自民 政治刷新本部 中間とりまとめ決定“カネと人事から決別”

自民党は、派閥の政治資金パーティーをめぐる事件を受けて「政治刷新本部」の中間とりまとめを決定しました。派閥は本来の「政策集団」に生まれ変わるため、カネと人事から完全に決別するなどとしています。

自民党は25日午後、党本部で岸田総理大臣も出席して臨時の総務会を開き「政治刷新本部」の中間とりまとめを決定しました。

中間とりまとめでは、今回の事件について「自民党として真摯(しんし)に反省するとともに国民に深くおわびし、関係者による明確な説明責任に加え、政治責任についても結論を得る」と明記しています。

そして、政治資金の透明性を高めるため、
▽派閥の収支報告書の提出にあたっては、外部監査を義務づけ、
▽会計責任者が逮捕・起訴された場合は、議員を処分できるよう、党則を改正するとしています。

また、
▽国会議員の政治資金パーティーの収入は、銀行振り込みを基本とし、
▽収支報告書はオンラインで提出するとしています。

そして、
▽各党と真摯な協議を行い、政治資金の透明化や公開性の向上、逮捕された議員の報酬のあり方などについて政治資金規正法の改正など必要な法整備を速やかに行うとしています。

一方、派閥については本来の「政策集団」に生まれ変わるため、カネと人事から完全に決別すると説明し、具体的な方策として、
▽政治資金パーティーの開催を禁止し、
▽冬と夏に派閥を通じて議員に配る活動費、いわゆる「もち代」と「氷代」を廃止するとともに
▽活動を党本部で行うなど政治資金を最小限に抑える工夫をするとしています。

さらに、
▽人事の働きかけや協議は行わず
▽政治資金規正法違反などが明らかになった場合は、党が審査し、事案に応じて解散や一定期間の活動休止を求めることも盛り込んでいます。

総務会で岸田総理大臣は「私自身が先頭に立って、まずは中間とりまとめの内容を実行する努力を続けていかなければならない。政治改革に終わりはなく、政治と党の信頼回復のために議論を続けていかなければならない」と述べました。

パーティー収入 公表義務づけ基準緩く「透明性低い」指摘も

自民党の派閥にとって、最大の収入源となっているパーティー収入は、寄付と比べて収支報告書に名前などの公表が義務づけられる基準が緩いため、透明性が低いと指摘されてきました。

政治資金規正法では、
▽寄付の場合、年間5万円を超えれば、収支報告書に寄付した側の名前や金額などを記載して公表する必要がありますが、
▽パーティー収入の場合は、1回の購入額が20万円を超えていなければ、公表の義務はありません。

自民党の主要5派閥のおととしのパーティー収入について、先月時点の政治資金収支報告書をもとにNHKが調べたところ、85%にあたるおよそ7億6000万円分が1回20万円以下の購入者からの収入とされ、匿名になっていました。

政治資金パーティーの収入の大部分は、どんな企業・団体や個人からのものなのかが分からないため、いわばブラックボックスになっているという指摘があり、口座などを通さず現金でやり取りされれば、記載内容が正しいのかどうか検証するのは難しいのが現状です。

組織的な裏金作りの背景の1つには、こうした透明性の低さがあったと考えられます。

カネと人事「改革」 過去にも

政治刷新本部の中間とりまとめで、派閥は、「カネと人事から完全に決別する」とした自民党。これまでの政治とカネの問題をめぐっても、派閥の政治資金や人事への関わりなどについて「改革」を訴えていました。

1988年に発覚したリクルート事件では、企業から政治家への巨額の献金が大きな問題となり、自民党は翌年、『政治改革大綱』を決定します。

大綱では、「政治とカネの問題は政治不信の最大の元凶」だとしたうえで、「改革」の一環として、閣僚、派閥などによるパーティーの開催自粛を徹底すること、寄付やパーティー収入といった政治資金の公開をさらに進めることなどをうたいました。

また、「政治資金との関わりや、人事への介在、派閥本位の選挙応援などさまざまな弊害を生んでいる」として、「派閥解消の第一歩」とすること、総裁をはじめ党幹部や閣僚が在任中、派閥を離脱することなどを掲げました。

しかしその後も、政治とカネをめぐる問題は、繰り返され、3年後の1992年、自民党は、「巨額な政治資金問題や、派閥にとらわれた政治活動など、国民の視点と離れたところで政治が終始している」などとして、『政治改革の基本方針』をとりまとめました。

この中で、人事については公正な適材適所主義を貫き、派閥の推薦は認めないこと、派閥による資金調達を制限し、党から国会議員個人への助成は、派閥を経由せずに直接行う方針なども示していました。

また、「透明で疑惑を招かない政治資金の仕組み」を実現するとして、寄付やパーティー収入の公表基準の厳格化を目指すことも方針として掲げました。

その後、企業・団体献金の規制や、政治資金の収入の公表基準の引き下げといった法改正が行われましたが、結果として、派閥による組織的な裏金づくりを防ぐことにはつながりませんでした。

法改正と高まるパーティー比重

『政治資金規正法』は、「政治資金の流れを国民に公開することを通じて政治活動の公正と公明を確保し、民主政治が健全に発達するようにすること」を目的として1948年に議員立法で成立しました。しかし、抜け穴が多い「ザル法」と指摘され、政治とカネをめぐる問題がおきるたびに法改正が繰り返されましたが、問題の抜本的な解決にはつながりませんでした。

1975年、後にロッキード事件で逮捕された田中角栄元総理大臣の金脈問題や、金権政治に批判が集まる中、企業・団体からの寄付に年間の上限額を設けるなど、量的な制限が導入されました。

1988年に発覚したリクルート事件に端を発し、国民の政治不信がかつてないほどに高まると、政治資金の調達を政党中心に改め、透明性を高めることを目指した制度改革が進められ、企業・団体献金の規制が強化されていきました。

1994年には、政党に対して国が政党交付金を出すことなどを定めた「政党助成法」が成立した一方、政治資金規正法の改正で、派閥が企業・団体からの寄付を受けることはできなくなりました。

ただその後も、派閥がパーティー券を売るという形で、企業・団体から資金を受けることはできたため政治団体のパーティー収入の比重が高まる中で、「事実上の企業・団体献金だ」と指摘されてきました。

おととし、令和4年分の政治資金収支報告書によると、自民党の主要5派閥すべてで、政治資金パーティーが最大の収入源となっています。

「中間とりまとめ」のポイントは

自民党が決定した「中間とりまとめ」では、派閥については、本来の政策集団に生まれ変わるため、カネと人事から完全に決別すると明記しました。

派閥について、政治資金パーティーを禁止するなど、新たなルールを設けることで存続を認め、全廃までは踏み込まなかった格好です。

今後、これまで派閥の推薦を踏まえて行ってきた閣僚や副大臣といった政務三役の人事の調整などを、党がどのように一元的に実施するのか検討される見通しです。

一方、政治資金規正法の改正などについては、各党との真摯な協議を経て、必要な法整備を速やかに行うとしています。

法改正の具体的な内容を盛り込まなかった理由について「政治刷新本部」の役員の1人は「与野党協議に予断を与えないよう記載は控えた」と説明しています。

自民党内では
▽パーティー券の購入者の名前などを収支報告書に記載しなければならない金額の引き下げや
▽悪質な会計処理があった場合、政治家も責任を負う制度の導入などが検討されていて、
具体的な制度設計などをめぐり議論が行われる見通しです。

岸田首相「安倍派幹部 関係者に説明責任促す」

岸田総理大臣は記者会見で記者団から、安倍派幹部の政治責任の取り方に対する認識を問われ「まずは関係者に明確な説明責任を党としても促していくことが第一だ。そのうえで、党としてもできるかぎり事実関係の把握に努めていかなければならない」と述べました。

首相「信頼回復へ議論リードし 政治責任果たす」

岸田総理大臣は記者会見で、岸田派が検察に立件されたことによる自身の政治責任について「宏池会の収支報告書の不記載について、しっかり説明を行ったうえで謝罪し、けじめということで派閥自体を解消する決定を行った。党全体の信頼回復に向けて政治刷新本部の本部長として議論をリードし、結果を導くことを通じて、みずからの政治責任を果たしていきたい」と述べました。

そして、議員辞職する考えはないか記者に問われたのに対し「申し上げた形で責任を果たしていきたい」と述べました。

首相「法改正など 各党との議論に貢献したい」

岸田総理大臣は記者会見で、記者団から政治資金収支報告書に虚偽記載があった場合に国会議員も責任を負う「連座制」の導入についての考えを問われ「自民党の『中間とりまとめ』には、制度面での改善に努めなければならないとある。政治資金規正法など、どのような改正を行うべきか、自民党としても各党との議論に貢献していきたい」と述べました。

無派閥 石破元幹事長「派閥は相当変わるだろう」

無派閥の石破元幹事長は、記者団に対し「私は『派閥は権力獲得集団だったので、カネと人事を遮断すれば相当変わっていくだろう』という話をして了承した。これまでは派閥が金を集めていたのだから、党が集めたものをどう公平に配分するかというシステムがなければならない。人事も多くの人が納得する評価の仕方を具現化する党改革を早急にやっていく必要がある」と述べました。

二階派 金田元法相「一丸となり実行に移せるかが大事」

二階派の金田元法務大臣は、記者団に対し「きょう了承されたのは『中間とりまとめ』なので、今後の具体化が求められる。みんなが一丸となって実行に移していけるかが大事だ」と述べました。

無派閥 逢沢一郎元国対委員長「国民に伝える努力を」

無派閥の逢沢一郎 元国会対策委員長は、記者団に対し「相談などのために政治家が集まることはあるだろうが、今までの派閥はなくなり、人事とカネからは遮断された政策集団になることを、きちんと国民に伝える努力をしなければならない」と述べました。

一方、立件されていない安倍派幹部の処分が検討されていることについて「政治家はみずから説明責任を果たし、出処進退も判断するのが大原則で、いまその局面にあるのではないか。ただ、国民が納得できない状況が残るのであれば党として一定の判断をすることも必要になる」と述べました。

安倍派 大西英男衆院議員「安倍派幹部 十分責任を果たした」

安倍派の大西英男衆議院議員は、記者団に対し「私からは『とりまとめた内容を絵に描いた餅にしたら、次の衆議院選挙で国民から厳しい審判を受ける』と発言した。ほかの出席者は『派閥が残ったと国民に誤解される』と異議を唱えたが、岸田総理大臣がみずから『派閥の存続は全く考えていない』と説得し、全会一致となった」と述べました。

また、立件されていない安倍派幹部を党が処分すべきかを問われ「主要な幹部は記者会見を開き、閣僚や党役員も辞職しており、私は十分責任を果たしたと思っている」と述べました。