ユース五輪“未来へつなぐ14日間” 将来 五輪の舞台でも活躍を

韓国で開催された冬のユースオリンピックが2月1日に閉幕しました。日本は金メダル3つを含む15個のメダルを獲得し、将来、オリンピックの舞台でも活躍するのではないかという期待が膨らむ若手アスリートたちの14日間の戦いでした。
(スポーツニュース部 記者/松山翔平・福島康児)

“実績組”は手応え

ユース世代の世界トップレベルの選手たちが集まるこの大会で、力を示したのが、すでに世界の舞台で実績を残してきた選手たちでした。

島田麻央 選手(左)高木謠 選手(右)

金メダルを獲得したフィギュアスケート女子シングルの島田麻央選手と、スノーボード女子ビッグエアの村瀬由徠選手は、ともにジュニアカテゴリーで世界一になった実績があります。

島田選手はユースオリンピックでの金メダル獲得について「この経験をオリンピックに行くための第一歩としてもっといい演技ができるように頑張りたい」とさらなる手応えを口にしました。

村瀬由徠 選手(中央)

村瀬選手も「ジュニア世代といってもみんなうまい。いい刺激をもらって、これからも頑張れそう」と話し、大きな経験だったと振り返りました。

さらに大会最終日にスノーボード女子ハーフパイプで金メダルを獲得した工藤璃星選手は、同い年のライバルで銀メダルの清水さら選手とともに表彰台に上がり、笑顔を見せました。

清水さら 選手(左)工藤璃星 選手(中央)

同じ種目の男子でも山田琉聖選手も銅メダルを獲得し、男女ともに日本のレベルの高さを示しました。

この種目は前回のユースオリンピックでも日本勢が男女で金メダルを獲得し、シニアのオリンピックでも北京大会で平野歩夢選手が金メダルに輝くなど、2大会連続で日本選手がメダルを獲得しています。

新たな日本の“お家芸”としての地位確立に期待を抱かせる結果となりました。

ショートトラック 新たな育成方法で成果

男女の個人と混合団体であわせて3つの銅メダルを獲得し、長い低迷期から復活の兆しを見せたのがスケートショートトラックでした。

日本スケート連盟は、ショートトラックが決勝まで進むことができなかった2年前の北京オリンピックのあと、新たにジュニア世代から集中的な合宿を行って強化を図る「ジュニアナショナルチーム」を結成し、長期的な視点での強化を始めました。

スケートの技術だけでなく、栄養学やメンタルヘルスなども学ぶ合宿に取り組み、その中から今回女子1500メートルで銅メダルを獲得した井上暖乃美選手らを輩出しました。

井上選手は「合宿のおかげで、今回のメダルにつながった」と成果を感じている様子でした。

“二刀流”で才能発掘も

また、スケルトン女子では、陸上を専門としていた篠原彩緒選手が、実戦経験わずか10試合程度で出場しました。

篠原彩緒 選手

さまざまな競技への適正を見いだすプロジェクトで、スケルトンの才能が見いだされた篠原選手は今後も「陸上とスケルトンの相乗効果で成長できれば」と話していました。

若い世代の可能性をいかに伸ばしていくかは、冬の競技に限らずスポーツ界全体が直面する課題です。

その中でジュニア世代の新たな育成方法の模索が、着実に実を結んでいることを印象づけました。

伝統の“お家芸”が苦戦

その一方で、苦戦を強いられたのが、日本が伝統的に世界で力を示してきた、スキージャンプやノルディック複合といった種目でした。

佐藤柚月 選手

今大会で日本勢はメダルには届かず、開会式で旗手も務めたスキージャンプ女子の佐藤柚月選手は「同世代のトップ選手たちと戦い、今の実力を知ることができた。課題はまだまだあるので、次につなげたい」と、この経験を糧とする決意を示しました。

スキージャンプの長野オリンピック金メダリストで、今大会の日本選手団の団長を務めた原田雅彦さんは「経験の差が出てしまった。今回の成績をもってそれぞれの指導者が選手たちの成長に結び付く指導を行っていく必要がある」と総括しました。

競うだけではない“学び”の側面も

ユースオリンピックは、競技だけでなく、若いアスリートが世界各国・地域の人たちと交流し、さまざまな知識を学ぶ教育の側面もあります。

ドーピングに関する知識学ぶ カーリング 丸銭咲月 選手

選手村の教育プログラムでのブースでは、トレーニング方法やドーピングに関する知識、アスリートの心構えなどについて学ぶコーナーや選手どうしが交流できるゲームスペースも設けられました。

教育プログラムはゲームや実習形式で学ぶことができ、すべてのプログラムを受講するとオリジナルのピンバッジのセットがもらえることもあって、競技や練習の合間をぬって受講する選手たちでにぎわっていました。

先輩アスリートの姿も

中でも注目されたのが、国際大会の経験が豊富な元トップアスリートが任命された「アスリートロールモデル」でした。

小平奈緒さん(右)

若手アスリートにみずからの経験を伝える役割を担うため日本から参加したのがスピードスケートのピョンチャンオリンピック金メダリスト、小平奈緒さんです。

期間中、表彰式のプレゼンターとして登場したほか、選手とも交流しました。

施設の再利用、混合種目やデジタル技術 実験的な取り組みも

そしてユースオリンピックは、IOC=国際オリンピック委員会などが将来のオリンピックを見据えた先進的な取り組みを導入する場でもあります。

特に今大会の成果だとIOCが主張するのが、今後のオリンピックの持続可能性を示したことです。

競技会場は2018年のピョンチャンオリンピックの会場を再利用したほか、選手村の宿泊施設は地元の大学の寮が使われるなど、すべて既存施設を活用しました。

組織委員会の事務局のスタッフのうち30%がピョンチャン大会を経験したスタッフだったといい、その経験を生かすことで事務局スタッフの人数も最小限に抑えられるなどした結果、組織委員会の総予算は日本円で※およそ108億円で、施設やインフラ予算を除いた2018年ピョンチャン大会の予算のおよそ3.5%に抑えられたとしています。(※1円=9.06ウォンで計算 2月2日 午前10時時点)。

スケート ショートトラック混合リレーで日本は銅メダル

またIOCが掲げるジェンダー平等の観点からも大きな成果があったとしています。

今大会ではおよそ1900人の選手の男女比を半々にし、新たにスピードスケートの混合リレーなどが取り入れられ、81種目のうち男女混合の種目は17種目に上りました。

もう1つ印象的だったのがオリンピックやスポーツへの若者の関心を引き付けようと、IOCが力を入れているデジタル技術の活用です。

今大会では、インターネット上の仮想空間で会場などを回ることができる「メタバース」のサービスを導入し、バーチャルの世界で会場の雰囲気を体験することを可能にするなど今後の新たなスポーツ体験のトレンドとなる可能性を感じさせました。

未来を見据えて

大会を通じて、日本選手からは「さまざまな経験ができて刺激になった」などと充実感を得られたという声が多く聞かれました。

これまでもユースオリンピックから多くのオリンピックメダリストが生まれてきました。

アスリートロールモデルを務めた小平奈緒さんは、ライバルで親友のイ・サンファさん(李相花)と大会の会場で再会し、旧交を温めました。

小平奈緒さんとイ・サンファさん

その小平さんを憧れの存在にあげる、今大会のスピードスケート女子500メートルの銅メダリスト笹渕和花選手は、銀メダルを獲得した韓国の選手と、ライバルとしてこれからも競い合っていくことを誓っていました。

若手アスリートが、競い高め合うことの大切さを知る大きな機会になった今大会。小平さんは大切なメッセージを送りました。

小平奈緒さん
「若い選手には、ふだん見ている世界がすべてではないということを一番伝えたい。世界中の違った文化を理解しようとしたり、わかり合おうとしたりする経験が、必ず人として成長していく材料になる」

この大会を経験した若手アスリートが、選手として、人としてどのように成長し、いずれオリンピックや世界の舞台へと羽ばたいていくのか。

これからの姿に引き続き注目していきたいと思います。