地震からの火災……燃え広がらない町へ「危険度5」地区の試み

地震からの火災……燃え広がらない町へ「危険度5」地区の試み
今回の能登半島地震や阪神・淡路大震災などでは、地震後に発生した火災が被害を深刻化させました。

今後30年以内に70%の確率で発生するとされている首都直下地震。危惧されるのが同時多発火災、そして延焼拡大による大火です。

大地震後に火災が起こる危険度が最も高い「ランク5」に指定されている、東京・葛飾区のある地域。住民と行政が協力して、火災に強いまちづくりを始めています。(首都圏局記者 山下忠一郎)

※記事の最後に、東京23区の「消防活動困難区域」を記した地図を掲載しています。

能登半島地震 200棟以上が焼ける

元日の能登半島地震では、輪島市中心部で大規模な火災が発生しました。十分な初期消火ができず、店舗や住宅など200棟以上が焼けたとみられています。

1995年の阪神・淡路大震災でも、各地で発生した火災で多くの人が犠牲になりました。
住宅が密集する地域では地震はもちろん、「地震後の火災」への対策も重要になっています。

「火災危険度5」の地区 歩いてみると……

JR総武線の新小岩駅から、北西に約1キロほどの場所にある西新小岩5丁目。東京・葛飾区の南部に位置し、約1800世帯が暮らしています。
この地区の町会長の町山光司さん(80)に案内していただきました。

もともと、新小岩地区は江戸時代以前からの農村で、町山さんが子どもだった頃は「自宅付近から約1キロ離れた新小岩駅の駅舎が見渡せた」――そんな場所だったそうです。
写真のように、平成の初めごろまでは畑も目立っていました。

令和6年の今、街を歩いて目につくのが、古い木造住宅や建て売り住宅が密集する様子です。隣の家との隙間が数十センチしかないところや、狭い路地の奥に住宅が4、5軒建ち並んでいるところもありました。

区画整理がされないまま、戦後の高度経済成長期に急速に宅地化が進み、人口が増加したのです。
こうしたことなどから、西新小岩5丁目は、東京都の調査で大地震が起きた際に火災が起こる危険度が5段階で最も高い「ランク5」に指定されています。

町山さんも火災による延焼を心配しています。5丁目ではこの数年間で火災が相次いでいて、幸い大規模な延焼には至りませんでしたが、首都直下地震が起きれば大惨事になりかねません。

町の現状に強い危機感を抱いています。
町山光司さん
「となりととなりの間が10センチのような建物もいっぱいありますからね。(首都直下地震が起きれば)おそらく、大火になると思います。安心して生活できるという町ではないですよね」

さらに大きな課題……狭い道路

さらに地域の危険度を高めているのが道路の狭さです。道幅が4メートル未満で車がすれ違えないほどの道路も多く、消防活動の妨げになっているのです。

実際、消防車が大通りから5丁目に入れず、消防活動が難航したこともあったといいます。

消防車が支障なく通ることができる道幅は6メートル以上です。しかし、5丁目には6メートル未満の細い道が数多くあります。
消防車が問題なくホースを伸ばせるのは直線距離で140メートルの場所までですが、5丁目の3割近くはホースが届かない「消防活動困難区域」となっています。

地域を守るため住民ができること

火災から地域を守るために何ができるのでしょうか。5丁目のような地域では、住民の初期消火が重要になります。

町内には約60か所に消火器が設置されていますが、いざという時に使えないと意味がありません。去年11月に行われた5丁目の年に1度の防災訓練では、住民たちが消火器の使い方の手順を覚えようとしていました。
さらに、消火栓に接続することで簡単に使えて、消火器よりも威力の強いスタンドパイプの使い方も消防隊員から教わり、放水を体験していました。
住民
「消防車がなかなか入り込めないので、住民がまずやれることをしていかなければいけない」
住民
「近所でみんな力をあわせながら、初期消火ですか、それを心がけているようにしなければいけないと思います」

燃え広がらないまちを作る

さらに葛飾区も協力して燃えないまちづくりを進めています。去年2月に協議会を立ち上げて、道路を拡幅できる見込みになったのです。
計画では、既存の道路の幅を6メートル以上に広げて、消防車がスムーズに通行できるようにします。

5丁目全体の骨格となる道路で、総延長は約770メートル。完成すれば「消防活動困難区域」がほぼ解消します。
こちらは首都直下地震を想定したシミュレーションです。まず左側の地図をご覧ください。「消防活動困難区域」で3棟が火事になった場合、1時間後には約120棟まで燃え広がります。地図の濃い赤色や茶色のところが延焼部分です。

ただし、道路を拡幅し、道路沿いの住宅の不燃化を進めた場合、延焼は半分程度まで減少します。特に拡幅した道路の南側で、延焼が少なくなっていることがわかります。
区は今年度に住民説明会を行っていて、新年度以降、用地買収に向けて地権者などと本格的に協議をすすめていきたいとしています。
葛飾区都市整備部 飛島朝子 街づくり推進担当課長
「地域の皆様の防災まちづくりへの機運の盛り上がりに、しっかりとこたえていきたい。行政としても力強く背中を押されているような意識をもっております。燃え広がらない安全なまちを実現していきたい」
西新小岩五丁目町会 町山光司会長
「皆さんが安心して生活できるような生活道路とか。早く、この町を安全な町にしたいという私の願いはそれだけです」

反対する声は少ない

道路を拡幅するためには、道路沿いの住宅の移転など住民の協力が欠かせません。

移転の対象となる住民には補償金が支払われますが、葛飾区によりますと今回の事業に反対する声は少ないということです。区は早ければ令和7年度以降に工事を行いたいということです。
はじめに少し触れましたが、西新小岩5丁目は江戸時代以前は農村地帯で、区画整理がされないまま宅地化が進み、江戸時代から区画がほとんど変わっていないということでした。

野菜を大八車で運んでいた江戸時代の農道が、そのまま舗装されて道路になったところもあるそうです。こうした地形的な特徴が、現在5丁目の抱える防災上の課題につながっていることがわかりました。

「消防活動困難区域」は各地に

今回取り上げた「消防活動困難区域」は葛飾区だけの問題ではありません。こちらは東京23区の地図です。赤い部分が「消防活動困難区域」です。杉並区や世田谷区など23区西部で目立っています。

実際に災害が起きた場合、倒壊した建物のがれきで道路が塞がれたり、今回の能登半島地震のように断水で消火栓が使えなくなったりするなど、消防活動が難航することも懸念されます。

今後、起こりうる大地震で犠牲者を減らし助かる命を救うために、行政と住民が協力して少しでも燃え広がらないまちにつくりかえていくことが求められます。

(1月15日「おはよう日本」で放送)
首都圏局記者
山下忠一郎
2004年入局
青森局、秋田局、大阪局などを経て、現在は「首都圏ネットワーク」のニュース制作を担当