能登半島地震“救急患者断る場合も”被災者受け入れ病床ひっ迫

能登半島地震で被災した人たちを受け入れている金沢市の病院では病床がひっ迫し、救急患者の受け入れを断らざるをえないケースも出ています。金沢市では、救急患者の受け入れ先がすぐに決まらないケースが増加し、消防はふだん以上に適正に利用してほしいと呼びかけています。

治療終了なのに…受け入れ施設が見つからない高齢者も

金沢市にある国立病院機構金沢医療センターは救急患者を24時間受け入れ、入院や手術にも対応している「2次救急」の指定病院です。

今回の地震では、けがをした人だけでなく、断水した輪島市や珠洲市の病院から転院してきた人たちや、金沢市の2次避難所などで避難生活を送っていて体調を崩した人も受け入れています。

これまでにあわせておよそ150人を受け入れ、今もおよそ100人の入院が続いています。

病院によりますと、今も入院している人のうち、およそ30人についてはすでに治療が終わっていますが、高齢者施設などの受け入れ先が見つからないため、病院にとどまらざるをえなくなっている人たちだということです。

ほかにも、本来ならこの病院から別の医療機関に転院しているはずの人のおよそ20人も受け入れ先の医療機関が見つからないため、入院の継続を余儀なくされているということです。

病院では、先月10日以降は、それまで使っていなかった病棟も開放して、42床増やした473床で対応していますが、病床の使用率は2日の時点で89%となっています。

このため救急患者の受け入れを断ったり、予定されていた手術を延期したりするケースも出ているといいます。

阪上学院長によりますと、石川県南部の75の医療機関の状況を独自に調べたところ、受け入れ先の施設などが見つからないために入院し続けている人が先月末の時点であわせておよそ300人に上っているということです。

国立病院機構金沢医療センター 阪上学院長
「石川県は被災地だけでなくすべてのエリアで救急などの医療がぎりぎりの状態に置かれていて危機感を持っている。現状では治療を待ってもらうなどの調整でなんとかなっているが、被災した高齢者の方が今後、体調を崩し、さらにひっ迫することが懸念される」

“コロナ対策”とりながら受け入れ 看護師に疲れの色も

金沢市の石川県済生会金沢病院では被災した人たちの受け入れを続けていて、先月8日に被災者を一時的に受け入れる「1.5次避難所」が近くに開設されてからは、避難所で体調を崩した人の救急搬送も受け入れています。

多いときには1日におよそ15件の受け入れ要請があったということで、237ある病床が先月20日ごろからほぼ埋まりました。

さらに病院が今、追われているのは新型コロナウイルスの感染対策です。

以前はほとんどいなかった感染患者が年末から増え始め、全体の病床の1割程度を新型コロナの患者にあてているということです。

新型コロナの患者の部屋はほかの患者の部屋と分けて用意され、判別しやすいよう赤い紙が張られていました。

医療スタッフがこの部屋に出入りする際は防護服を着ているということです。

石川県済生会金沢病院 龍澤泰彦副院長
「新型コロナの5類移行後はコロナの患者と一般の患者を同じ病棟で診ていて、被災患者も積極的に受け入れている。看護師の疲れも高まっていて、いつまで続くか先が見えない状況だが、要請にはなるべく応えられるようにしていきたい」

金沢市 搬送先が決まらないケース増える

各地の消防では、患者の搬送にあたって病院に4回以上照会し、現場に30分以上滞在したケースを「救急搬送困難事案」として、件数を集計しています。

金沢市消防局によりますと今回の地震が発生した先月1日から28日までの4週間の「救急搬送困難事案」は105件と、去年1月の4週間に比べて17件多くなっています。

金沢市消防局は「地震の影響で病床の空きがなくなり、搬送先の決定に時間がかかるケースが相次いでいる」としていて、救急車を本当に必要とする人のため、ふだん以上に適正に利用してほしいと呼びかけています。

一方、石川県によりますと、本来なら退院しているはずの人などがどれくらいいるかは詳しく把握できていないということですが、病床がひっ迫する医療機関から対応を求められているということです。

県では、地震で自宅を失い退院できずにいる高齢者のため新しい受け入れ施設を探したり、県外の病院への転院を調整したりしているということです。

専門家「受け入れる側のひっ迫 あまり例ない」

災害医療に詳しく、今回の能登半島地震でも被災地の医療機関で活動した岩手医科大学の眞瀬智彦教授は「被災地の医療機関ではどこも水が不足していたため、早くから金沢市内の病院に転院してもらう判断をしていた」と当時の様子を振り返りました。

金沢市などの医療機関が直面している現在の状況については「被災地の病院がひっ迫することはこれまでの災害でも起きていたが、受け入れる側がひっ迫することはあまり例がないと思う」と述べました。

今後の対策として「隣接する県どうしで調整を行い、患者の移動手段などに配慮しながら、他県での受け入れを進める必要がある」と言います。

そのうえで眞瀬教授は「医療現場だけの問題にするのではなく、医療から福祉介護への橋渡しができる関係の構築が必要だ。入院に関する医療を提供する地域の単位『二次医療圏』を越えた環境でも、平常時と同じように患者の受け入れをスムーズに行える流れを考えるべきだ」と指摘しました。