なくなるトラブルもありましたが、無事に復旧して月面にある10の岩石を観測するなどの成果をあげました。

これらの岩石には「トイプードル」や「とさいぬ」といった犬の名前がつけられ、なぜ犬の名前なのかと話題になりました。

岩石を観測するチームの責任者に名前の由来や今後の展望について聞きました。

観測できたのは奇跡

取材に応じたのは月面の岩石を観測するチームの責任者で、立命館大学の佐伯和人 宇宙地球探査研究センター長です。

SLIMはメインエンジンで異常が発生し、本来は上を向くはずの太陽電池が西側を向いて着陸。太陽の光が当たらず、発電ができていませんでしたが、着陸からおよそ8日後までに太陽電池が発電しました。地上との通信を再び確立し、カメラも使用できるようになりました。

立命館大学 宇宙地球探査研究センター 佐伯和人 センター長
「復旧した瞬間はJAXAの管制室にいました。みんな『うぉー』と叫んで拍手がわき起こりました。カメラの面が下になって倒れてたりすると観測は絶対できなくなっていたので、本当に奇跡的で運命の神様に感謝しています」

なぜ犬の名前?

SLIMが観測した月面の岩石の画像。
探査機に搭載されたカメラが捉えました。
10の岩には区別しやすいように犬の名前がつけられています。

そのひとつ「トイプードル」を特殊なカメラが撮影した画像です。
ゴツゴツとした岩の表面の様子が映し出されています。

しかし、犬には見えません。
なぜ、犬の名前なんでしょうか?

実は、最初に岩石に犬の名前をつけたのは佐伯さんで、観測に関わる研究者の間で、それぞれの大きさをイメージしやすくするためだったということです。

立命館大学 宇宙地球探査研究センター 佐伯和人 センター長
「当初は岩石に番号をつけて識別しようとしたものの、観測する順番を話し合う際に『2番目に分析する岩石は1番』などとなってしまい、大混乱するので具体的な名前が必要だという話になりました」

ほかにも▽SLIMの管制室がある神奈川県相模原市周辺の地名や▽世界の国名、▽フルーツの名前などが検討されましたが、犬好きの佐伯さんがトイプードルや柴犬など犬の名前を提案すると、チームのほかのメンバーも次々と自分の好きな犬の名前をあげていき、それが定着したということです。

立命館大学 宇宙地球探査研究センター 佐伯和人 センター長
「すごく小さいかわいい犬というのでパッと思いついたのがトイプードルで、略して『プードル』と呼ぶつもりでした。日本では『プードル』といえば『トイプードル』を想像する人が多いため(トイ)という表記を入れましたが、『トイプー』という略称が定着してしまい、ちょっと私の想像と違いましたね」

天体などに名前つけるには

天体や地形に正式な名前をつけるには、国際天文学連合に申請して承認される必要があります。

例えば、今回、SLIMが着陸したクレーターは「SHIOLI(シオリ)」という名前がつけられていて今回の着陸が歴史のターニングポイントにはさまれる「しおり」となるようプロジェクトチームが申請し、2019年に承認されました。

そのほか、かつて日本の探査機が着陸し、サンプルを持ち帰った小惑星「リュウグウ」や「イトカワ」も正式な名前として国際天文学連合に認められています。

チームでは現在進めている分析の結果を学会などで発表する際も、これまで公表してきた犬の名前を使用することにしていますが、正式な名前について佐伯さんは「今のところは申請は特に考えていませんが、求める声が大きければ検討するかもしれません」と話していました。

今後の展望は

今後の焦点は「月がどうやってできたのか」を探ること。

チームでは現在、観測した岩石がかつて月の内部にあった鉱物「カンラン石」かどうか分析を進めています。

「ジャイアントインパクト説」のイメージ

「カンラン石」が見つかり、その成分が地球の地殻の下にある岩石の層=マントルと似ていれば月が地球のマントルから誕生したとする仮説、「ジャイアントインパクト説」を補強する成果になると考えられています。

チームでは半年から1年後に観測結果を公表したいとしています。

立命館大学 宇宙地球探査研究センター 佐伯和人 センター長
「岩石は1つ撮影できれば成功だと考えていたので、10個も撮れたのは想定以上の成果で本当に驚きました。チームの皆さんにも感謝しています。観測が無事終わったあとにチームのメンバーで祝杯をあげたんですが、朝まで飲んだので今は少し疲れが出ているかもしれません。世界で初めての観測データを出せそうなので、月と地球の起源の謎を解き明かすような成果につなげたいと思っています」