医師の働き方改革 長時間労働を防ぐ対策急ぐよう国に要請

ことし4月から始まる勤務医の労働時間に上限を設ける「医師の働き方改革」について、実態に見合わない労働時間の算定が広がるおそれがあるとして、医師らでつくる組合や過労死した医師の遺族らが国に対し、労働時間を適正に把握し、長時間労働を防ぐ対策を急ぐよう要請しました。

要請したのは千葉県船橋市にある「船橋二和病院」の医師らでつくる労働組合と過労死の問題に取り組む医療関係者です。

4月から勤務医の労働時間の上限規制が始まるのを前に、多くの医療現場では、一定の条件を満たすと夜間や休日の当直勤務にあたる時間帯を特例として労働時間から除外する「宿日直許可」の取得が進んでいますが、組合では実態に見合わない許可の申請や運用もあると指摘しています。

また、医師の業務量は大きく変わらず、負担は減っていないとして、厚生労働省に対し
▽医師の労働時間を正確に把握する実態調査を行うことや
▽長時間労働を減らすため医師の数を増やすことなどを要請しました。

また、26日は、25年前に小児科医の夫を過労自殺で亡くした中原のり子さんも参加し、「医師労働のシステムエラーで起きている過労死の実態を見過ごさないでほしい」と訴えました。

労働組合の飯田江美執行委員長は「厚生労働省は過労死を二度と起こさないという立場で、先頭に立って医師の労働実態をつかんでほしい」と話していました。

取得急増の「宿日直許可」

医師は患者から診療を求められた場合には応じなければならないという「応召義務」があり、特に夜間・休日の当直勤務が長時間労働の一因となっています。

こうした中、一定の条件を満たして労働基準監督署に認められれば、夜間や休日の勤務時間が“労働時間”から除外される「宿日直許可」の取得が医療機関で相次いでいます。

厚生労働省によりますと、全国の医療機関で「宿日直許可」を認めた件数は、4年前の2020年が144件、翌年は233件だったのに対し、おととしは1369件と、急激に増加しています。

勤務しても「労働時間」ではない?宿日直許可の仕組みとは

では「宿日直許可」とはどのような仕組みなのか。

通常、夜間・休日に勤務した時間は“時間外の労働時間”に応じて割増賃金が支払われますが、「宿日直」とした場合には“労働時間”としてカウントされなくなります。

例えば、午後7時から翌朝午前7時まで当直勤務に入ったとすると、通常は「12時間」の時間外労働に対して割増賃金が支払われますが、「宿日直」の場合は1回の勤務に応じた手当などが支払われる一方、労働時間としてはゼロとみなされます。

許可が取得できるのは労働基準法の41条に定められていた「監視断続労働」にあたる場合で、厚生労働省の許可基準によりますと、ふだんの業務とは異なり、軽度または短時間の業務で十分に睡眠時間を確保できる場合に限られるとということです。

医師の場合には夜間や休日に「少数」の軽症の外来患者や入院患者に診察を行うことなどが想定されていて、「まれ」に患者の入院などの対応をすることがあっても許可を出すことができるとされています。

ただ、何人ぐらいの患者が「少数」でどれぐらいの頻度を「まれ」とみなすかどうかは、明確にはされていません。

こうしたことから、医師らでつくる労働組合などは、制度の運用が現場の実態に即していないケースがあると指摘しています。