能登半島地震 労働相談が1300件超に「内定取り消し」ケースも

能登半島地震を受けて、石川労働局には、先月30日の時点で国の支援制度の問い合わせのほか解雇に関する相談など、1300件余りの相談が寄せられています。さらに、ことし春に石川県内で就職する予定だった学生が内定を取り消されたケースもあったことが労働局への取材で分かりました。

石川労働局は、先月4日から県内11か所の労働基準監督署やハローワークなどに「特別労働相談窓口」を設置し、先月30日の時点で事業主と労働者の双方からあわせて1351件の相談が寄せられています。

労働局によりますと内容別では、国の支援制度の申請手続きに関する問い合わせが多く、雇用保険が443件、雇用調整助成金が360件の順となっています。

また、災害時の労働時間の取り扱いを含む労働時間についてが99件、解雇や雇い止めについても70件の相談が寄せられています。業種別では製造業が最も多く全体の1割余りを占める173件で、次いで卸売業・小売業と医療・福祉がそれぞれ119件などとなっています。

具体的な相談内容は「断水などで休業せざるを得ない」というものや「避難していて通勤できない」などが寄せられているということです。

一方、ことし春に県内の事業所に就職する予定だった石川県外に住む学生1人が今回の地震の影響を理由に内定が取り消されたことが労働局への取材で分かりました。

この事業所は地震による被害が大きく事業再開のメドが立たないということで、労働局は取り消しはやむをえないと判断し、最寄りの労働局に対し、就職支援を依頼したということです。

石川労働局の竹浪博之・監理官は「事業主にとっても大変な状況だが、雇用維持のため窓口に相談して、雇用調整助成金などの特例措置を利用していただきたい」と話しています。

雇用を守るため現地では動きも

断水が続く石川県能登地方では、地震から1か月がたった今でも、事業の再開に見通しが立たない企業が多くあります。

一方で、雇用を守る努力をしているところもあります。

能登町で包丁などを製造する「ふくべ鍛冶」は、創業から115年の歴史がある老舗の刃物メーカーです。

地震によって、店舗の休業や、一部の注文のキャンセルを余儀なくされおよそ1000万円の損失が見込まれています。

雇用調整助成金を活用し、14人いる従業員の雇用を守る方針ですが、助成金だけでは給料をまかなえないほか、建物や設備の修理の費用も必要となっています。

このため、発送の再開を待つことを条件に、オンラインで包丁の販売などの受け付けを行っているほか、先月26日からは包丁を研ぐサービスをお礼とし、クラウドファンディングで資金集めを始めました。

さっそく、目標金額の100万円を上回る資金が集まっています。

干場健太朗 社長は「過疎地域の能登では、地震をきっかけにさらに人手の確保が難しくなる懸念があり、こうした時期であっても雇用を確保する必要がある。クラウドファンディングなどでなんとか立ち上がっていきたい」と話しています。

「避難所で仕事」の被災者に報酬支払う取り組みも

石川県加賀市山代温泉の旅館は輪島市や珠洲市の住民、300人以上を受け入れる2次避難所となっていて、館内には東京のNPO法人などが子どもたちの居場所となる遊び場を作っています。

遊び場では、4人の被災者が子どもたちの見守りや施設管理を担う運営スタッフとして働いていて、NPOに寄せられた寄付金から報酬が支払われています。

このように被災者が避難先で働く「キャッシュ・フォー・ワーク」と呼ばれる取り組みは東日本大震災以降、広がっていて、NPOでは今後、各地の避難所で進めたいとしています。

NPO法人「カタリバ」の今村久美代表理事は「元々、能力のある被災者に運営をお願いすることで、避難生活を金銭面でも支えていきたい」と話していました。

「遊び場」で働くスポーツインストラクターの松岡和香子さんは「避難生活はコインランドリーなど何かとお金がかかります。働く場所は被災者どうしの交流の場にもなるので、この取り組みが広がるといいと思います」と話していました。

専門家「生産性を高めるための支援が必要だ」

災害からの地域経済の復興が専門の関西大学の永松伸吾教授は「ライフラインの復旧が遅れると、生産拠点そのものを移す動きが加速し、被災地での労働需要が減ることが懸念される。被災地で復興を目指す企業には、まずは資金負担の軽減や、被災前と比べて生産性を高めるための支援が必要だ」と指摘しています。

その上で、避難所などで被災者を雇用する動きについては「仕事は単に収入を得る手段だけでなく、精神的な支えにもなる。被災地では、片付けや避難所運営などに人手が足りない問題もあり、被災者を雇用する動きは今後、広がっていくのではないか」と話していました。