京アニ事件 青葉被告 裁判所が認定した事件のいきさつとは

なぜ、青葉被告は事件を起こすに至ったのか。

裁判所は、判決理由の中で、事件の背景として「人間関係で嫌なことがあれば、関係を切り、周囲から孤立を招いたことや生活の困窮が影響していることも否定できない」と指摘しました。

被告の生活歴や事件に至るいきさつについて、裁判所は幼少期の生い立ちから事実の認定を行いました。この中には被告が妄想で考えた内容も含まれているとしています。

父親からの虐待・不登校

被告は、両親が離婚したあと、父親ときょうだいとともに生活するようになりました。

中学2年生のころまで、父親からほうきの柄でたたかれるなどの暴力や柔道大会で準優勝してもらった盾を燃やすように言われるなど、身体的・心理的虐待を受けていたとしています。

また、このころには経済的な困窮を理由として転居し、転校後の中学校で不登校となったといいます。

中学時代の被告

その後、4年制の定時制高校に入学した被告は、埼玉県庁やガソリンスタンドなどでアルバイトをしながら皆勤で卒業します。

そして、複数のコンビニでアルバイトをしていましたが、仕事を押しつけられたり、同僚から店長に告げ口されて退職を余儀なくされたりするなどしたといいます。

裁判所はこれらの経験を踏まえて「被告は話し合いで解決しようとしても無駄であるという『言っても無駄だ』、悪いことをされたら仕返しで解決するという『やられたらやり返す』、知らないのひと言で済ませるのは無責任で悪である『知らないのは悪だ』などの考えを持つに至った」と指摘しています。

その後、派遣社員として複数の工場を転々としましたが、30歳前後から無職となって生活保護を受給し昼夜逆転した生活を送るようになりました。

青葉被告 京アニに感銘を受け…

そうしたなか、京アニが制作したアニメを目にした被告は感銘を受けたといいます。

そして、「作家であれば、人と関わらずに生活していける」と考え、京アニの作品をまねた小説を書き始めるようになりました。

2016年には京アニが設けた小説のコンクールに、短編小説と長編小説を応募します。

しかし、努力して執筆した小説がいずれも落選してショックを受けるとともに、「京アニが小説のアイデアを盗用した」と考えて恨みを抱くようになったといいます。

その後、被告は、これらの小説をインターネット上のサイトに投稿しましたが、誰も読んでくれなかったことから、小説や京アニとの関わりを断とうと考えたといいます。

そうした中、京アニのアニメを目にした際に、再び自分のアイデアが盗用されたと感じ、「関係を断とうとしているのに、アイデアの盗用をやめないなら、放火殺人までしないと京アニから離れられない」と感じて恨みを増幅させたということです。

深まる社会からの孤立

同時に被告は、「周囲からの孤立」を深めていきました。

小説の応募と前後して、埼玉県内のアパートで生活保護を受給しながら精神科に通院し、訪問看護を週2回受けたり、就労継続支援事業所に週4回通うなどして生活していました。

しかし、訪問看護師を「公安警察」と疑って胸ぐらをつかむことなどがあり、その後、就労継続支援事業所への通所や精神科への通院をやめたほか、訪問看護などにも対応しなくなったといいます。

携帯電話も解約するなど、さらに社会から孤立したとしています。

京アニへの恨みを強め京都へ

京アニへの恨みを抱き続けていた被告は、「小説のアイデアの盗用が大量殺人を引き起こす結果となることを京アニに伝える」などと考えたといいます。

事件の1か月前の2019年6月、包丁6本を購入し、無差別に多数の通行人などを殺害しようと、さいたま市の大宮駅に向かいましたが、人が少なかったことから断念したということです。

翌月の7月、自分は孤立して生活が困窮していくなか、自分の小説を落選させたうえに、アイデアの盗用を続けて利益を得ている京アニなどへの恨みを強め、放火殺人までしないと盗用が終わらないと考えて、今回の事件を決意し、京都に行くことを決めたとしています。

裁判所「生活困窮から追い詰められた状況 犯行の背景に」

裁判所は、こうしたいきさつを踏まえ「現実の生活困窮から追い詰められた状況が犯行の背景要因になり、その生活困窮には妄想により周囲からの孤立を招いたことが影響していることも否定できない」としています。

それでも、訪問看護師が被告と接触する方法を模索するなど、被告のために尽力していたことがうかがえるとしたうえで、「妄想の影響はあるにしても、最終的には人間関係で嫌なことがあれば関係を切るという被告の考え方から、みずからその支援を断ち切った」と指摘しました。

また、裁判所は「幼少期の父親からの虐待の影響もあって、独善性や、さいぎ心が強く攻撃行動をしやすいなどの性格傾向が形成され、犯行に影響した可能性は否定できない」としましたが、「アルバイトや派遣など社会経験をし、事件当時41歳であったことからすれば、影響の程度は限定的だ」とも指摘しました。