“復興願うともし火” フランスへ 石川 七尾の和ろうそく

パリ近郊で今月開かれた世界最大規模のインテリアとデザイン関連の国際見本市の一角に、能登半島地震で店舗が倒壊した石川県七尾市にある老舗ろうそく店の和ろうそくが出品されました。被災し、一度は断念した出展は、関係者の支援を受けて実現にこぎ着け、地震からの復興を願う「希望の明かり」として被災地から遠く離れたフランスでともされました。

(取材 / NHK WORLD-JAPAN NEWSROOM TOKYO アンカー 吉岡拓馬)

“インテリア業界のパリ・コレ” メゾン・エ・オブジェ

パリ近郊で毎年2回開かれる、インテリア業界のパリ・コレとも呼ばれる見本市「メゾン・エ・オブジェ」。

今月18日から5日間の日程で開かれ、今回は140余りの国から2300のブランドが集まり、暮らしを彩る様々な商品が展示されました。

ここに、能登半島地震の被災地、石川県七尾市にある「高澤ろうそく」が出品した和ろうそくが展示されました。

西洋のものに比べて芯が太く、天然素材を用いて手作りされた和ろうそく。

すすが出にくく炎が大きいため、各国から集まったバイヤーたちの高い注目を集めました。

フランス人のバイヤー
「伝統と現代が合わさっていてすばらしい。こんなものは今まで見たことがない」

ブースには地震による被害や店の歴史を伝えるパネルが設けられ、再建に向けた寄付も呼びかけられました。

1月1日午後4時10分 突如襲った悲劇

高澤ろうそく Facebookより

能登半島の穏やかな湾に面した七尾では、江戸時代の1650年頃、加賀藩主の前田家が「ろうそく座」という製造販売組合をつくり、以来、各地から職人を集めてろうそく作りを推奨しました。

北前船の寄港地という地の利を生かし全国各地から原料を取り寄せ、出来上がった品を各地に運ぶことができたため、ろうそくの生産が盛んになったといいます。

この店の創業は今から130年以上前の明治25年(1892年)。

今では県内で唯一、和紙と灯芯を一本一本手で巻く伝統の手法で和ろうそくを作り続け、国の有形文化財に登録されている店舗は観光名所にもなっていました。

しかし、ことし1月1日午後4時10分。

正月を祝う雰囲気に包まれていたこの地域をマグニチュード7.6の地震が襲いました。

この地震で、七尾市で古い町並みが今も残る「一本杉通り」に面した土蔵造りの店舗は軒先が倒壊し、母屋も傾く大きな被害が出ました。

店先には「当分の間、お休みさせていただきます」の張り紙が。

海外展開本格化のやさきに

高澤久さん(2019放送 NHK番組より)

創業当時から数えて5代目となる社長の高澤久さん(51)は、伝統工芸の和ろうそくの魅力を世界に発信できないかと、父の代から10年以上、海外展開戦略を練ってきました。

もともと仏具として使われてきた和ろうそくですが、高澤さんは、リビングや食卓での利用などにも用途を広げたいと、日常的にろうそくを使う文化のあるヨーロッパ市場に狙いを定め、外国語のできる社員を増やすなど海外の販路拡大に力を入れてきたといいます。

その集大成とも言えるのが「サッカーでいうところのワールドカップ」と高澤さんが表現する催し「メゾン・エ・オブジェ」への出品でした。

ことし30年目を迎えるこの見本市は、地元フランスだけでなく、ヨーロッパや中東、アジアなどから大勢のバイヤーが訪れる一大イベント。

出品には事前の審査をクリアする必要があり、出品実績そのものがブランド力を高めるともいわれています。

その見本市に、高澤さんはことし初めて単独で出品するチャンスを得ました。

それだけでなく、この和ろうそくは、主催者から事前の注目商品のひとつにも選ばれていました。

世界のひのき舞台に立とうとしていたやさきに、地震に襲われたのです。

出展断念から一転 ろうそくをフランスへ

「私自身が被災者となり生活に不安を抱える中、社員を残して日本を離れるわけにはいかない」。

高澤さんは、地震から5日経った1月6日、見本市の日本の総代理店と出品を支援してきたJETRO=日本貿易振興機構の担当者に、出展を中止するとのメールを送りました。

これを受けた日本の総代理店は「せめて商品だけでも展示し、来場者に商品購入を通じて応援してもらうのはどうか」と返答したといいます。

ただ、問題は誰が和ろうそくをフランスに持って行くのか?でした。

知らせを受けて、さっそくJETROが動きました。

高澤さんの代わりにろうそくをフランスに届けることになったのです。

担当者が金沢まで出向いて、高澤さんから被災を免れた段ボール一箱分の和ろうそくを受け取ったのは1月12日。

見本市の開催まで、あと6日。

ギリギリのスケジュールでしたが、なんとか現地で通訳などのアシスタントも増やし、バイヤーへの説明を強化する態勢も築くことができたといいます。

JETRO海外展開支援部販路開拓課長 安宅央さん
「やはり出展なさるというご意思を表明いただいたので、できるかぎりサポートさせていただきたいと思いました。我々としては商品を受け取り現地に運ぶことにしましたが、直接、高澤さんからお話を伺わないと会場でなかなか展示品の説明ができないということもあり、金沢までお伺いし、商品を受け取るとともに詳しくお話を伺ったのです」

復興への願い フランスに灯る

そして迎えた見本市初日の1月18日。

TAKAZAWA CANDLEのブースには、ひときわ目立つ人だかりができていました。

芯からロウまですべて植物由来。

高澤さんの和ろうそくは「自然の恵みを慈しむ」というコンセプトを大切にしています。

タイ人のバイヤー
「見た目の美しさやデザインだけでなく、日本は常に自然との調和を大切にする。そのコンセプトが好きです」

オランダ人のバイヤー
「オーナーがフランスに来られなかったのは残念ですが、メールで直接連絡を取ってみます」

会場で高い評価が寄せられました。

さらに、励ましの声やメッセージも・・・。

「地震以来、あなたたちのことをずっと考えています」。

「日本の人々は我慢強く、互いに助け合えるのを知っています。復興を願っています」。

主催団体も、高澤ろうそくの出展を心から喜んでいる様子でした。

主催団体SAFIのディレクター ギヨーム・プロットさん
「地震で店舗が破壊されるという非常に悲しい出来事があったため、まさか高澤さんが出品してくれるとは想像もしていませんでした。このろうそくは復興への希望そのものです。日本の人々がどれほど困難から立ち直る強さを持っているのか、この見本市に関わる人々に届けるメッセージになるでしょう」

高澤さんは、いまは家族や社員のケアを最優先したいとして、報道機関のインタビュー取材に応じていないということですが、今回の出品についてNHKにコメントを寄せてくれました。

高澤久さん (2019放送 NHK番組より)

「関わって下さった皆様に感謝を申し上げます。関係する人が力を合わせることは、前へとすすむ力となり、確実に復興へと向かっていくと思います。和ろうそくづくりを再開させ、店を再興することは、能登半島地震の復興のひとつの象徴となることだと考えています」

海外バイヤーを魅了する和ろうそく

被災地から届けられた能登の和ろうそく。

地震からの復興を願う「希望の明かり」として、遠く離れたフランスで人々を魅了していました。