国際司法裁 イスラエルに暫定措置命じるも軍事作戦停止命じず

イスラエル軍によるガザ地区への攻撃が、パレスチナ人に対するジェノサイド、集団殺害などにあたるかどうかが争われている訴訟で、国際司法裁判所はイスラエルに対して、判決を言い渡すまでの間、住民の大量虐殺などを防ぐため、あらゆる手段を尽くすという、暫定的な措置を命じました。一方で裁判所は焦点となっていた軍事作戦そのものの停止は命じませんでした。

この訴訟はイスラエル軍がガザ地区で続けている軍事作戦について、南アフリカが12月、パレスチナ住民の集団殺害などにあたり、ジェノサイド条約に違反しているとして、オランダ・ハーグにある国際司法裁判所に訴えていたもので、判決までの暫定的な措置として軍事作戦の即時停止を命じるよう求めていました。

裁判所は26日、イスラエルに対して、ガザ地区の住民の大量虐殺などを防ぐため手段を尽くすことや、ガザ地区に確実に人道支援が届くようにすることなどを暫定的な措置として命じました。

一方で裁判所は焦点となっていたガザ地区での軍事作戦の停止までは命じませんでした。

裁判所の命令を受けて、国際社会からはイスラエルに対してガザ地区の住民の安全を守るよう求める声が上がっていますが、一方で裁判所には強制的な執行力がないだけに、今後はイスラエルが実際に命令に従い、多くの住民の犠牲を出してきた軍事作戦のあり方を見直すかが焦点となります。

南アフリカ国際関係・協力相「措置機能させるには停戦必要」

イスラエルがジェノサイド条約に違反しているとして国際司法裁判所に提訴した南アフリカのパンドール国際関係・協力相はハーグの国際司法裁判所の前で記者団の取材に応じ、「われわれの主張に基づいた措置が命じられたことに満足している。この措置を実行し、機能させるためには停戦が必要となる」と述べ、イスラエルに対し改めて停戦の必要性を訴えました。

また、南アフリカのラマポーザ大統領は、国際司法裁判所が命じた暫定的な措置について、国民向けに演説し、「これは国際法や人権、そして正義の勝利だ。国際司法裁判所が大多数の判事の賛成で措置を命じたことを歓迎する。裁判所の命令がパレスチナの人々に苦痛を強いているこの危機を終わらせる道を開くことを願っている」と述べました。

南アフリカ政府はパレスチナの占領や、ガザ地区の封鎖を続けるイスラエルを、かつてのアパルトヘイト=人種隔離政策と同じだと以前から非難していて、パレスチナを支持する姿勢をとっています。

イスラエル ネタニヤフ首相「ユダヤ人国家への差別 拒絶する」

イスラエルのネタニヤフ首相は国際司法裁判所が命じた暫定的な措置について26日、動画で声明を出し、「イスラエルは国際法を守るのと同様に自分たちの国を守る義務も果たし続ける。このイスラエルの基本的な権利を否定することはユダヤ人の国家に対するあからさまな差別であり、拒絶する」と述べ、イスラム組織ハマスに対するガザ地区での軍事作戦はイスラエルの自衛権の行使だと強調しました。

その上で、「われわれはハマスに対して戦争をしているのであって、パレスチナの市民に対してではない。ハマスが市民を『人間の盾』に使おうとも、イスラエルは人道支援を機能させ、市民への危害を可能な限り避ける努力を続ける」と述べ、市民の安全に配慮していく姿勢も示しました。

パレスチナ暫定自治政府 マリキ外相「暫定的な措置を歓迎」

パレスチナ暫定自治政府のマリキ外相は国際司法裁判所が命じた措置について動画で声明を発表し、「国際司法裁判所が命じた暫定的な措置を歓迎する。各国はイスラエルのガザ地区のパレスチナ人に対するジェノサイド的な戦争を止める明確な法的義務を負ったことになる」と述べ、各国にイスラエルへの圧力を強めるよう呼びかけました。

国際司法裁判所とは

オランダのハーグにある国際司法裁判所は国連の主要機関のひとつとして1945年に設立され、国連加盟国の間の紛争を国際法に基づいて解決することや、国連機関などの要請に基づき法的な問題について勧告的な意見を出すことを目的としていて、これまでにおよそ200件の事案が付託されてきました。

このうち、1996年には裁判所は核兵器による威嚇や核兵器の使用について、「一般的に国際法に違反する」などとする勧告的意見を出しました。

また、裁判所は判決を出すまでの間に訴訟の当事国に対して暫定的な命令を出すこともあり、おととし3月には、ロシアによる軍事侵攻について裁判所は「国際法に照らして重大な問題を提起している」として、ロシアに対して軍事行動の停止を求める暫定的な命令を出しましたが、ロシアはこれに応じていません。

裁判所前でパレスチナ支持者らが抗議

国際司法裁判所がイスラエルに対して軍事作戦の即時停止を命じなかったことを受けて、裁判所前にはパレスチナを支持する人たちが集まり、「今すぐ停戦を」とか「ジェノサイドを止めろ」などと声をあげました。

パレスチナ出身で、ガザ地区にいる家族を亡くしたという男性は「裁判所が停戦を命じなかったことに失望した。ジェノサイドが引き続き行われることになる」と話していました。

一方、オランダで生まれ育ったエジプト系の女性は「今回の命令でイスラエルのふるまいが変わるとは思わない」としながらも、「オランダなどイスラエルを支持してきた国に対しては今回の命令が影響力をもつことを期待する」と述べ、国際社会が民間人の被害を減らすためにイスラエルに対し、より圧力をかけることに期待を示しました。

ガザ地区南部で避難生活を送る人たちからは不満の声

イスラエル軍の攻撃が続くガザ地区南部のラファで避難生活を送る人たちからは、国際司法裁判所が軍事作戦の停止を命じなかったことに不満の声が聞かれました。

このうち、南部ハンユニスから避難している男性は「国際司法裁判所の判断はパレスチナの人々に不公平でイスラエル軍の利益になるものだと思う」と話していました。

また、北部のガザ市から避難している別の男性は「ある国が別の国を攻撃していたら、国際司法裁判所は被害を受けている側の立場で判断をするべきだ。私には裁判所が政治的になっているように思える」と不満を訴えていました。

エルサレムに住むパレスチナ人「完璧ではないが正しい方向」

国際司法裁判所がイスラエルに対して暫定的な措置を命じたことについて、エルサレムに住むパレスチナ人の男性は「ICJの決定は完璧なものではないが、正しい方向だと思います。これによってイスラエルはパレスチナの人々に対する戦争犯罪者という立場におかれました」と話していました。

一方で、エルサレムに住むイスラエル人の男性は「イスラエルはガザの人々ではなくハマスと戦っています。裁判所は戦争をやめるのではなく、イスラエルにジェノサイド=集団殺害をしないよう命じたということですが、イスラエル軍の行為はジェノサイドではないので問題はありません」と話していました。