熊本県内自治体 住宅耐震工事費用補助 今年度7割以上 利用ゼロ

能登半島地震では多くの住宅が倒壊しましたが、8年前の熊本地震で住宅の倒壊が相次いだ熊本県内のすべての自治体に、住宅の耐震工事などの費用を補助する制度の利用状況を取材したところ、今年度は7割以上の自治体で利用が1件もなかったことが分かりました。中には耐震化率が全国平均を下回るとみられる自治体もあり、地震の被災地であっても耐震工事が進んでいない現状が浮き彫りになっています。

1か月前に発生した能登半島地震で石川県内では住宅の倒壊によって多くの人が亡くなりました。

8年前の熊本地震でも熊本県内で合わせておよそ20万棟の住宅が被害を受け、地震のあと県内の自治体は、1981年までの古い耐震基準で建てられた木造住宅について、耐震化に向けた改修工事などにかかる費用を補助する制度の利用を一層促しています。

この制度の今年度の利用状況について、NHKは熊本県内45のすべての自治体に取材しました。

その結果、住宅を改修するための計画作成や工事の補助について、7割以上にあたる32の自治体で利用が1件もなかったことが分かりました。

こうした自治体の中には、住宅の耐震化率が2018年度末時点で全国平均の87%以下で、現在も下回っているとみられる自治体もあり、地震の被災地であっても耐震工事が進んでいない現状が浮き彫りになっています。

各自治体は工事などの補助制度の利用が進まない理由について、資材価格の高騰で工事費用が高額になっていることや、高齢化や過疎化で長期的に住む人が少なくなっていることなどを挙げています。

また、熊本地震の発生から時間がたち、耐震化への意識が薄らいでいる可能性があるといった指摘もありました。

各自治体とともに住宅の耐震化を進めている熊本県は「能登半島地震の住宅被害は耐震化の重要性を改めて浮き彫りにした。制度を活用し、住宅の耐震性能を上げてほしい」として、最寄りの自治体などへの相談を呼びかけています。

耐震工事が進む高知 黒潮町は

熊本県内で耐震工事の進み具合が課題となる中、県外の自治体では工事が進んでいるところもあります。

南海トラフの巨大地震で最大で震度7の揺れが想定されている高知県の黒潮町は今年度、1月31日の時点で合わせて93件の耐震工事を実施しました。

人口が1万人余りの黒潮町では耐震工事の前提となる「耐震診断」を受けてもらうため、町内にある古い耐震基準の木造住宅をリストアップし、戸別訪問を合わせて3回行って周知したということです。

それとともに、耐震工事を担う地元の工務店や設計事務所などに対しては、勉強会などを通じて、基準に沿った耐震性を確保しながら工事費用をできるだけ安く抑えた工法などを紹介してきたということです。

町内で過去5年間に実施された耐震工事、合わせて732件のうち、およそ半数にあたる347件は、自治体からの補助額の上限、110万円以内に収まり、自己負担がなかったほか、3割は自己負担額が20万円以下だったということです。

町は住民の負担をできるだけ減らすことで、耐震工事を受ける際の課題となっていた資金面のハードルを下げ、耐震工事の件数増加につなげることができたとしています。

黒潮町情報防災課の国見知法さんは「住宅の耐震化は『防災の一丁目一番地』と言え、行政側も能登半島で起きたことを対岸の火事ではなく、自分事だと捉えて取り組んでいく必要があると考えています」と話していました。