液状化が生活再建の大きな障壁に 被害は「砂丘」に集中

能登半島地震では建物の倒壊や火災、津波、寒さによって多くの命が奪われましたが、広範囲で発生した液状化による被害が生活再建の大きな障壁となっています。専門家の分析では、今回の地震で被害が大きかった場所が砂が堆積した「砂丘」に集中していることがわかりました。専門家は「砂丘の液状化被害はこれまであまり注目されておらず、今後の対策に生かす必要がある」と指摘しています。

東西300キロ・震度4でも

地盤災害のメカニズムに詳しい防災科学技術研究所の先名重樹主任専門研究員が現地調査や航空写真などから、今回の液状化被害の状況を分析しました。

その結果、液状化が確認された範囲は新潟市中央区から富山県、石川県、そして福井県坂井市にかけての東西およそ320キロの範囲に及んでいました。

中には富山県魚津市など、これまで液状化があまり確認されてこなかった震度4程度の揺れでも被害が発生していました。

今回の揺れの継続時間が長かったことが影響したとみています。

被害大は“砂丘の陸側”に集中

今回、液状化が発生した地形にも特徴があることがわかりました。

東日本大震災では液状化による大きな被害は埋め立て地や、かつて川だった「旧河道」を中心に発生していました。

一方、今回の能登半島地震ではこうした地形に加え、風によって運ばれた砂からなる「砂丘」でも発生し、特に被害が大きかった場所が日本海に面した側ではなく、陸側に集中していたことがわかりました。先名主任専門研究員は風の影響で、海側から吹き飛ばされた細かな砂が堆積したことなどが関係しているとみて、分析を続けることにしています。

その上で、「砂丘は日本海側に多く、液状化が起きることはわかっていたが、埋め立て地や旧河道に比べるとあまり注目されてこなかった。今回被害が出たところは再被害のおそれもあるほか、その周辺部や類似の地形では、今後の地震で液状化被害が大きくなる可能性もあるので、対策を考えていく必要がある」と話しています。

新潟市西区などで大きな被害

石川県内灘町や金沢市、新潟市西区などでは液状化によって建物が傾いたり、道路が大きく変形したりする大きな被害が出ています。

これは地盤が横に大きくずれ動く「側方流動」といわれ建物だけでなく、地下の構造物も壊れることがあります。

震度は石川県内灘町で5弱、新潟市西区では5強で、これまで考えられてきた液状化の被害に比べても大きいということです。

こうした場所は地形的に砂丘に分類されていて、このうち、なだらかになっている低地の部分、さらに、海側ではなく、陸側に当たります。

なぜ陸側なのか。

防災科学技術研究所の先名重樹主任専門研究員によりますと、海側は日本海からの季節風の影響で液状化が起きやすい細かい砂が吹き飛ばされたとみられる一方、陸側は風が遮られるほか、丘陵地から細かな砂が堆積したとみられます。

海側に比べると地盤が緩くなっていたと考えられるのです。近くに川や沼などがあると地下水の水位も高くなり、液状化が発生したと考えられています。

さらに、先名主任専門研究員は、今回の地震で揺れの時間が長かったことが被害の深刻化につながったとみています。

どう調べる?液状化ハザードマップも

砂丘のほか、埋め立て地や旧河道など液状化の起きやすい地形は防災科学技術研究所が運営している「JーSHIS」=地震ハザードステーションなどで確認することができます。

また、東京都や千葉県など、液状化ハザードマップを作成して公表している自治体もあります。

被害者の暮らしに大きな影響

液状化は被害を受けた人たちの暮らしに大きな影響を及ぼしています。

地形的に砂丘に分類されている新潟市西区の寺尾地区に住む石黒忠雄さん(77)は自宅が傾き、玄関の扉が外れるなどの被害がありました。

石黒さんは生活の再建には公的な支援が必要だと思っていますが、り災証明書では「準半壊」でした。

自宅が大きな被害を受けた世帯に対する被災者生活再建支援金(基礎支援金)を受け取るには、基本的にはそれより被害程度の大きな「半壊」以上と判定される必要があります。

また、自宅の裏の擁壁には大きな亀裂が入り、いつ崩れてもおかしくない危険な状況だということです。

近くのアパートに引っ越すことを決めた石黒さんは少しでも節約しようと、自力で引っ越しや家財の処分などを行いました。

アパートの家賃は貯金を取り崩して工面しています。

生まれ育った土地を離れたことに未練を抱えながらも、前を向くしかないとして、「地震の前の生活を思い出してもどうにもならない。新しい生活に慣れるしかない」と話していました。

地形的に旧河道に分類されている新潟市西区の善久地区に住む橋立敬さん(54)は地震のあと、自宅が傾く被害が出て、健康への影響を懸念しているほか、屋根にひびが入り、雨水がしみこんでくるようになりました。

また、車庫が沈下したことから雨水がたまるようになり、ポンプを使って定期的に排水せざるを得なくなりました。

橋立さんは公的な支援を受けるのに必要なり災証明書が交付されておらず、先が見通せないということです。

橋立さんは「り災証明書がまだ交付されていないので、再建に向けて動きだせない。この家にこのまま住むのか、直して住むのか、引っ越しをするのか、どれくらい支援を受けられるのか、わかってからでないと決められない」と話していました。