「阿佐ヶ谷から本屋をなくさない」閉店の本屋を引き継ぐ思い

阿佐ヶ谷で、たった1軒だけになった本屋の明かりが、消えそうになったとき。

街から本屋をなくさないで」という声が、全国各地から相次ぎました。

この話題をニュースでお伝えしてから、2か月あまり。本が好きな人たちの思いは大きなうねりとなり、本屋は街に残ることになりました。

思い出のエピソードとともに

去年11月、東京・杉並区のJR阿佐ヶ谷駅前で43年にわたって営業してきた本屋が閉店することを発表しました。

本屋の名前は「書楽」。

タレントの阿佐ヶ谷姉妹も利用するなど、地元の人にも43年のあいだ愛されてきた本屋の閉店。

SNSの投稿も179万回以上見られるなど、大きな話題になりました。

閉店を知らせる投稿

SNSでは全国から「やめないでください」とか「あまりのショックにことばがありません」など、惜しむ声が相次いでいました。

また、愛読書と出会ったときや、家族に本を買ってあげたときのエピソード、それに、仕事帰りなどに用事がなくても立ち寄る場になっていたことなど、それぞれの思い出が書き記されていました。

街から本屋をなくしてはいけない

本屋がある阿佐ヶ谷は、のちに文豪となる井伏鱒二や太宰治らが「阿佐ヶ谷会」と呼ばれる集まりを開くなど「文士の街」としても知られています。

地域で唯一の新刊を扱う本屋として、阿佐谷ゆかりの作家や作品の取り扱いに力を入れるなど、売れ筋の本だけにとどまらないラインナップが人気を集めていました。

1983年放送 NHK特集に出演した井伏鱒二

本好きが集まった私たち阿佐ヶ谷取材班は、閉店について11月17日の首都圏ネットワークで報じました。

放送からしばらくたったある日。

街から本屋をなくしてはいけないと、書楽を継承しようという動きがあるようだ」という情報が、取材班に寄せられました。

取材を重ねると、大手書店の「八重洲ブックセンター」が閉店後の跡地を譲り受け、営業を開始するということが分かりました。

どんな思いで引き継ぐことを決めたのか。

書店に尋ねると、ファンや出版関係者の後押しが大きかったといいます。

八重洲ブックセンター 佐藤和博 社長
「中央線沿線は、本の作り手である作家の先生や編集者も多く住み、本に対するニーズも高いエリアだと考えています。これまでも出版社などとともに“ワンチーム”で、街の本屋を存続するための横断的な取り組みを進めている中、今回はSNSなどでも大きな声があがり、われわれがご縁があって出店することになりました」

本屋で働いている従業員のうち希望した人は継続して勤務するそうです。

また閉店後、速やかに開店できるよう、本はそのまま引き継がれ、当分の間はレイアウトの変更も行わない方針です。

新しい店は2月10日に開店します。

佐藤社長
「お客様にとって一番身近な存在だったスタッフや、多くのファンがいる取り扱う本のラインナップなどについては、当然引き継いでいくべきだし、引き継いでいかなければわれわれがお受けする意味がなくなってしまう」

継承と、挑戦

全国的に本屋の閉店は、相次いでいます。

日本出版インフラセンターによると、2003年度に2万880店舗あった書店数は、昨年度1万1495店舗。この20年で、半分近くに減りました。
昨年度だけでも、477店舗が閉店したということです。

厳しい状況が続く中、新しく開店する本屋では、新たな“挑戦”も検討しています。

その一つとして、今後、キャシュレスセルフレジなどを使って「無人書店」にする時間帯を設けることができないか、検討しているといいます。

無人書店 イメージ 左端にあるのがセルフレジ

さらに、本の作り手と読み手の距離をより近づけられるような、地域コミュニティーの場にしていくことも検討しています。

すでに、近隣に住む作家などからサイン会やワークショップなどへの協力の声も寄せられているそうです。

佐藤社長
「本屋は、衣食と同じような、社会的なインフラです。そしてネット書店では経験できない、偶然の本との出会いがあります。品ぞろえや雰囲気は今の書楽さんが作っていただいているところに、きっちりと上積みをしていく。今回の新店の開店は、すべての方たちの思いが一つになった結果です」

閉店まで2日 書楽では

閉店まで、あと2日となった今月29日、私たちは再び本屋を訪れました。

朝から多くの人たちが本を買い求めていて、レジでは「あと2日ですね」など、惜しむ声も聞かれました。

常連客
「街の本屋さんは、気楽に立ち寄れて気楽に買えて、街の文化を支えている重要なものなので、これからもがんばってほしい」

常連客
「引き継いでくれるところがあってすごくうれしいし、よかったと感じています。書楽がすごく好きだったので、それを受け継いでほしいなと思います」

書楽 石田充 店長
「お客さんから『さみしかったときに店に来てさみしさを紛らわせた』とか『ただ本を売る場ではなくて、よりどころになっていた』という話を聞くと、すごくうれしかったです。書楽の名前はなくなってしまうんですけど、よりよい本屋になるように、頑張ります」

皆さんは最近、本を読んでいますか?
本屋での思い出はありますか?

(阿佐ヶ谷取材班:石川由季)

ちなみに地名は「阿佐谷」、駅や姉妹は「阿佐ヶ谷」です。