能登半島地震 関心高まる「液体ミルク」

能登半島地震 関心高まる「液体ミルク」
多くの人が避難生活を余儀なくされている能登半島地震。

赤ちゃんがいる家庭では、衛生面など気を遣うことも多い中、災害に備えて関心が高まっているのが、お湯や水がなくても赤ちゃんにそのまま飲ませることができる「液体ミルク」です。

1歳児を子育て中の記者が、液体ミルクを取り巻く現状を取材しました。

最後に、メーカーに教えてもらった、災害時の液体ミルクの与え方も紹介しています。

(経済部記者 佐野裕美江)

被災地に液体ミルクの支援

赤ちゃん連れで避難生活を送る場合、衛生面などとともに、どうやって授乳するかも課題となります。

避難所で母乳を与える場合、プライバシーを守り、安心して授乳できる環境を整えることが、まずは重要です。

被災した際に、粉ミルクを与えようと考えると、赤ちゃんに飲ませる前に、哺乳瓶を消毒し、計量した粉を入れ、お湯や水で溶かして、人肌まで冷ます、といった作業が必要です。

断水などが続く被災地では、こうした作業を行うのは難しいのが実情です。

こうした中で、関心が高まっているのが、清潔な哺乳瓶などは必要ですが、缶やパックなどの封を開けたら、常温でそのまま赤ちゃんに飲ませることができる「液体ミルク」です。

消費者庁の資料では「液体ミルク」について、「赤ちゃんにとって最良の栄養は母乳ですが、母乳が不足した場合、母乳継続が困難な場合に母乳の代替品として使用することができるもの」とし、使用前には、医師などの専門家に相談するよう呼びかけています。
こちらは、石川県七尾市に届けられた液体ミルクです。

能登半島地震では、被災地からの要望を受けて、メーカー各社が、避難所などに液体ミルクを提供していて、その数は、これまでにおよそ3万本に上ります。

メーカーのもとには、被災した人から「水が止まっても使えて重宝している」といった声が寄せられていると言います。

また、今回の地震を受けて、被災地以外でも、自宅などに液体ミルクを備蓄しておきたいというニーズが高まっていて、メーカー各社が対応に乗り出しています。

「明治」は、1月に入ってからの注文が、前の月のおよそ2倍で推移していることから、生産日数を増やしているほか、「江崎グリコ」も、1月上旬の出荷額が前の年の2倍あまりに増えていることから、生産計画を前倒しして対応している、ということです。

液体ミルク、保存性高めるには

赤ちゃんに、常温でも与えられる液体ミルク。

どうやって保存性を高めているのでしょうか。

今回、私は、群馬県伊勢崎市にある、明治の工場を取材で訪れました。
外から雑菌を持ち込まないよう、ヘアネットや白衣を身につけ、手洗いに消毒、服についた細かなほこりを落とすなどの対応をした後、製造現場の中に入らせてもらいました。

生産工程は、まず乳糖などの原材料をお湯でとかし、缶に充填しふたをします。

ふたをされた缶は、工場内のラインを流れながら、缶のまま加熱処理で殺菌され、完成です。
この会社は、頑丈なスチール缶に入れたあと殺菌することで、保存性を高めることができたと話しています。

各社によって工程は異なりますが、国内で販売されている液体ミルクは、9か月から1年半、保存が可能となっています。

きっかけは東日本大震災や熊本地震

授乳のたびに作る、という作業を省くことができる液体ミルク。

国内で広く知られるようになったのは、東日本大震災や熊本地震などの災害がきっかけでした。
当時は、国内での製造・販売が認められていませんでしたが、断水などが続く被災地に、海外から支援物資として送られ、その利便性の高さが注目を集めました。

災害時の必要性に加えて、その手軽さから、共働き世帯などからも商品化を求める声が高まり、2018年8月に、国内での製造・販売が解禁。

その後、乳業メーカー各社が、相次いで商品を発売しました。

備蓄率は徐々に伸びるも…

液体ミルクの製造・販売が国内で解禁されてから5年あまり。

粉ミルクに比べると割高な価格もあって、普段使いをする家庭は限定的とみられていますが、災害に備えて、各地の自治体が備蓄する動きは徐々に広がっています。

去年6月から7月にかけて、メーカーなどが全国1741の自治体を対象に行った調査によると、半数近い、47.5%の自治体が「みずから購入して液体ミルクを備蓄している」と回答しました。

このほか、メーカーや小売店などと災害時に提供してもらう協定を結んでいる自治体も含めると、全体の72%が災害時に液体ミルクを確保できる状態にしているということです。

一方で、残りの自治体にとって、備蓄にあたっての課題は何なのか。

調査では、ほかの備蓄品に比べた、賞味期限の短さを挙げる回答が多く寄せられました。

複数年の保存が可能なことが多い、ほかの備蓄品に比べると、液体ミルクは、賞味期限切れで廃棄する可能性が高いため、備蓄に二の足を踏んでいることがうかがわれます。

また、メーカーによると、粉ミルクに比べて、液体ミルクは、保管スペースをより広く確保する必要があることも課題になっているということです。

このうち賞味期限の課題について、備蓄を始めている自治体の多くは、期限が迫ったものは廃棄せずに、希望する施設や団体に配布するなどして有効活用し、代わりに新しいものを備蓄することで、対応していると言います。

また、メーカーは、備蓄のすべてを液体ミルクにするのではなく、粉ミルクも一緒に備蓄することで、課題の解決につなげてほしいとしています。
明治 乳幼児ミルクのマーケティング担当 江原 秀晃さん
「備蓄する場合、保管スペースや予算に限りがあるので、全部を液体ミルクにするというのは難しいと思うが、例えば災害発生直後の期間は液体ミルク、その後の分として粉ミルクを備蓄するなど、使い分けをすることで備蓄率をどんどん上げていってほしい」

日頃の備え、改めて考える機会に

今回の地震では、道路が寸断されて孤立状態が続いたり、断水が長期化したりするなど、日頃からの備えの必要性を改めて考えさせられました。

私自身も、子どもが生まれて、初めて液体ミルクの存在を知り、防災リュックの中に保管しています。

自治体での備蓄も重要ですが、それぞれの家庭によって必要なものは異なるので、いざ災害が起きた時に、どういう事態が想定され、どういうものを手元に備えておく必要があるのか、各家庭で考えておく必要があると感じました。

災害時の液体ミルクの飲ませ方

今回の取材では、災害時に、哺乳瓶の洗浄や消毒などができない時、液体ミルクをどう飲ませたらいいのか、メーカーの担当者に教えてもらいました。
使うのは使い捨ての紙コップで、以下のような流れで赤ちゃんに飲ませます。
【1】コップ半分の高さまでミルクを注ぐ

【2】赤ちゃんを布やタオルで包む

【3】よだれかけをあごに挟む

【4】赤ちゃんを抱っこする

【5】コップを赤ちゃんの下唇にあてる

【6】コップをゆっくり傾ける
哺乳瓶と違って、たくさんの量が流れ込んでしまうおそれもあるので、「飲ませる」というより、赤ちゃんの唇をミルクでぬらすぐらいの感覚で与えるのが、コツだそうです。

使い捨ての紙コップがあれば、その都度、新しいものを使えるので、清潔な状態でミルクを飲ませてあげることができるということでした。

ただし、飲み残しは雑菌が繁殖しやすいので、飲ませないで捨ててほしい、と話していました。
経済部記者
佐野裕美江
青森局やむつ支局を経て現所属
1歳の男の子を子育て中