香港 高等法院 「恒大グループ」に対し会社を清算するよう命令

香港の高等裁判所にあたる高等法院は経営危機に陥っている中国の不動産大手「恒大グループ」に対し、会社を清算するよう命じました。今後は香港にある資産の売却に向けた準備などが進められる見通しで、今回の命令で不動産不況の深刻さが改めて浮き彫りになった形です。

中国の不動産大手「恒大グループ」は、債務の再編をめぐって債権者と交渉を進めていますが、交渉は難航していて、一部の債権者が香港の高等裁判所にあたる高等法院に、会社の清算を申し立てていました。

高等法院は、先月の審理で結論を出す可能性が高いとしていましたが、恒大側が新たな債務の再編案を提案したため、結論を延期しました。

29日、改めて開かれた審理で、高等法院は債務の再編について、債権者と合意できなかったなどとして、「恒大グループ」に対し、会社を清算するよう命じました。

命令を受け、今後は裁判所から選任された管財人のもとで、債務の返済のため、香港にある資産の売却に向けた準備などが進められる見通しです。

会社の去年6月末時点の負債総額は、2兆3882億元、日本円でおよそ50兆円にのぼっていますが、今回の命令では、中国本土にある資産も売却の対象になるかは不透明で、どこまで影響が広がるかが懸念されます。

中国では、不動産市場の低迷が長期化し、関連する企業の経営不安が強まっていて、今回の判断で、不動産不況が一段と深刻になっていることが浮き彫りになった形です。

香港証券取引所 恒大グループの株価急落 現在は売買が停止

香港証券取引所では恒大グループの株価が急落し、現在は、売買が停止されています。

香港証券取引所では、日本時間の午前10時半から取り引きが始まり、高等法院が恒大グループに対して、会社の清算を命じたことが伝わると、恒大グループの株価は先週末と比べて20%余り急落し、0.16香港ドルまで値下がりしました。

そのあと、香港証券取引所は、恒大グループの株式について、日本時間の午前11時18分から売買を停止すると発表しました。

また、上場しているグループ傘下の不動産管理会社と、電気自動車メーカーの取り引きも停止となっています。

「恒大グループ」とは

「恒大グループ」は、中国広東省の深※センに本社を置く民間の大手不動産開発会社です。

1996年に創業したあと、中国での不動産価格の上昇を背景に、銀行からの多額の借り入れや資本市場からの資金調達などを通じて、国内の各地で積極的に開発を進め、急成長しました。

不動産以外にも事業を拡大し、ヘルスケアや飲料水、EV=電気自動車などの事業のほか、プロサッカークラブの「広州恒大」、今の「広州FC」の運営にも参入しました。

しかし、2020年に中国政府が不動産市場の過熱を警戒して規制の強化を進めたことをきっかけに資金繰りが急速に悪化。

2021年12月にドル建ての債務について、大手格付け会社からデフォルト=債務不履行に陥ったと認定されました。

不動産市場の低迷で業績も悪化し、最終赤字の額は、おととしまでの2年間の合計で日本円で11兆円を超え、去年6月までの半年間でも6700億円余りに上りました。

事業の急速な拡大に伴って負債も膨れあがっていて、去年6月末の時点で負債総額は、2兆3882億元、日本円でおよそ50兆円にのぼっています。

去年8月には、債務の再編を進めるためとして、アメリカの裁判所に連邦破産法15条の適用を申請しましたが、再編をめぐる債権者との協議を相次いで延期。

さらに創業者である許家印会長が当局の強制措置の対象になるなど混乱が続いていて、再建に向け、不透明感が広がっていました。

※センは、「土」へんに「川」

中国の不動産市場 低迷が長期化

中国の不動産市場は、低迷が長期化しています。

1月17日に発表された、去年12月の新築の住宅価格指数は、主要な70都市のうち62都市で前の月から下落しました。

下落した都市の数は前の月から3都市増え、全体の88%余りを占めました。

また、去年1年間の不動産開発投資は、前の年と比べてマイナス9.6%と、2年連続の落ち込みとなりました。

不動産関連企業の業績の悪化は深刻になっていて、不動産大手の「恒大グループ」に続き、去年10月には最大手の「碧桂園」が金融の国際的な委員会からデフォルト=債務不履行に陥ったと判断されました。

不動産関連企業の資金繰りが急速に悪化したことで、住宅の建設が止まり、住宅の購入者への引き渡しが行われない事態も相次ぎました。

このため消費者の間では購入を控えようという動きが広がり、不動産価格がさらに下落するという悪循環に陥っています。

さらに、住宅が売れないことで、建材などに加え住宅に関連する家具や家電といった製品も販売不振が続くなど、影響が広がっています。

中国の不動産は、関連産業も含めるとGDP=国内総生産全体の4分の1程度を占めると試算されていて、市場の低迷が中国経済全体に影響を及ぼしています。

きっかけは中国政府による規制強化

不動産市場の低迷のきっかけは、中国政府による規制強化でした。

住宅価格の上昇を見込んだ投機的な動きによって、いわゆるバブルへの懸念が出て、中国政府は2020年に「住宅は住むものであり、投機するものではない」として規制を強化。

不動産業者に対して負債を一定の規模に抑えることなどを定めた「3つのレッドライン」と呼ばれる基準を示し、守れなかった企業に対しては借り入れ制限を導入しました。

この規制強化の影響で、不動産業界では多くの企業の資金繰りが悪化し、マンション建設の中断や遅れが相次いでいます。

不動産市場の低迷が長引いていることを受けて、去年7月下旬、中国共産党の政治局会議が「不動産政策を適宜調整し、最適化する」と決め、その後、政府は住宅ローン関連の規制緩和などを発表しました。

ただ、その後も不動産市場に改善の兆しが見られなかったことなどから、10月には日本円で20兆円余りにのぼる新規の国債を発行して、地方のインフラ投資を進めることを発表。

中国で予算計画がその年の途中で見直されるのは異例で、市場では、習近平指導部の危機感の表れだという受け止めが広がりました。

さらに去年12月、翌年の経済運営の方針を決める重要会議では、不動産市場の低迷やそれに伴う地方政府の債務問題などのリスクの解消に力を入れる方針を強調しています。

一方で、去年秋に開催されるとみられていた中国共産党の重要会議「三中全会」は、今も開かれておらず、難しい政策運営が求められる中、習近平指導部として効果的な対策のとりまとめに時間がかかっているという見方も出ています。